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38.他に呼び方ないのかよ

 エイシェットの大粒の涙を受け止めると、ハンカチは一瞬で絞れるほど濡れた。それを何回か繰り返し、最後に魔力で足場を作って彼女の鼻先に額を押し付ける。気に食わなけりゃ噛みつかれるかも知れないが、婚約者をいきなり齧らないだろ。


 どの行動が気に入ったのか、エイシェットの機嫌はすっかり上向きだ。浮かれてオレを牙に引っ掛けて運んでくれた。かなり怖いぞ、これ。巨大肉食恐竜の口で運搬される餌の気分だった。加減間違えて噛まれたら、魔力の膜があっても重傷間違いない。


「あらあら、熱々だね。魔王代理」


「本当だ、エイシェットよかったじゃない」


 集まっていた各種族の代表に揶揄われながら、エイシェットの口から這い出た。消化され損ねたカエルみたいだ。自分で自虐しながら、魔法で浄化してリリィや双子の近くに座った。ここでエイシェットの機嫌が急降下する。後ろで突かれて、首を傾げたらべろりと上半身を舐められた。


「なっ、なに!?」


「あなたが浄化なんて失礼な事するからよ。せっかく匂いをつけたのに、消えちゃうじゃない」


 リリィに指摘され、なるほどと思うが……マーキングされたのか。ここでオレの人権は餌レベルだな。大切な魔王を殺した元勇者を受け入れる、その一点でオレの人権は使い切ったらしい。


「さて、魔王代理。今回の作戦はかなり大掛かりだ」


 巨人族のおっさんが地図を広げる。その隣で、鱗に覆われたリザードマンが眉を顰めた。


「本当に国を落とすのか」


「何か不満なの?」


 前世界でエルフって美人だと通説だったけど……と遠い目になりそうな女性が口を尖らせた。ちなみに尖った特徴的な耳はあるし、髪も薄い緑色でエルフっぽい。でも年齢的にはお婆ちゃんだった。エルフって歳を取らない種族じゃなかったのか。


「ケンカしないで。大きく押し返した今がチャンスなのよ。ね、魔王代理」


 同意を求められたオレの最初の一言はこれだ。


「攻め込むのはいいけど……魔王代理はやめねえ?」


 呼び名としてイマイチ。もちろん、魔王と呼べという意味じゃない。いっそ「代理」だけにしてくれた方が気が楽だ。


「指揮官、代理さん、魔王(仮)……」


 指折り数えるラミアは楽しそうだ。下半身の蛇をくねくねさせながら、まだ呼び名を探している。


「普通に、サクヤでいいだろ」


 ぼそっと吐き捨てるように口にしたのは、獣人族の虎耳の青年だった。大きく頷くオレを見て、リリィがにっこり笑う。嫌な予感しかしない。


「じゃあ、サクヤ代理で」


「「「賛成」」」


 え? オレの代理みたいに聞こえるけど……。


「おかしいだろ!」


「エイシェット夫でもいいわよ」


 今度は後ろのドラゴンが喜んで転げ回った。地面が揺れるし、建物の入り口を尻尾が壊してるから!!


「エイシェット、落ち着いて」


 宥めて振り返り、どちらがいいか尋ねられたら……サクヤ代理でいいですとしか答えられなかった。空気を読む日本人気質、こんなところで発揮するのは間違ってる。


「冗談は置いておいて、サクヤ。滅ぼすのはここよ」


 指差されたのは、先日攻め込んできた国の名前を示すスペルだった。

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