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アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―  作者: わらび餅.com
第二章 軍属大学院 入学 編
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44.結婚とはなんぞや


『ねぇねぇ武! 「ぷろぽーず」ってなぁに?』


「おいやめろキュウ、やっと忘れかけた所だったのに掘り返すんじゃない」


 怖いほどに揺れない馬車の中で、ようやく忘れかけていた先ほどまでの羞恥をキュウによって思い出させられる。

 膝の上でこちらに向かって首を傾げる姿は実に愛らしいが、その無邪気な刃は今の自分には鋭すぎる。


「ん? どうしたんだタケル?」


「キュウちゃんにさっきまでの事で何か聞かれてるんじゃないの? 昨日もタケルに『バックヤード』の意味とか聞いてたし、『プロポーズ』の意味とか聞いてそうね」


 自分の隣に座るサキトと正面に座るアイラには、キュウの言っている事はわからないはずなのだが、アイラが見事に現状を言い当てている。


(エスパーかな?)


 アイラのその言葉を聞いたキュウは、自分が答えないと判断したのかアイラの膝の上へと飛び移る。


『ねえ! その「ぷろぽーず」って何なの? おしえておしえて!』


「ふぇっ!? な、何々!?」


 自分にはキュウが何と言っているのかがわかるが、アイラからすればキュウキュウ鳴きながら寄りかかられているだけだ。

 困惑するのも当然で――


「えっと……当たってたってこと? プロポーズが何か知りたいの?」


 キュウの脇を抱えあげて目線を合わせながらアイラがそう聞くと、キュウはコクコクと頷く事で返答した。

 困惑しつつもなんだかんだでキュウと意思疎通できてしまっている。

 今度から敬意を込めてエスパーアイラと呼ばせてもらおう――という冗談はさておき、本当によくわかったものだ。

 驚きを通り越して思わず感心してしまっていると、何かを思い浮かべる様に目線を上に上げながらアイラが口を開く。


「そうねぇ……好きな人に『結婚してください』ってお願いする事……かしらね?」


 その言葉にまた別の疑問が湧いたようで、キュウが再び首を傾げながら質問をする。


『「けっこん」ってなぁに?』


「え、えーっと……?」


 困り顔のアイラがこちらへと視線を向けてきた。

 流石のエスパーアイラにもキュウが何を聞きたいのかはわからなかった様だ。


「『結婚』が何かわからないんだってさ」


「あぁなるほど……って、それくらいタケルが答えればいいじゃない!」


「……おっと、花束は潰れてないかな?」


「誤魔化し方が露骨すぎるわよ! っていうかマジックバッグに仕舞えばいいじゃない。最初からそうしとけば露店のおばさんとかにも勘違いされなかったわよたぶん」


 アイラの言うことは最もだ。

 そもそも出発前にも、花束をマジックバッグに入れれば楽だとは思ったのだ。

 花束を手に持って運ぶ事で周りからどう見えるかにまでは思い至らなかったわけだが、それはもう過ぎた事なのでひとまず良い。


「その……昨日の話を聞いた後だとさ、ちょっと心配になっちゃって……」


「昨日の話……? まさかマジックバッグに入れすぎるとダメって話!? あれは業者レベルでの話よ!?」


「う、うん……大丈夫だとは思うんだけどさ、何かの間違いでせっかくの花束が潰れちゃったりしたら嫌だなって……」


「……大丈夫だって私が保証してあげるから、もう入れときなさい」


「そ、そっか、わかった」


 アイラがそこまで言うのならば大丈夫だろうと、花束をマジックバッグに収納したところで、痺れを切らした様にキュウが声をあげる。


『だから! 「けっこん」って何なのさ!』


 前足をブンブンと振り回しながら声をあげるキュウに驚いたアイラは、キュウが何を主張しているのかは感じ取れた様で、焦りながらも的確に答える。


「えーっとね……結婚っていうのは好きな人と『ずっと一緒に生きていきましょう』って約束を交わす事……かしら?」


 キュウにもわかりやすい様に出来るだけ言葉を選んでくれた様だ。

 おかげでキュウにも伝わった様で、落ち着いたキュウが体を捻って出来るだけこちらを向きながら問いかけてくる。


『じゃあキュウと武って「けっこん」してるの?』


「ふふっ、それとはちょっと違うかな」


 確かに今の説明だとキュウがそう勘違いしてしまうのも仕方がないと思えてしまい、つい笑いがこぼれてしまう。

 すると、黙って話を聞いていたサキトが不思議に思ったのか声をかけてきた。


「ん? どうしたんだタケル?」


「いや、僕とキュウも結婚してる事になるのかって言うもんだからさ」


「ああ、確かに今の言い方だと精霊使いはみんな結婚してる事になっちゃうわね……」


 少し思案をしてからアイラが再び口を開く。


「キュウちゃんはタケルの事好きなのよね?」


『うん、好きだよ」


 こうストレートに言われるとなんだかこそばゆい。

 キュウが首を縦に振ったのを見て、肯定していると理解したアイラは続ける。


「じゃあキュウちゃんってタケルと一緒にいる時って緊張してドキドキしたり、話すだけで照れちゃったりする?」


『ぜんぜんしないよ』


 キュウが首を左右に振るのを確認して、アイラはさらに続ける。


「うん、そうよね。でも、好きだからそうなっちゃうって類いの『好き』っていうのがあるのよ」


『そうなの?』


 よくわからないといった感じに首を傾げるキュウへと、一つの例をあげてみる。


「昨日サキトにハルカ先輩の話をしたら、サキトの様子がいつもと違う感じになってただろ? ああなっちゃう好きがあるんだ」


『なるほど! 確かにサキトん変な感じだった! なんか暑そうだった!』


「そうそう、顔を真っ赤にしてたもんな」


「おいっ、やめろ! なんか恥ずかしいからやめろ!」


「ちょっとサキト、馬車が揺れるから静かにしなさいよ」


「お、おう、すまん……」


 例としてあげられたサキトが羞恥に吠えるが、アイラに咎められて静かになる。

 ちょっと可哀想だ。


「まあ、そういう好き同士な人たちが、家族になるために『結婚』って事をするのよ」


『へー、そうなんだ。じゃあ「ぷろぽーず」っていうのしたら「けっこん」出来るんだ』


「いや、プロポーズはそのお願いってだけで、実際結婚しようと思ったら役所に行っていろいろ手続きしないと駄目だよ」


『「いろいろ」ってどんなこと?』


 詳しくは知らないので「いろいろ」と言葉を濁したのだが、キュウはそこも気になるようなので、自分の知る限りのあやふやな知識を答える。


「えーっと、ほら、診断したり申請したり引っ越ししたり……」


『えー、なんかめんどうくさいね。好き同士ならセイルおじいちゃんと武みたいに勝手に家族になればいいじゃん!』


「――うん、確かにそうなんだけど……何て言ったらいいのかな……?」


 キュウの純粋な考え方に、何と説明をすれば理解してもらえるかが思いつかず口ごもっていると、そんな自分にサキトが声をかけてきた。


「ん? キュウは何て言ってんだ?」


「好き同士なら僕とおじいちゃんみたいに勝手に家族になれば良いのにって言うんだ」


「ああ、なるほどな」


 自分からキュウの主張を聞いたサキトはそう相槌を打つと、全く悩む素振りも見せずにキュウへと説明を始める。


「タケルとセイル様が家族だって事、広めない様にしてるのは知ってるか?」


『うん』


「おう、なら話は早ぇ! 俺たちは直接見たから知ってるけどよ、知らない人からしたらその事実ってのは『英雄の家族を騙るだなんて、なんて不届きな奴なんだ!』ってなってタケルに迷惑な事するやつも出そうなくらいには信じにくい事なんだ」


『そうなの?』


「そうなの!?」


「なんでタケルも驚いてんだよ?」


「いや、おじいちゃんが有名人らしいから、おじいちゃんへの伝欲しさに僕に人が寄ってくるのを防ぐためだと思ってたから……」


「ああ、メインの理由はそれだと思うぜ? ただ、お前とティスト様が連んでるっていうのを知らなけりゃ、さっき言ったみたいな事にもなりかねねぇってだけだぜ? 世の中色んなやつがいるからな」


 サキトはそう言うと、再びキュウへと説明を続ける。


「まあそれはひとまず置いておいて、要するに何が言いてえのかって言うと、知らない人に家族だって証明するのは意外と難しいんだって事だ。だが普通の人は場合によってだが家族だって証明できる証拠が欲しい時があるんだよ。その証拠を得る一つの手段が結婚ってものなんだ」


『なるほど! サキトすごい! わかりやすい!』


「おお~、確かにわかりやすい!」


 思わず拍手をする。

 今まで疑問にすら思ったことの無かった部分なのですぐに答えられなかったが、別に行政的な手続きの心配さえ無ければ、確かにキュウの言うように勝手に家族になっていれば良いのだろう。


(ああ、あとは家族割りとかみたいな割引制度もか……)


 そんな事を考えながら得意気なサキトの横顔を見ていると、ジト目のアイラがサキトへと問いかける。


「で? それ、誰に聞いたの?」


「おう! 昔兄貴と義姉さんが結婚する時に疑問に思って聞いたらこう説明されたんだ!」


「そんな事だろうと思った……。だったらなんでそんなに得意気な顔してんのよ?」


「え? だって兄貴の言葉が正しいって事だろ……?」


「ああ、そういう……」


 どうやらサキトがすんなりと答えられたのは経験則からだった様だ。

 確認するまでも無く、きっとサキトはお兄さんの事が好きなのだ。

 アイラとしては、他人の言葉を我が物顔で語って何で得意気になっているのかと疑問に思ったのであろうが実際の所はお兄さんを誇らしく思っただけであり、自分の拍手にしてもサキトへと向けたつもりだったのだが、サキト的にはお兄さんへと拍手が向けられたと感じたのだろう。


(良い関係だな……)


 一度サキトのそこまで誇るお兄さんに会ってみたいと思うが、リオナさんとも会えたのだ。

 きっとその内会う機会もあるだろう。


「ああそういえば、サキトは制服って言ってたけど、アイラも制服なんだね」


 キュウの疑問への説明も終わったところで、自分も気になっていた事を聞いてみた。

 アイラの家はかなり規模の大きな商会のようなので、ドレスなども自前の物を持っていそうだと勝手に思っており、制服を着ているのを見て不思議に思っていたのだ。


「ん? まあドレスもあるけど、私までドレス着ちゃったら制服着てくるのがサキトだけになっちゃうし――」


「そんな事気にしてたのかよ。別に俺は気にしねぇぞ?」


「あんたが気にしなくても私もソフィアもどうしてもちょっとは気にしちゃうのよ。だからスーツあげるって言ってもあんた断るし……。それに私もドレスはいろいろ疲れちゃうから制服の方が楽だし、都合が良いのよ。だから別にあんたが気にすることじゃないわ」


「おお……というか今までパーティーで基本的に制服着てたのもそういう事だったのか……。俺もさっさとスーツ買えるくらいには稼げるようにならねぇとなぁ……」


「だから気にしなくていいって言ってんでしょうが」


 なんだか色んな意味で申し訳ない気持ちになってきた。

 自分も早く稼げるようになって、どうにかハヴァリーさんなどにお返しをしたいものだ。

 そんな事を考えていると、小さな鉦の音が鳴る。


「あら、着いたみたいね。それじゃあ行きましょ」


 そう言うとアイラは立ち上がって馬車の扉を開けて外へと出る。

 どうやら今の鉦の音が到着を知らせる合図のようだ。

 全く止まった感覚がなかったのだが、よく考えれば進んでいる感覚も無かった事を思い出す。

 車体が魔法で浮いているが故の現象なのだろう。


(ん? じゃあ何で車輪がついてるんだ……?)


 車体を浮かせられるならそのまま馬で引っ張ればいい気もするのだが、まあきっと何か理由があるのだろう。

 そうとりあえず納得して自分も馬車から降りる。

 地面に敷かれた石畳は特に貴族の居住区画だからといって違うわけでないようで、通りを見るだけでは特に他の区画との違いは感じられない。

 違いを感じる部分があるとすれば、その通りに沿うように立ち並ぶ屋敷が作り出す景色だろうか。

 どれも一家族が住むにはあまりにも大きく、目の前にあるおそらくソフィアの家と思わしき屋敷も、その例に違わず大きいのだが――


(なんか思ったより小さいな……。それこそ今住んでる屋敷よりも少し大きいくらい……)


 四大貴族だとかなんとか呼ばれているらしいので、なんとなく途轍もない程の巨大な豪邸にでも住んでいるのではと考えていたのだが、意外と小さい。

 門の前に軍人とはまた違った制服を着た人が二人ほど立って門番のような事をしてはいるが、自分の住んでいる場所とそれ程に差が無いため何だか拍子抜け――


(――いや、これはおかしいな……)


 この半年程広い家に住みすぎて感覚が狂ってしまっていたようだ。

 たった数人が住むためだけに、こんなマンションみたいな大きさの屋敷なんて必要ないのだ。


「行った事無ぇからしらねぇけどよ、ソフィアの実家ってこの屋敷よりもっとデカいんだよな? ちょっと想像つかねぇよな」


 サキトがそんな感覚の狂っていない意見を述べる。

 いや、自分もこれよりも大きな屋敷はあまり想像できないからまだ大丈夫なはずだ。


(うん、きっと大丈夫だ)


 そんな現実逃避をしていると、門の前に立っていた門番のうち、薄い水色の髪を短く切り揃えた男性の方が捲し立てるように話しかけてきた。


「おお、誰かと思えばサキトとアイラじゃねぇか! よく来たな! 一応聞いとくがお嬢の合格祝いにきてくれたんだよな――って、そっちのスーツ着てんのは……?」


「こんばんはケビンさん。えーっとこっちにいるのは――」


「――ソフィアの命の恩人じゃぞ。なあそうじゃろう少年?」


 ケビンという名前らしい彼の質問に答えようとしたアイラの言葉を、優しげな柔らかく深い声が遮った。

 声のした方向には、一人の老人がいた。

 顔や手に刻まれたしわは深く、少し曲がった腰を年期の入った木の杖で支えており、一目で相応の年を重ねているとわかった。

 しかしそのわりに毛髪はしっかりと生えそろっており、一つに結わえられたその深緑の毛髪と彼の風貌から、まるで生命力溢れる樹齢数百年を超えた一本の巨木のような印象を受けた。

 それと同時に、彼とどこかで会ったような既視感を――


(あれ? この魔力って――)


「ふぅ、数日ぶりじゃのう少年」


 ため息のような薄い笑いを漏らして、そう言葉を続けると彼は右手を差し出し、その上に一匹の深緑の魔力で形作られた小鳥を生みだした。


「あ、じゃあやっぱりあなたが――」


 自分が言い切るよりも前に、ケビンとやらが慌てて飛び込んでくる。


「おっ、大旦那様!? どうしてこんな所にいらっしゃるのですか!?」


「ん? ワシがかわいい曾孫の友人と恩人を出迎えて何が悪いのじゃケビンよ」


「い、いえそういう問題ではなく、お腰の方が悪いのですから安静にですね……」


「なあに魔法で補助すればどうと言うことはないわい。さて、外ではなんじゃからパーティーまでの間、中で話しでもしようぞ少年よ。アイラの嬢ちゃんたちはまた後でのう」


「え? じゃあいつも俺らが移動を手伝ってる意味は――?」


「ほれ、遠慮せず中に入るがいいぞ」


 老人とケビンとやらのやりとりに目を白黒させていると、何かに柔らかく背中を押される。


「うわわっ!?」


 唐突だったため抵抗できず、そのまま門をくぐってしまった。


「あっ、ちょっ、お前!」


「まあいいじゃないケビン、大旦那様が連れて行ってるんだから何も問題はないわ」


「ま、まあそうか……」


 後ろからケビンとやらと誰か女性のそんなやりとりが聞こえる。

 恐らく門番をしていたもう一人の濃い茶髪の女性の声だろうか。

 とりあえず問題は無い様なので、前を歩く老人の後を追いかけながら声をかける。


「あ、あの……ディムロイさん……ですか?」


 老人は自分を確認するように少し目線をこちらに向けながら答える。


「うむ、ちゃんと魔力感知はできるようじゃのう。まあ積もる話もある。部屋に戻ってからゆっくりと話そうぞ」


 そう言われるがまま、自分は屋敷の中へとつれていかれた。

 これがソフィアの曾祖父であり、おじいちゃんの古くからの友人である『ディムロイ・リブルス・ラグルスフェルト』との出会いであった。






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