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第七話 クランメンバーと初交流

 道中、出現した虫を鎧袖一触に駆除した結果。全部ロゼのリソースとして取り込まれた。


 インベントリに入れると後でアウラが発狂するからな。辛うじて確保できるのは過去に交渉して、なんとかもぎ取った糸素材と魔石だけだ。


「人の声がするな」

「戦闘?」

「いや――笑い声だ。休憩ポイントなのかもしれん」


 最初のプレイヤーが築いた拠点のような、それに向いた土地がここにあってもおかしくない。いや、このダンジョンの規模を考えればあって当然。山の中にログインとリスポンができる安全な場所が複数あるはず。


何せ数万のプレイヤーが全員ではないにしても、その何割かはここを登ることになるのだ。


「これ競争イベントだったんじゃないの?」

「リスポーンエリアで戦闘はしないさ。泥沼になるからな」

「そういうものなのね」


 破壊不可のテント系アイテムの近くで戦闘が起これば混沌だ。死んでもすぐそばで復活し、勝利条件がないから永遠と争い続ける。そんな不毛でしかない戦いを誰もやりたかない。


 通路を抜けた俺たちはぽっかり開いた空間に見慣れたテントの群れを見つけた。


 他のルートと合流するポイントらしく、そこら中に他へ繋がる穴が開いている。さらに奥へ続く出入口がどこか、見ただけじゃわからないな。


「――したいから姉さんに協力してもらってるわけじゃないわよ」


 焚火の近くで、へらへら笑うジョンと何か喚いているトモエがいた。どうせいつものように余計な事で口を滑らせて、ジョンがトモエを怒らせたに違いない。


「よう、お二人さん。トモエは姉御と一緒じゃなかったのか?」

「カオルっ!? お、お姉ちゃんはグレンとドレイクの三人でアンズーの巣を正面突破してるわよ? そっちのほうがポイント稼ぎになるからって」


 俺が声をかけるとトモエの目が泳ぎ、早口になる。はあはあ、と息を切らせて言い切ったトモエの目が俺の後ろにいるロゼを見つけて光が消えた。


 ロゼのヤンデレを上回る恐怖は無いと、俺はそう思っていた。だがまだまだ俺の認識は甘かった。


「で、カオル……それ誰?」


 絶対零度の声だ。一切の感情が感じられないだけでなく、瞳孔が開いて焦点の合わないトモエに俺はこれまでにない恐怖を感じた。


「ロゼです」


 思わず敬語にもなりますよ。


 ロゼとアウラの関連性をこの二人がわからないはずがない。見た目はほぼアウラで肌と目の色が違うだけだ。あとはハリネズミみたいに他者を拒む空気と目つきか。


「アウラはどうしたんすかー?」


 ジョンはトモエが作っただろう昼食を食べながら尋ねてきた。今はその空気の読めなさもありがたい。


「道中が虫地獄でな。アバターの操作をこいつに投げて天岩戸に引きこもってる」

「そう……」


 アウラの虫嫌いを知っているトモエもロゼがアウラのアバターを奪ったのではないと納得して、その剣呑な空気を抑える。


「ほれ、この前アウラと一緒に泣いてた犬っ娘だ」


 知っているかもしれないが、改めてトモエ――ことルルエッタをロゼに紹介する。自分のやったことを理解した切っ掛けを思い出して、ロゼは緊張でドレスアーマーの端を強く握る。


「犬じゃなくてオオカミよ」


 アウラとの再会に街中で泣きながら抱擁したのは、トモエも恥ずかしくて持ち出してほしくない話だ。


 赤くなった顔を背ける彼女に俺はそれ以上深く突っ込むつもりはなかった。だが無神経に触れる愚者もいる。


「ん? なに、こいつ泣いたん?」

「もうっ、余計な事言わないでよ。そもそもあんたもカオルも――」



 バカのせいで俺にまで飛び火した。ジョンも少しはドレイクみたいな大人の包容力を見習って欲しいものだ。


 男二人が女子高生の叱られてる横で、ロゼが一歩前に踏み出した。


「ごめんなさい」


 突然の謝罪にトモエは説教で誤魔化していた羞恥心も吹き飛んだ。


「えっ?」

「反省してんだよ。色々迷惑かけて悪かった」


 約束通り、俺もロゼの隣で頭を下げる。


「別にいいわよ、アウラもあんたも納得してるなら。どうせ私は部外者なんだから」

「ガキンチョは素直じゃないっすね。オレは全然問題ありませんよ。あっ、リーダー達もこれ食べていくっすか」


 投げ渡されたのはまだほのかに温かい肉まんのようなモノである。中を割ると中は粒あんが詰まっていた。


「饅頭か」

「ジョンが探索してる間に餡子の材料が見つけてきて、材料は分けるから作れって」

「勝手に話を作らないでくれませんかねー? オレが大豆を見つけたのを話したら強奪されたんすからね。まあ美味しいんでいいですけど」


 ジョンはいつの間にか飯を食い終わってデザートに入り、同じものを食っている。こいつもゲーマーだ、早くイベントに戻りたくて仕方ないのだろう。


「まんじゅう……」


 白い皮のもちもちな饅頭をじーっと見つめるロゼ。


「中に餡子が詰まった――説明するより食った方が早い。いいか?」

「どうぞ」

「――ありがとう」


 ロゼは俺が半分にした饅頭を受け取り、そのままかぶりついた。


「んっ!」


 表情筋を動かさず、されど眼だけはキラキラと輝かせて喜んで見せる。随分と器用な喜び方だ。


「目で感想を言うな、口で言え、口で」

「なんて?」


 どう答えるのが正解なのかわからず、ロゼは戸惑う。


 悩む彼女に誰かがアドバイスする。それは俺でも、ジョンでも、ましてやトモエでもない。そもそも俺の知らない声だった。


「そういうときは作った者に『おいしい』と言ってやれ」


 エルフの女の子だ。


 いつの間にか輪に混ざっていた幼女が、俺の手から饅頭を奪って小さな口に頬張った。


 まるでアウラを小さくしたような姿、美幼女とでもいえばいいだろうか。ロゼと並ぶと年の離れた姉妹にも見える。


 そんな女の子にロゼは


「お姉様!」


 と、呼びかけた。



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