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第八話 情報交換

「お姉ちゃん……ってことはアウラか」


 ロゼが姉と呼ぶのはアウラ一人だろう。アリスも姉と呼んでもおかしくないが、なぜかあれは呼び捨てだ。


「ロゼが私のアバターを使っておるからな。代わりにロゼのアバターを借りた」

「ひゅー。それがロゼの姿……と、ちんまいな」


 自分の腰までしかないアバターの頭に手を置くジョン。


「それ、締め上げる」


 ジョンは「それ」扱いになった。さっき謝ったばかりだが、あいつが迂闊なのが悪い。


「男の触手プレイなんて誰もお望みじゃないっすよ――じゃっ、オレはお先に」

「ちっ、逃げられた……」


 ロゼの触手が伸びると同時に、ジョンは走って洞穴の一つに去っていった。情報交換の前に逃げられたか。


「男の触手プレイね。――のう、ご主人よ」

「なんでございましょう?」


 背筋をぞわつく寒気がする。なんだか今日はこればっかりだ。


「『黙っとけばわかんねえよ』、じゃったか?」


 アウト! 無死満塁の超ピンチじゃねえか!


「ほら、接近戦はしてないから。なっ? ロゼ」


 全身から吹き出す滝のような汗を感じる余裕もなく、お隣さんを見る。


「――この男がやれって言いました」


 躊躇いもなく俺を売りやがった。さっき俺の事マスターって呼んでましたよね?


「ロゼよ、アリスと一緒にノリノリで暴れてたのは見ておるからな?」

「――ん」


 ロゼだったアバターが俺の方に転がってくる。軽く揺らしてみるが反応はない。


 つまり、


「逃げやがった!?」


 中身不在のアバターの腕を持ち上げる。ロゼのコアはうんともすんとも言わず、沈黙しているが。


「こいつ、居留守を決め込んでるか、アウターワールドからログアウトしやがった」

「はあ、ロゼのアバターはわらわが使っておる。ってことでこやつにはあとで別の罰を与える」


 罰と聞いてロゼの腕輪が小刻みに振動しだした。一人だけ逃げようとするからだ。


「とりあえずアバターを元に戻すか。これはインベントリが機能停止したからの応急処置だからな。――ご主人へのお仕置きは今度実行するから忘れるでないぞ」

「はいはい、それとお前がお役目を放棄したからの間違いだろ」


 アウラは自分のアバターに触れ中身を入れ替えた。今度はロゼの幼女アバターから力が抜けて、それをアウラが受け止めた。


 そのまま幼女はアウラの家に送られ消えていき、ダークエルフはエルフに戻っていく。


「誰だってあんな気持ち悪い生き物とは戦いたくなかろう。トモエも虫と戦うのはごめんじゃよな?!」

「あーうん、あんまり積極的に戦いたくはないかな」


 ほれみろ、そうアウラは味方をみつけてドヤ顔をみせてけてくる。トモエはたんにおまえの圧に屈しただけだろ。


「今後も虫が出てきたらロゼに押し付けるつもりか?」

「うぐっ、駄目か?」

「演技で誤魔化されねえよ、却下だ」

「……半分本物じゃ」

 

 泣き真似をしていたアウラは俺を攻撃しようと伸びる触手をどーどーと宥める。


 こいつは俺をマスターと認めても、反抗期は終わってないらしい。


「その話は置いといて、情報交換でもしない? ダンジョンの地図が欲しいんだけど」

「あー助かる。とりあえずこれが俺が来た道のマップデータだ」

「こっちは私とジョンね。一番最初にここへたどり着いたジョン曰く、二段目の穴が上層へ繋がるルートじゃないかってらしいわ」


 マップデータの共有と、ついでにトモエから上へ続く道を教えてもらった。


 どうやらジョンが出入りするプレイヤーを観察していた所。二段に分かれる穴は下段は入ってくるプレイヤーが多く、上段は出ていくプレイヤーが多いらしい。

 

 そうなると上段が次の階層に繋がる道と考えた方がよさそうだ。


「そっちは壁画を見なかったか」

「壁画……? 確かトレジャーを探してる時に見つけたっけ。ねっ、キキ」


 トモエがキキと呼ぶと子猿が現れた。赤い毛並みで手に乗るサイズの小さな猿だ。小さく切った果実をもらうと、両手で持って美味しそうに食べ始めた。


 シラユキも自分もお腹すいたと切なそうな顔でトモエを見つめる。まるで俺がずっと食事を与えてないみたいだが、山に登る前にアウラがあげたよな?


「そういえばそっちもパートナーを見つけたのか」

「この子はお姉ちゃんの子だけどね。私はルルエッタの方で見つけて、今はサクラに預けてる」


 ルルエッタの見つけたパートナーは猫、シルフィは小鳥、アオイは犬で、見つけられてないサクラは必死になって探してる最中だと言う。妹の物欲センサーはドロップ品だけでなく、そっちにまで出張中か。


「それで壁画を見つけたって話だっけ。なんかアンズーのボスっぽいのが描いてあったわね」

「それもだが、なぜ動物達が怪物化したのかがな。ジョンは何か言ってたか?」

「パートナーとなったプレイヤーと線が繋がって見えるって。それでアンズーは黒だとも」

「あいつの目にはそう見えたか」


 ジョンは生き物の纏う気を見る。たまに居る「オーラが見える人間」ってやつだ。


「ファンタジーによくある魂的な繋がりかな」

「単純に動物達のAIがプレイヤーから何かを学習してるって方が納得できる」

「何か?」

「――例えば感情とか。よく言うだろ『ペットは飼い主に似る』って」

「サクラに預けたのは失敗だったかしら」


 確かにサクラに似た猫というのはアホの子に育ちそうだな。うちも他人事じゃないが。


「くー?」


 シラユキは俺がじっと見てるのに気づいた。なあに? と言いたげな顔はルルエッタに焼いてもらった肉で汚れている。


 うん、アホっぽい。


 だけど――これは怪物に変貌しそうにないな。

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