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【完結】虚  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
第一章

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39.卑怯な作戦ほど効果的だ

 魔王を倒す軍に兵を出しながら、隣国バルトで勇者が殺されそうになっても黙認した――アーベルライン。あの国には仲のいい騎士が数人いた。だから助けて欲しいと手紙を書いたが、きっと届いていないだろう。何しろエイブラムに配達を頼んでしまった。


 仮に本人に届いていたとしても、動けなかった可能性も高い。そう考えながら、リリィの指が置かれた文字を睨んだ。


「気が引ける? 魔王代理のサクヤ」


「サクヤって呼べよ。人間に気兼ねする必要はないだろ」


 魔王代理という肩書じゃなく、親友をこの手で殺し、己も殺され掛けた男として。オレが人間を守る理由は皆無だ。嫌な役をオレに押し付け、終わったら退場を促すような連中に、何も遠慮はなかった。


「オレはもう魔族だ」


 お前らが拒まずに受け入れてくれたから、5年前のオレは生き延びた。その恩返しをするのが当然だ。言い切ったオレに、巨人族のおっさんが目頭を押さえた。涙もろくていい奴だ。体が大きいから、多少乱暴だけどな。


「こちらから攻め込むなら、バルトのが近いんじゃないか」


 地図に記された隣国を指さす。個人的な恨みは……尽きないほどあるが、それを置いても離れた国を先に襲う理由がわからなかった。浅はかな知識だが、占領地域ってのは隣接地から増やしていくものじゃないのか?


「簡単よ、やられたらやり返す。魔族の領域を侵して殺した償いはしてもらう……バルトは食後のデザートでしょう?」


 きっぱり言い切った後、最後に付け加えて笑うリリィ。美しい顔が悪魔のように歪んだ。


 ぞくっと背筋を恐怖と快感が走る。そうだな、周辺を潰して最後に絶望に塗れた顔を踏みつけてやりたい。5年前のオレの苦しみと痛みを、そっくり返すのも悪くないか。


 魔族は弱者を労わることを知る種族だった。強さを尊ぶが、己の誇りを傷つけられたら強者にも全力で反撃する。それが勝利に結びつかなくても、彼らはその潔さと心の強さを評価した。オレはもう魔族の一員だ。オレ達を獲物として追い立てる人間に、同等以上の苦しみを返してやる。


「さすがリリィ」


「褒めても何も出ないわ。私は魔王城から動けないの、指揮はあなたが取るのよ、サクヤ」


「わかった。カインとアベルを借りていくぞ」


 頷くリリィに、各種族の長が援軍を申し出た。巨人もエルフも獣人も、血気盛んな若者の名を挙げる。


「助かる。有り難く借りて必ず返すよ」


 魔族にこれ以上の犠牲は出せない。だが断れば、彼らが弱いと侮辱するのと同じだった。だから借りた若者は、無事に返す。それがオレに出せる最良の答えだ。


 ぐるるぅ、後ろから唸るドラゴンに襟を噛まれながら、オレは引きずられて後ろに転がった。不満そうな声を出す彼女の鼻を撫でて、離してもらう。


「わかってる、エイシェットも一緒に行こう」


 嬉しそうなエイシェットの頬擦りを受けながら、オレの頭の中は作戦を組み立てていく。アーベルラインは何度か訪れ、王都の地形もおよそ覚えていた。


 こちらから攻めるなら、向かい風になる。火を使うとこちらに延焼するため、別の方法を……そういや、この季節は麦の刈り取りがあったな。二毛作の麦は春と秋に収穫され。そろそろ備蓄されるはず。


「兵糧攻めは卑怯?」


「好きにやりなさい、どうせ人間の敵なんだから」


「わかった」


 脳裏に浮かぶのは、江戸時代の一揆を描いた挿絵だ。協力を申し出たラミアとエルフを見ながら、オレは泥臭くも汚い作戦を立案し終えた。


 卑怯だと罵られる作戦は、それだけ効果が高いって意味だろ。使わない選択肢はない。

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