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運命の時計塔  作者: ナンデス
第2章: 歴史の揺らぎ
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2-3.思わぬ影響

前回まで「エティエンヌは、混乱の中でフランス軍砲兵部隊に接近し、伝令が負傷して倒れた隙を見計らって、虚偽の命令を出すことを決意。エティエンヌは、砲兵に目標を砲撃させることに成功する。」

エティエンヌは、高台からフランス軍の重砲兵が放った砲弾が、空を切り裂きながらイギリス軍の陣地へと着弾するのを見届けた。轟音が響き渡り、遠くの地面が爆発で盛り上がる。イギリス軍の中央部隊は一瞬混乱に陥り、その一部が後退を始めたように見える。思わず息を飲んだ。


「やった……!」


エティエンヌの心には、小さな安堵が広がった。フランス軍はこの砲撃を利用して反撃に出ることができるはずだ。実際、ナポレオン軍の兵士たちは士気を取り戻したかのように見えた。幾人かの士官が号令をかけ、兵士たちが突撃の準備を始めている。


しかし、その安堵は長続きしなかった。周囲が再び混乱に包まれる中、エティエンヌは不安を感じた。突撃命令が下されると、兵士たちは一斉に前進を開始するが、その動きには統制が欠けていた。エティエンヌの心に浮かんだのは、「もしこの突撃がナポレオンの計画から外れてしまったら、どうなるのだろうか」という恐れだった。


彼は、混乱の中で指揮官たちが秩序を保とうと必死に叫んでいる姿を見つめながら、「この戦局を引き起こしたのは自分の干渉が原因だ」と自責の念に駆られた。突撃が失敗すれば、フランス軍の士気はさらに低下し、計画が崩壊してしまうかもしれない。胸が締め付けられる思いの中で、彼は自らの選択がもたらした影響に不安を抱いた。


「突撃だ! イギリス軍の側面を崩せ!」


士官の指示が響き渡る。エティエンヌは目の前の光景に目を奪われた。突撃命令を受けたフランス軍の兵士たちが、まるで一斉に解き放たれた獣のように前進を開始する。しかし、その動きには統制が欠けていた。


心の中で彼は叫んだ。「これが正しい行動なのか?」もしナポレオンの計画を狂わせてしまったのなら、どれほどの犠牲が出るのだろうか。自らの選択に対する恐怖に襲われ、胸が締め付けられる思いだった。


混乱が広がる中、数名の士官が必死に部隊を整列させようとしている。「こっちだ! 整列しろ!」と彼らは叫ぶが、その声は銃声や叫び声にかき消され、兵士たちは目の前の敵に翻弄されていた。


エティエンヌは、状況が次第に手に負えなくなるのを見て、冷や汗が背中を流れるのを感じた。彼の心に浮かんだのは、「もし彼らが崩れてしまったら、ナポレオンの計画は完全に崩壊する」という恐怖だった。周囲の混乱が彼の心に不安を増幅させていく。どの道が正しかったのか、もはや判断がつかなくなっていた。


砲撃による混乱を見たフランス軍の一部が、側面攻撃を仕掛けようと動き出した。しかし、エティエンヌはその動きがナポレオンの計画に基づいていないことに気づく。不安が再び胸に広がる。ネイ元帥の突撃命令は、イギリス軍の中央突破を狙ったものであった。しかし、今、砲撃の混乱を見た一部のフランス兵たちは、独断で側面攻撃に転じていた。


「まずい……この動きは計画と違う!」


立ちすくんだエティエンヌは、彼が引き起こした砲撃がフランス軍内部に混乱をもたらしていることを理解した。突撃の勢いはばらばらで、指揮系統が崩れかけていた。ナポレオンの指揮下で動くべき兵士たちが、勝手な行動を取り始めていることで、全体の動きが乱れている。


「隊を再編しろ! 側面から突撃するな!」


士官が叫ぶが、その声が届く前に、数部隊が既にイギリス軍の側面へと突撃していた。フランス軍は混乱の中、分断されかけている。エティエンヌは、無力感に襲われながら、その様子を見守ることしかできなかった。


一方で、イギリス軍の指揮官ウェリントン公爵は素早く対応を開始していた。側面攻撃に備え、部隊を再配置させた。イギリス軍の歩兵は整然とした動きを見せ、崩れかけた陣形を立て直し、フランス軍の突撃に備えている。


「どうしてこんなことに……」


エティエンヌは胸が張り裂けそうな思いだった。彼の干渉が、一時的な優位をもたらすかと思われたが、逆に戦局を複雑化させてしまった。フランス軍は優位を保つどころか、その組織的な防御に押し返されようとしている。


さらに悪いことに、遠くから聞こえてくるのは、プロイセン軍の接近を知らせる報告だ。イギリス軍とプロイセン軍の合流が間近に迫っている。フランス軍はその圧力に耐えるには、中央突破を成功させなければならなかったが、今の状況ではそれも難しい。


煙が立ち込める中、エティエンヌは炎に照らされた戦場を見つめた。銃声と叫び声が交錯し、死と恐怖が渦巻いている。視界の先には、弾丸が飛び交い、仲間が倒れていく姿が映った。「これが歴史を変えることの代償なのか……」その光景に心を締め付けられ、思わず目を背けた。


エティエンヌは心の中で叫んだ。「自分の干渉が悪かったのか? これがナポレオンの計画を狂わせたのか?」


彼の胸に小さな満足感が広がった瞬間は消え去っていた。混乱が広がる中、エティエンヌはその中心に取り残され、戦局が自分の手を離れていくのを見ていた。何が正しいのか、何が間違っていたのか、確信が持てなかった。


ナポレオンの指揮は、この混乱によってさらに複雑化しつつあった。士官たちが独断で行動し、フランス軍全体がバラバラになりかけている。エティエンヌの心は重くなり、手遅れになる前に何かをしなければならないという焦りが募っていく。


その時、戦場の中心から大きな報告が入った。


「プロイセン軍、接近中!」


その一言が、エティエンヌに冷たい現実を突きつけた。プロイセン軍の援軍が到着しようとしている。このままではフランス軍は二正面からの攻撃にさらされ、壊滅的な打撃を受けるだろう。エティエンヌの行動は、ほんの一瞬の混乱を引き起こしたに過ぎなかった。だが、その混乱が戦局全体にどう影響を与えるか――彼にはわからなかった。


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