表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/183

幼い日の事

 その日私は遠い昔の懐かしい夢を見ました。その夢は私が幼い頃の夢で、まだ父も母も生きていて一緒に過ごしていた時のものです。いつものように朝起きて父が仕事に出かけていき、家の中で母と一緒に父の帰りを待つといった暮らしをしていました。父と母は元々冒険者でしたが結婚して私を身篭った時に引退していました。私は父が出かけている間、母の家事のお手伝いや母から勉強を教わっていて、裕福とまではいかないですがそれでも十分に幸せでした。


 ある日の事、仕事で出かけていった父がいつもは夕方くらいに帰ってきていたのですが、その日に限っては昼前に帰ってきたのです。仕事の関係で子守を任されたみたいで、私と年齢が同じくらいの男の子と女の子が家にやってきました。その2人は私や両親と違って頭の上に耳や、腰の後ろ辺りからふさふさの尻尾が生えている獣人族という事を教えてもらいました。


「シェリー、今日から昼間の間だけ暫くうちで預かることになったお兄さんのガベル君と妹のアペルちゃんだ。仲良くしてあげてくれ」


 紹介されたあーちゃんがにこりと笑いこちらへ歩いてきますが、ガベル君はそれを見て少し怖い顔で睨み付けてきました。


「一緒に遊ぼ?」


「う、うん」


 あーちゃんが私の手を取り、玄関から外に出て庭で遊ぼうと一緒に向かいました。その後を追いかけてきたガベル君が繋いだ手を引き離そうとしてきます。


「獣人族と人族が仲良くなれる訳がない!俺は知ってるんだぞ、これから戦争っていうのが始まるんだ!」


 その時は戦争というものが何かは分からなかったのですが、あーちゃんがガベル君を叱責すると、それからはガベル君は庭の端の方で遊ぶ私達を眺めているだけになりました。


「何して遊ぼうか?えっと……お名前なんだっけ?」


「シェリーです」


「セリーちゃん?」


 この頃あーちゃんは上手くしぇの発音が出来ないみたいで、考えた末に私の事をしーちゃんと呼び、それに合わせて私もあーちゃんと呼ぶようになります。


 毎日遊んでいる最中、時折我慢出来なくなったようにガベル君が邪魔しに来ましたが、あーちゃんがガベル君を追い返していました。その頃はガベル君の事が少し怖かったですが、私はあーちゃんに聞いてみたのです。ガベル君と一緒に遊ばなくて良いのかと。その問いに対して帰ってきた言葉は、いつも一緒に遊ぶ女の子がお兄ちゃんを見ると怖がるので、今回も女の子同士だけで遊ぼうと思ったそうです。確かに女の子は女の子同士、男の子は男の子同士でよく遊ぶのが多いと思います。けれど今回は3人しか居ないのですから一緒に遊んだほうが良いのではないでしょうかと思いましたが、ガベル君と目が合う度に睨み付けられるので怖くて近付けなかったのです。


 それからというもの毎朝、父が出かけた後すぐに2人を連れて帰ってきました。あーちゃんと遊んで時間を過ごし、それを見守るガベル君。夕方遅くになると父が再び2人を送りに出かけてまたすぐに帰ってくるその繰り返しでした。


 ある日ガベル君が凄い形相で私の目の前に立ち塞がりました。ガベル君に恐怖心を抱いていた私は声にならない声が口から漏れ、ただ立ち尽くしてガベル君が何かするのをひたすら待ち受けるだけでした。


「アペルともう遊ぶな」


 一言ガベル君はそう言って去っていきます。身体から力が抜けてその場に崩れ落ちてしまいました。そうは言われたのですがあーちゃんと遊ぶのは楽しいです。今では毎朝起きてから、父があーちゃんを連れて来てくれるまでが待ち遠しいのです。翌朝起きた時にはガベル君の忠告は頭の中から消え去っていました。


 その出来事から数日と経たないうちに、ガベル君が遊ぶ私達を見ていて突然泣き出してしまいました。あーちゃんが泣き止ませて理由を聞きますと、ずっと一緒に遊びたかったと声を震わせて答えたのです。最初は何だかんだで邪魔してきたのは遊びたい思いの裏返しだったみたいです。それがエスカレートして脅迫めいた事を言ってしまったと私に謝ってきました。


 それからは3人で仲良く遊ぶようになります。ガベル君が睨み付けてくる事も無くなり、次第に恐怖心も無くなっていきました。ガベル君の事は妹が大好きな唯のお兄ちゃんなのだと思えるようになりました。ですがそれも短い間だけで毎回の事のようにあーちゃんを溺愛するガベル君を見て、それを少し嫌がるそぶりを見せたあーちゃんに代わって、ガベル君に文句を申し上げましたら暫くの間大人しくなりました。


 そのまま楽しい日々が続けば良かったのですが、懸念されていた人族と獣人族の戦争が始まってしまいます。お父さん達は獣人族との戦争を回避するた為に、近場の獣人族の村長と話し合っていたらしいのですが、力及ばずへスペル王国の上層部の人達が獣人族に攻め込む事を決めてしまったらしいのです。そんな事をお父さんとお母さんが話していたのを耳にしてしまいました。


 あーちゃん達は村長のお父さん達と一緒に村の方に帰ったみたいで、それからはあーちゃんと会う事は無くなりました。そして父も街を納めている貴族の人に命令され、戦争に参加することになってしまったのでした。母は冒険者だった頃《回復魔術》の使い手で、父を死なせない為に一緒に付いていくと仰って一緒にいなくなってしまいました。その間私は父の知り合いのおじさんの家でお世話になっていました。おじさんの家には歳の近い男の子もいて、その人は私にとって兄みたいな存在になっていました。


 戦争が続く最中、父と母が戦死したと凶報がおじさんの家に飛び込んできました。おじさん達は悲しみに暮れ私は塞ぎ込んでしまいました。そんな時に獣人族の密偵がヘルグミルの街に潜入していたみたいで、街中が大騒ぎだったのです。密偵が追っ手をやり過ごす為に潜伏した家が運悪くおじさんの家で、部屋で塞ぎこんでいた私はそれに気付かず、密偵はおじさんの家族を皆殺しにしたのです。こうして私は一瞬にして家族を全て亡くしたのです。


 それからは街を彷徨っていた所、奴隷商人に拾って頂き生きていく為に奴隷となりました。奴隷になれば奴隷商人から最低限の保障を受け取れて食べ物に困る事はなかったのです。他にやりようはあったかもしれませんが、その時はそれしか方法がないと思っていたのです。そして奴隷として売られ新しいご主人様の所で働きました。家の手伝いをしていたおかげで家事関係はある程度出来るようになっていたのが大きかったです。私は他の奴隷の使用人達とすぐに打ち解けました。それから数年が過ぎた時、そのご主人様も盗賊に殺されるという不幸が起こり私達は盗賊の奴隷となりました。他の奴隷仲間達は奴隷商人に売られてしまいましたが、私だけは盗賊達の身の回りのお世話の為に残されたのです。


「奴隷を売って金も腐るほどあるし、西の方にでも行ってみるか」


 盗賊の奴隷になってからそんなに日が経っていないある日、お頭様はそう仰いました。お頭様が盗賊の方達にお金を渡して旅支度をし始めました。奴隷を大量に手に入れてそれを売り払って出来た大金。その成功に浮かれてしまったのでしょう。お頭様は自分の武器を新しく新調されておりました。西側は冒険者の多い街がありまして、商人の連れている護衛の冒険者達は実力者揃いと聞いておりました。


 お頭様と盗賊一行は西に向かって移動し始めます。勿論私もそれに付き従います。そして新しいアジトを作りましてそこで生活し始めました。そんなある日お頭様達が耳の先が尖った少女を連れてきたのです。私も始めて見た種族でエルフというみたいです。お頭様達がまた金になるぞと仰っているのを耳にしました。そしてお頭様はすぐに宴の準備をしろと仰られましたのでその準備に取り掛かります。


 宴を開いて楽しんでおりますとお頭様が酒が足りないとキッチンの方まで顔を出されました。私はすぐにお酒を用意しますが、その時大音量の爆発する音がしまして食卓の方を覗きますと、落石による事故か何かか部屋の中が崩壊しておりました。お頭様が他の盗賊達の事を心配されますが、天井の崩落によって中に入れません。その時別の場所の壁に穴が空きお頭様が身構えます。そしてそこから出てきた青年と目が合いました。


 戦闘になりそうでしたので私は奥の部屋に非難します。暫くして奥の部屋に姿を現されたのはお頭様ではなく青年の方でした。青年はお頭様を殺したと仰りました。それであれば奴隷の所持件はお頭様からこの御方に移っているはずです。ですがこの御方は奴隷の私を解放してくると仰いました。ですが家族も皆亡くなってしまい奴隷を解放されたとしても帰る場所がありません。私は奴隷としてこの御方のお世話をさせて頂く事にしました。そうやって私はショウジ様と出会ったのです。


 私は意識の奥底から浮上するような感覚で目を覚ましました。ここはヘルグミルの街の宿です。昨日ショウジ様達があーちゃんの住んでいる村から帰ってきた所で、ベッドの中ではまだ3人共寝ておられます。ですがショウジ様はそろそろ起きてこられる頃です。私はいつも通りにお茶を淹れられるように準備するのでした。


 今日からは私も冒険者として生きていくのです。私の周りの人は亡くなってばかりでしたが、あーちゃんやショウジ様達を死なせないように強くなりたいと亡き父や母、おじさんとその家族に誓うのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ