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シスコンの兄

 アペルが正式にパーティーに加わり、今日は再び北にあるダンジョンへ向かおうとしていたら、後ろから誰かに呼びかけられた。


「アペル!こんな所に居たのか」


振り向くとアペルと同じ金色の瞳を持った赤髪の獣人の男が息を切らしながら走ってきた。男は近くまで来ると息を整える事もせず、アペルの肩に手を置いて話をしだした。


「ああ、俺の可愛いアペル。街中探したぞ」


「兄さん?兄さんがこの街まで入ってくるなんて珍しいのです」


「アペル、良く聞くんだ。モンスターの大群が村に向かってきている。お前はこのままこの街に居ろ。村には暫く帰ってくるな」


「モ、モンスターの大群って、父さんや母さんはどうしてるです?」


「父さんと母さんは他の者達と一緒に、モンスターから村を守る為に戦うつもりだ。俺もこの後すぐ街に戻る。いいか、迎えにくるまで絶対に帰ってくるなよ」


 顔立ちもアペルに似ていると思ったらアペルのお兄さんだったのか。お兄さんはアペルに一方的に言いたい事だけ言って去っていった。それからというものアペルはずっと上の空状態で、そんな状態でダンジョンに行くのは危険なので宿に戻った。部屋では上の空のアペルを心配したシェリーが、外で何があったか聞いてきたのでアペルのお兄さんに出会って聞いた事を伝える。アペルのお兄さんと言った所でシェリーが一瞬だけ眉根を寄せたがすぐにいつものクールな顔に戻る。


「あの男はまだ妹への執着が消えてないようですね。何時になったら妹離れが出来るのか」


 シェリーの話を聞くとアペルのお兄さんはガベルという名で、昔アペルと遊んでいる時に何度も邪魔をしてきていたという。最初は人族と獣人族は相容れぬから離れよみたいな事を言われたのから始まり、そのうち俺のアペルに手を出すなとか、最終的には俺も一緒にアペルと遊びたいと泣き付いてきたらしい。それを聞くだけでガベルはシスコン確定。シェリーの態度からもガベルの面倒くささが窺えた。


 アペルはずっと考え込んでいるみたいだがどうするのだろうか。ガベルは相当切羽詰った感じだった。獣人の能力が高いのはアペルを見ていたので良く知っているが、それでもモンスターの大群ってなると相当厳しい戦いになるのではないだろうか。


「ショージさん、加入してすぐにすいません、パーティー抜けますです」


 唐突にアペルがパーティー脱退を告げてきた。理由を聞くとアペルも村へ戻って家族達と一緒に戦う、出会ったばかりの俺達に迷惑も掛けれないから1人で向かうとの事だ。俺は正直一緒に行っても良いと思っていた。一緒にダンジョンで命を預け合った仲だし、シェリーの幼馴染というのも発覚した。もう既にアペルにも大切な仲間という愛着を持っている。一緒に行くと口に出そうとした時だった。


「ショウジ様、僭越ながら私のお願いを聞いて頂けますでしょうか?」


「うん、何?」


「私は戦力にはなれませんが、どうか私の友達を助けては頂けないでしょうか?」


 シェリーから頼み事とは珍しく、それ程アペルが大事な存在なのだと分かる。


「もちろん。シェリーが言わなくても、俺は強引にでも付いて行く気だったよ。良いよね、ソフィア?」


「うん、アペルはもう私達の仲間。仲間を助けるのは当たり前」


 ソフィアからも了承を得て、俺達の獣人の村行きが決定したのだった。そこからは素早く行動出来るように話し合う。まずは獣人の村までの日程だ。街の南口を出て南へ向かい、数時間すると関所がある。そこから更に南の方へ行き、合わせて徒歩では2日程の距離らしい。ただ、それだと時間が掛かる。現地到達まで体力を温存できるように移動手段も必要だろう。よし、移動手段はタランドーさんに何とかしてもらおう。


「シェリー、タランドーさんが何処にいるか知ってる?」


「はい、存じ上げております」


「それじゃソフィアとアペルは一緒に、街の道具屋で回復剤を買えるだけ買ってきて。シェリーは俺と一緒にタランドーさんに会いに行こう。1時間後に街の南口に集合してここを出る」


 ソフィアにお金を渡し行動に移る。シェリーからの話によると、タランドーさんはこの街のホルグレンという豪商の家で商談中らしい。道案内をシェリーにしてもらい、大豪邸の前まで辿り着く。入り口には雇っている衛兵らしき人が立っていて、来客中のタランドーさんの連れだと説明して確認を取ってもらい、中に入る事ができた。


 建物の外観も凄かったが中も豪奢な装飾や絵画があり、ホルグレンさんはかなりのセンスと商才があるのを感じられた。連れて行かれた部屋にはタランドーさんともう1人、中年で髭を蓄えた恰幅の良い男性テーブルを挟んで商談をしていた。多分この人がホルグレンさんなのだろう。


「商談の邪魔をしてすいません、タランドーさんにお願いがあって来ました」


 ホルグレンさんに軽く挨拶して時間もないので俺は単刀直入に話を切り出す。南の獣人族の村へ行きたいのだが移動手段を用意してほしいと。それを聞いてタランドーさんはここでは用意出来ないと言い、何故必要なのか説明を求めてきたので、今朝のガベルから聞いた内容を話す。


「それはマズイな。もし南の獣人の村が守りきれなかったら、モンスターがそのままこちらに来る可能性がある。すぐに冒険者ギルドに連絡して、南側の防衛の強化をしたほうが良さそうだな」


「お話中に悪いね。それで君達はその仲間の家族を、獣人の村を守るためにモンスターの大群に挑もうというのかい?」


 外野で聞いていたホルグレンさんが話に加わってきた。モンスターの大群と戦うのはもう皆で決めた事だ。俺はホルグレンさんに向かって頷く。


「それなら行きの移動手段は俺が用意しよう。俺はただの馬鹿は嫌いだが、お前みたいな馬鹿は嫌いじゃない。これは貸しにしておくぜ」


 ホルグレンさんがニヤリと笑い、助け舟を出してくれた。それからはホルグレンさんは使用人を呼ぶといくつか指示を出した。俺はホルグレンさんにお礼を述べ、準備が整うまでは皆で部屋に待機となった。準備は全て他の人達がやってくれているので手持ち無沙汰だ。待っている時間がとても長く感じる。せめてこれから起こりうる事を考えて、《スキル》を見ているうちに《回復魔術》のレベルを上げる事にした。《回復魔術》をレベル10にした事で《範囲回復》を使えるようになり、これで傷を負った村の人達を纏めて癒せるようになった。


 ドアがノックされ使用人が入ってきて、準備が整いましたとホルグレンさんに報告する。ホルグレンさん先頭に外へと向かうと、外に待機していたのは馬車のような物だった。ような物というのは馬でなく大きなトカゲだったからだ。なんでも南の砂漠を行くには馬ではなく大きなトカゲ、サンドリザードの出番らしい。サンドリザードは砂漠にいるモンスターなのだが魔契約をしているそうで、所謂使い魔というやつらしい。


 使い魔とかあるのか。だがそれはとりあえず置いておいて、今は先を急がないといけない。とりあえず馬車じゃなくて蜥蜴車と呼ぶ事にしよう。シェリーは居残りなので心配だろう。アペル達の事は任せておけと伝えて蜥蜴車に乗り込んだ。するとすぐに御者が蜥蜴車を走らせ始め、そのまま街の南口まで行く。そこでソフィア達と合流して獣人の村へと向かった。

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