31層からのダンジョン諸事情
アペルの鎌も作り終わって屋敷に帰る前に、冒険者ギルドにも寄っていく事にした。30層の守護者戦やそれを越えた31層からの情報を得ようと思ったのだ。冒険者の心得(中級編)では30層までの情報までしか載っていない。それから先はイレギュラーが多いと聞いた事があるしそのあたりの事もそろそろ聞いておかないといけないだろう。グリムリーパーの《怨念魔術》にやられるなんて事もあったし、注意事項があればそれらの対策をしっかりしてから挑みたい。
「プリメラさん、こんにちは」
「あっ、ショウジさん。今日はどうしました?」
「そろそろダンジョンの先の事情を聞いておこうかと。この本30層までしか載ってないですからね」
「なるほど。分かりました」
プリメラさんに事情を説明してダンジョン攻略の相談に入ろうとした所、後ろから袖を引っ張られて中断された。振り向くと袖を引っ張っていたのはソフィアだった。
「ソフィア、どうしたの?」
「長くなりそうだから訓練場を借りたい」
ソフィアの提案に一瞬その意図が分からなく、暇潰しに模擬戦でもやるのかと思っていたのだがそうではなかった。
「アペルの新しい武器の練習に軽く付き合ってくる」
「ああ、そういう事ね。プリメラさん、話の前に訓練場借りても良いですか?」
「ええ、構いませんよ。ちょっと立ち会う為の他の職員を呼んできますね」
そう言ってプリメラさんが席を外して誰か呼びに行ってくれた。それにしても確かに明日いきなりアペルが死神の鎌を使って戦うより、今ここで軽く練習しておいた方が良いだろう。ふと、アペルが仲間になった頃、ソフィアが甲斐甲斐しくアペルの世話をしていたのが思い出された。案外ソフィアは面倒見が良いんだなと思っていると。プリメラさんが立ち会ってくれるギルド職員さんとやはりいつものように現れるブラームスさんを連れてやってきた。
「がはは。坊主、元気にしてたか?」
「ええ、ブラームスさんもお元気そうで何よりです」
ブラームスさんが快活に笑い俺の背中をバンバンと叩いてくる。ちょっと痛い。
「それじゃショウジ、ちょっと行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
「それでは私も見物をしてきましょう」
シェリーもアペルの事が心配なのか練習に付き添うらしい。皆を見送って俺はプリメラさんとダンジョンの話を続けた。
「それで今は何層まで進んだんですか?」
「今日は24層が終わって明日から25層です。今は1日2層のペースですね」
「次が25層ですか、それはちょうど良いタイミングですね。25層は浜辺のフィールドになりますが、そこのボスのセイレーンから貝殻を手に入れておかないと33層の水中フィールドで大変ですよ」
次の25層は浜辺らしい。そして33層は水中フィールドとの事だ。水中の最大の問題点は呼吸が出来ない事だ。これは獣人もエルフでも同じで、人である限り呼吸は絶対必要だ。更に水中は水の抵抗のせいで動きが鈍くなる。まともにモンスターと戦えないだろう。何も準備していかなかったら窒息死で死ぬ所だが、イジェクトストーンを持っていれば窒息する前には帰れるだろう。だが、それだけで攻略するのは無理だ。25層でセイレーンを倒すのは必須だな。
「水中ですか。それは厄介ですね」
「そうなんです。一応水中で行動するなら《風魔術》の《ウィンドスフィア》でも良いんですが、機動性にかけるのでどちらかと言うと後衛向きですね。貝殻を集めて作る装備に付く能力の方が自由に行動できるので、貝殻を集められるならそちらの方がお勧めです」
「それなら貝殻は集めたほうが良いですね。明日頑張ってみます。他に注意する所ってあります?雪山とかも出てくるって話を聞いたんですが」
俺はおっちゃんから聞いた情報を確認の為にプリメラさんにも聞いてみた。
「雪山ですと37層の事ですね。それを知っているという事は、もしかしてサラマンダーから火の粉を手に入れました?」
「ええ、サラマンダーから火蜥蜴の火の粉ってアイテムを手に入れましたよ。これで寒さ対策の装備を作るらしいですね」
「サラマンダーは比較的遭遇しやすいですからね。でも、それなら雪山用の素材は大丈夫ですね。貝殻も説
明しましたし、とりあえずは30層まで問題なく進んで頂いても大丈夫でしょう。31層からはトラップが出るので気を付けてくださいね」
プリメラさんからお墨付きを貰ったし30層まで進んで大丈夫だろう。だが31層からトラップが出るとはモンスターとの戦いだけでなく、それ以外の所で危険性が増すという事だ。どんなトラップがあるか軽く聞いてみたが、落とし穴や踏んだら刃物が飛び出てくるなど、良く聞いた事があるトラップがフィールド上にランダムで設置されるらしい。一度トラップを作動させるか解除すると、そのトラップは再びフィールドのどこかに設置される。
「それはまたダンジョンの攻略が面倒になりますね」
「ですから気を付けてくださいね。とりあえずダンジョンに関する問題はそのくらいですね」
プリメラさんが思い至る注意点は大体教えてもらった。とりあえずは33層が水中フィールドだからそれまでにはまたおっちゃんの所に行って水中用の装備を作ってもらう必要がある。25層で貝殻を集めたら、そこまでは問題なく進んで良さそうだ。でも明日おっちゃんの所へ行く訳だし、明日で貝殻を必要数手に入れて、防具を受け取るのと一緒に頼んじゃうのが丁度良いな。
「プリメラさん、貝殻ってどのくらい集めればいいんですか?」
「そうですね。1人1個で良いはずですから、2回倒せば事足りるかと思いますよ」
「サラマンダーと同じで倒せば必ず手に入れられるんですか?」
「そうみたいです。それと倒したら再び復活するまで3時間くらいだったと思います」
となると運が良ければ3時間程で終わるけれど、悪いと9時間もしくはそれ以上時間が掛かるという事だ。探すのに時間が掛かったり、他の人が居て倒しされていたりするともっと時間が掛かる。明日は1日まるまる25層かもしれないな。
プリメラさんからの説明をひと通り受け、話が終わった俺とプリメラさんは訓練場のソフィア達の様子を見に向かったのだった。




