夕暮れの石畳
「よし、それに決まりね。細かい部分に関しては、あたしが頼んでおくから」
するとロランスはボクが決めたドレスを持って、店員にまで持っていく。
そして色々と話をしていて、話をつけていた。
どうやらすぐに出来そうな予感。
「ありがとう、ロランス。……本当に助かるよ」
ちょっと照れながら、ロランスに感謝をする。
ここまでしてくれるなんて。
「いいって。あたし、友達のために動くのが得意なんだ。明後日にはポラリスさんに合わせたドレスになるから」
(友達……そう言ってもらえるなんて、いつぶりなんだろう)
少なくとも、ボクが江坂芯星だった時には友達もそこそこ居たし、言ってもらえてた。
でもポラリス・バルカナバードになってから、言ってもらえたっけ。
ゼナイド様からは”取り巻き”だって言っていたし、他の令嬢からもゼナイド様の派閥の一員とか色々と言われていた。けれども”友達”っていうのは、無かったのかな。
「ロランスって優しいね」
仕立屋から学院の寄宿舎へ帰る道、ボク達は会話をしながら歩いていた。
夕陽が石畳を照らし、ロランスの影とボクの影が重なって伸びていく。
その形が、まるで昔の自分と今の自分みたいに見えた。
(……前は、ただの小学生の男の子だったのにな)
けれど、隣で笑ってくれる人がいる。
それだけで、この世界の景色が少しだけ柔らかく見えた。
歩いているうちに空は暗くなっていて、これは戻ったらすぐに晩ご飯になるかな。
「えへへ……ポラリスさんには、是非とも試験で良い点数を取って欲しいんだ」
「取れるかな……?」
ロランスに期待してもらっていているけれども、ボク自身が不安に思ったりはしている。
模範組に入っちゃったから、余計に色々とプレッシャーが掛かっているし。
「ポラリスさんなら取れる。それに、ゼナイド様がそのために稽古をつけてもらっているんだから」
「そうだよね……!」
ゼナイド様だって、落第してほしくはないって思っているんだと思う。
だからこそ、ああやってペタル講師を呼んだりゼナイド様が直々に教えてくれたりしているんだし。
「でも、試験まではまだ稽古も続くからね……無理はしないでね」
まだ稽古は二日だけ。
試験まで数日は残っているから、大変だよ。
「うん……でも、少しは楽しみかも。昨日よりは、ね」
ボク自身が上手くなってきたという気持ちになってくると、案外自信がついてくる。
ペタル講師でも何とか出来そう。顔を紅くしないか、そこだけ不安だけれども。
「そっか、良かった。あたし、試験まで見学していくから」
「ありがとう。……でも、笑わないでよ」
さっきだって昨日だって、ボクがヘンテコな事になっていたら、口元を押さえて笑っていたし。笑わないでいようとして誤魔化しきれないのが、バレバレ。
そんなの余計、恥ずかしくなっちゃう……
「……それは難しいかな」
正直だね。
でも、そんなロランスが好きかな。
恋愛とかじゃなくて、友達として。
もしも江坂芯星のままで、ロランスと出会っていたら、付き合っていたのかな。
まあ、小学生だからそこまで発展しなかったかも。それこそ、今と同じ感じ。
「でもポラリスさんが必死に頑張っている姿は、笑っていないから。動きが面白いだけ」
「大して変わらないかも……」
ロランスがそう言っているのは間違っていないかも。
だからこそ、続けられるんだ。
話しながら、ボク達は学院の寄宿舎へ戻った。で、そのまま食堂へ。
食堂のあちこちで、令嬢達が「試験のドレスはもう頼んだ?」「殿下も来るのかしら」なんて話している。
ボクは聞かないふりをしてスプーンを動かしてそのままを食べていく。
今日はボクとロランスが向かい合って食べていた。周りは空きがあるけれども、そんなに気にならなかった。
メニューはグリーンピースのポタージュに鱸の香草蒸し、それに白パン。
鱸が爽やかな香りがして、柔らかい味だった。
「ポラリスさん、食べている姿が良いね」
鱸の香草蒸しを食べている姿を見て、ロランスが微笑んでいた。
ロランスも食べているけれども、ボクをじっくりと見るなんて。
「そ、そう……?」
「うん! だからここはそのままで大丈夫」
顔を紅くさせながら、白パンを食べていく。
味は変わらなかったけれども、ちょっとドキドキしちゃったな。
ご飯を食べ終わった後、部屋の明かりを消してベッドで横になる。
明日もまた稽古がある。ゼナイド様は「休むな」と言っていたけれど……
(ゼナイド様かな、それともペタル講師なのかな……)
そんな事を考えながら、眠りに落ちる。




