表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の時計塔  作者: ナンデス
第2章: 歴史の揺らぎ
9/10

2-4.見えない戦争

前回まで「フランス軍が側面での成功に気を取られる間に、プロイセン軍が到着し始め、ナポレオン軍は予期せぬ二正面作戦を強いられる。エティエンヌはこの時、プロイセン軍の進撃を目撃し、自分の干渉が最終的に戦局を悪化させたことに気づく」

エティエンヌは、自分が引き起こした砲撃が戦況に一時的な混乱をもたらした後、戦場が再び混沌とした状態に戻っていくのを目の当たりにしていた。フランス軍の兵士たちは一部が側面に突撃し、戦果を挙げたかのように見えたが、それも長くは続かなかった。


遠くから、フランス軍の中央部が薄くなっているのが見えた。砲撃がフランス兵の注意を側面に向けさせたことで、中央の防衛が手薄になり、連合軍はその隙を突こうとしていた。エティエンヌは戦況が予期せぬ方向へ進んでいることに気づいたが、彼自身はもはやどうすることもできなかった。


「なぜだ……なぜこんなことに?」


エティエンヌは自問しながら、遠くの丘の上に広がるプロイセン軍の動きを感じ取った。風が丘を越え、彼の耳にプロイセン軍の行進の音が運ばれてくる。草が揺れ、大地がその重みを受け止め、震える。その振動が、彼の足元まで伝わり、心臓が高鳴るのを感じた。視界にははっきりと見えないが、その規則正しい行進の音が大地を震わせ、じわじわと戦場に近づいているのがわかる。彼らが進軍を始めたとき、その威圧感は否応なくエティエンヌに恐怖を感じさせた。


突然、彼の耳に届くのは、フランス軍の士官たちが焦燥感に満ちた声で命令を叫ぶ音だった。


「プロイセン軍が来た! 二正面に備えろ!」


士官たちの焦燥感がエティエンヌにも伝わる。彼らの声は高まり、互いに罵り合う声も混ざる。『どうする?待機命令を出すのか?』一人が叫ぶと、他の士官もそれに呼応するように次々と命令を出し合う。フランス軍の隊列に一瞬の緊張が走る。プロイセン軍の到着は、ナポレオンが想定していたよりも早く、対応する時間がほとんどない状態だった。エティエンヌはその報告を聞くと、体が無意識に後退し始めた。胸の中で、彼の助言や行動がどれほど無力であったのか、そしてそれがどれだけ戦局に悪い影響を与えたのかという思いが押し寄せてきた。


彼の手は震え、心臓は鼓動を早め、息を飲み込む。後退しながら、兵士たちの顔に浮かぶ不安の色を見つめ、彼らの恐れが自分の心の奥底に響くのを感じた。


「自分が余計な混乱を作ってしまったのか……」


彼は冷静になろうとしたが、脳裏には先ほどの砲撃が、戦場全体にどれだけの波紋を引き起こしたのかが浮かんでいた。側面攻撃によってイギリス軍の陣地が崩れるはずが、逆にフランス軍内部での連携が乱れ、側面を固めたはずの兵たちは中央に注意を向けられないままだった。プロイセン軍の到着が、それに拍車をかけていた。


エティエンヌは戦場の一角で、もはや手遅れになりつつある戦況を見守るしかなかった。目の前には、プロイセン軍の進撃に対応するために右往左往するフランス兵たちの姿があった。士官たちが命令を叫んでいるが、その指示は明らかに混乱しており、統制が取れていない。士気は落ちつつあり、彼らの動きが鈍くなるのをエティエンヌははっきりと感じ取った。


そして、その時、遠方に現れたプロイセン軍の旗がエティエンヌの目に映った。


「ブリュッヘル……!」


ゲプハルト・レベレヒト・フォン・ブリュッヘルの指揮するプロイセン軍が、ついにフランス軍の側面に現れたのだ。彼らの整然とした行進がフランス軍の混乱をさらに際立たせ、押し寄せる波のように戦場に侵入しようとしている。その姿は、まるで逃げ場のない死神のように見えた。


砲撃によってイギリス軍が一時的に崩れかけたものの、今ではウェリントン公爵率いる連合軍が持ち直し、反撃に転じていた。そして、プロイセン軍の援軍によってフランス軍は二正面作戦を強いられ、劣勢に追い込まれようとしていた。


ナポレオンは予想外の早さで到着したプロイセン軍に対処する時間がなく、フランス軍の中央はさらに手薄になり、イギリス軍の攻勢に対して後退を強いられていた。


エティエンヌは、その様子を目の当たりにして、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。自分が砲兵に虚偽の命令を出し、イギリス軍に混乱をもたらしたとしても、戦場全体の流れは止められないことを痛感したのだ。


「僕の行動が……すべてを悪くしたのか?」


彼の目に映るのは、もはや手遅れになりつつあるフランス軍の兵士たちだった。プロイセン軍の進撃は止まらず、フランス軍の右翼が崩壊し始めた。中央部でも連合軍の攻撃が強まり、フランス兵は後退を強いられている。ナポレオンがすべてを掌握し、戦場の王として君臨していたはずの瞬間は、今や過去の栄光に過ぎなかった。


エティエンヌは、自分の虚偽の命令が引き起こした混乱が、戦況全体を悪化させたことを認めざるを得なかった。歴史を変えるために行動したはずが、結果的にはその流れを早めてしまったのかもしれない。プロイセン軍の進撃と、それに続くフランス軍の崩壊は、彼の目の前で現実のものとなっていた。


戦場の片隅に立ち尽くすエティエンヌの心は重く沈んでいった。


「これが、歴史を変えるということなのか……」


彼は静かにその場を離れ、プロイセン軍の進撃とフランス軍の崩壊を背後に感じながら、一人で戦場を見つめていた。

☆☆☆☆☆&ブックマークしてもらえると嬉しいです!

つまらないと思った方は☆

お前の割に頑張ったと思った方は☆☆

普通と思った方は☆☆☆

やるじゃんと思った方は☆☆☆☆

面白いと思った方は☆☆☆☆☆


是非ご協力お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ