19.【この世界の愛情を】
「陥没・・・。アワリティアの時の?」
「ああ。」
ガルド宅に不法侵入し、盗み出した資料を勝手に閲覧そのまま帰還。
軽犯罪がどうたらだが、ガルドはこの村を陥没させようとしている。陥没させて、その後に何らかの方法で魔石を持ち出すつもりだろう。
リデアとの食事とレリィとの探検により、現在は夕方。
アキトに言わせれば6時ぐらいだ。
「とりあえず、今日ガルドがやっているのは管理のはずだ。」
「はい。」
「明日から・・・」
「ああ」
レリィとリデアの力を最大限に頼り、借り、自身の力を最大まで貸して、アキトはしなければならない。
孤独な少女の救済を・・・。
強欲な悪の抹殺を・・・。
劣悪な長に鉄槌を・・・。
しなければならない。
『カーミフス大樹林の崩壊』それを、止めなければならない。
ーーーーー
シーツを押しのけ扉を開く。
階段を早足に駆け降り、食堂のパンを2つほどもらい、それをつまみながら待ち合わせ場所に向かう。
朝の寒さを感じながら、まだ本調子ではない喉に食事を放り込む。
靴底に感じる硬い地面。
しかし、この地面は大魔石に吸い取られ、直に陥没する。
カーミフス村を地図から消す。その陰謀によって。
今はまだ起こらない。それが分かっているのに、自分がいつ浮遊感に呑まれ消え失せるのか恐ろしい。
アキトのその心情を、現実にしないため。
「まってろガルド。」
ーーーーー
「悪い、待たせたか?」
「いいえ、レリィはもうガルドに話を通しているみたいだから、行きましょう。」
とうとう敬称を遥か彼方へ吹き飛ばしたリデアは、ガルドの陰謀に誰より憤慨している。
ちなみに、アキトの遅れた理由は、レリィのツリーハウスに行っていたからだ。
その後に二度寝してしまった事もあるが、この際どうでもいい。
「それじゃあ、」
「ええ、行きましょう。」
ガルドの悪行を暴き、その奇行をやめさせる。
それでも、リデアたちはまだ知らない。
この村は、そう簡単には救えないと。
ーーーーー
両開きのドアをあけ放ち、鋭い眼光でガルドを睨む。
「ガルド。話がある。」
「何だ?」
ファーストコンタクトの常識人人格は、すでにアキトにもガルドにも残っていない。
剣呑な雰囲気に、レリィが緊張をあらわにする。
その視線に穏やかな笑みを返し、アキトがガルドに向き直る。
「腹の探り合いもめんどくせぇ、単刀直入に聞こう。この村の陥没をとめろ。」
テーブルを叩き宣言したアキトに、一瞬目を見開くと、ガルドは小さく笑った。
まるで、堪え切れないとでも言うように。
「残念だが、もう無理だな。」
「いまてめぇを俺が殺してもいいんだぞ?」
異世界であれ、殺人についての法はある。
そして、まだなにも罪を犯していないガルドを殺す事を、リデアは許容しない。できない。
それでも、ここでガルドが死ねば、ポーションの製造人員に、製造の指示もできなくなり、手っ取り早いといえば手っ取り早い。
「そうじゃない。ここで俺を殺しても、意味はない。この計画には、アワリティアが関わっている。」
「・・・・・・・・・・は・・・ぁ?」
ガルドの言っている事が理解できない。
おかしい。どうしてあの犯罪者が近隣の村の長に協力を求める?
そんな思考が生まれる。しかし、アキトは知っている。
竜伐というイレギュラーが、アワリティアの戦闘地域にいる事を。
強欲のために手段を選ばない、狡猾さも。
「大魔石を半分に割り、片方ずつで所有しようと、アワリティアに交渉を持ちかけられた。」
無論、半分の魔石と交換されるのはガルドの命だろう。
「従うしかない。しかし、アワリティアが少し戦闘をしてな?」
グレンとアワリティアの衝突。
あの決戦は、ガルドとアワリティアにとっても予想外の事だ。
「だいぶ先だった大陥没の時期が近づいたんだ。」
「まさかてめぇ!」
「ああ、魔石が半分になったんなら、村を消して俺だけの所有物にすればいい。」
半分の魔石を村で扱うより、その村を消してガルドの個人所有にしてしまえば、財産は増え、面倒な仕事もしなくてよくなる。
リスクの高い計画であり、成功すれば大きなメリットがある。
アワリティアの交渉、グレンの強襲、リデアの来訪、全ての要素がアキトに敵意を見せつけて、その重なり合う全てのチャンスが狂った思考をガルドに与えた。
「陥没をさせるために、俺とアワリティアでポーションを採取。そして、陥没により落ちてくる瓦礫から、俺と魔石をアワリティアがまもる。」
「・・・完璧な作戦・・・か?」
「ああ、そうだ。」
胸の奥から込み上げてくる謎の感覚に、驚いた。
笑みだ。
「俺が今乗り越えなければならない障害は3つ。」
「あぁ?」
「アワリティアの排除。ガルド、てめぇの計画の阻止、レリィの救出だ。」
さて、それでは考えてみよう。
アワリティアを排除すれば、ガルドは大陥没を起こせなくなる。
大陥没を止めれば、ガルドはこの村から追放され、彷徨うことになる。
そうすれば、このカーミフス大樹林でアキトが最も行わなければならない試練、レリィの救出が、決行できる。
「その元凶が大魔石に集まるってんだ、こんな得な事はない。」
「っは、笑わせてくれる。」
「決行は明日。そうだろ?」
「っ!」
ガルドがピクリと肩を震わせる。
情報源のレリィをきつく睨み、それを圧倒する魔力をリデアが叩きつけた。
ガルドは今日、村の雑務。という建前のもと、従者を引き連れ村の住民達に徴収だ。
そして、アキトは思い出す。
あの光景で聞いた、言葉を。
試練の決着は、大魔石の置いてあるあの地下空間で起こる。
明日、あそこでアキトは死ぬか生きるかの勝負をする。
アワリティアから隠れた時に見つけた地下空間で。
アキトは遭遇していたのだ、大魔石に。
ガルド宅を出て、リデアとレリィと村をでる。
この村をまもる。
大魔石の神秘的な景色より、レリィを含めたあのツリーハウスからの景色が、アキトは好きだったから。
ただの石には、この世界の愛情を超えられない。
そろそろ1章が終わります。23.ぐらいかな?作者なりに少ない頭で全力で考えたので、少しは面白くなると思います。そして、ブックマークしてくださった方、ありがとうございました!。とても嬉しかったです。これからもよろしくお願いします。