私の大好きな彼
「何よ、やっぱり付き合ってんじゃない!」
騒動があってから1週間後、私は体育館裏に呼び出されていた。
目の前にいるのは今日も可愛い相馬さんとそのお友達。
手が挙がったからああこれは一発食らうかなと思っていたけど、相馬さんは寸での所で堪えて振り下ろす。周りにいるやっぱり綺麗な友達の皆はそんな相馬さんを見て「麗華…!」と何やら感動したように涙目で声をあげていた。
どうやらあの後相馬さん達は仁くんから軽く注意を受けたらしく、そういった少々過激な行動はしなくなったのだという。忠実にそれを守っているあたりでやっぱり相馬さんは良い人だ。そしてそうさせる仁くんも何だかんだで生徒から信頼されているらしい。
そして、今回に限っては私もさすがに申し訳なく思った。
前に叩かれた時だって嘘なんかついていないけれど、それでも相馬さんから見ればやっぱり私が嘘をついたように見えてしまうんだろう。それくらいは分かる。
「うん、相馬さんごめんね」
「な、さ、最初から認めなさいよ、馬鹿!」
「うん、ごめん。言い出しにくかったの」
あの時相馬さんが見たのは私の真似をした灯里くんだった。
北上君から聞いて、やっぱりしっかり彼にはお灸をすえなきゃいけないと考えたわけだけど、そんな事実を彼女達に言う必要はないだろう。
全く関係ない所で振り回されていたのは事実だし、おまけに実際私がいま北上君と付き合っているのも事実だから。
ワアッと泣きだした相馬さんを慰めるお友達の皆さん。
泣いたその顔も可愛らしく、それを支えるように抱きつくまわりの友人達との絆も美しい。
「…腹立つけど、明良が幸せそうだから良い。でもいい加減に扱ったらアンタ地獄に落とすから」
上目づかいで目にいっぱい涙をためてそんなことを言う相馬さん。
ああ、本当に可愛い。
そしてそこまで健気な彼女を見ているとやっぱり胸に占めるのは罪悪感。
それでもここで更に謝るのは彼女のプライドをへし折る行為なんだろうと思ったから、私は謝罪の言葉を飲みこんだ。
「ありがとう、相馬さん。私も相馬さんみたく可愛くなれるよう頑張る」
「か、かわ…っ、あ、当たり前でしょ!アンタこそ少しはそのいもくさい格好何とかして明良に見合う外見になりなさいよ!見てて腹立つのよ!」
「うーん、でもどうやって。あ、そうだ!相馬さんやっぱりすごく可愛いし、良かったら私の師匠に」
「誰がなるか!」
ほんの少しの期待を持ってお願いしたら最後まで言う前に却下される。
やっぱ駄目か…なんて少々落ち込む私。
「……友達としてなら、別に協力してやっても良いけど」
「え?」
「…わ、悪かったわよ、この前は叩いたりして。あの後誰にも言わないでくれたのも知ってる。腹立つけど明良が何でアンタ選んだのか分かった。だから、友達くらいにはなってあげるって言ってんの!」
「相馬さん…!本当に可愛い。ねえ、その顔写真に撮っても」
「へ、変態!」
「え、えー!?変態じゃないよ!人類皆可愛いものは大好きだと思うんだよ!」
「何の話してんのよ、変態じゃないなら変人!」
「あ、それは否定しません」
「……何なのこの子、疲れる」
相馬さんはやっぱり良い人で。
それからパチンと軽く頭を叩いて「これでチャラ!」と言うと、呆れた顔をしながらも笑った。
周りにいた山田さん、佐伯さん、諸角さんといったいつも一緒にいるお友達が「さすが麗華!」と憧れの眼差しで相馬さんを見つめる。
ああ、女子高生の友情って素晴らしいなあなんて私も妙に感動しながら相馬さんを見つめた。
そうすると相馬さんがにやりと笑ってこっちを向いてくる。
「で、こうなったらしっかり吐きなさいよ。アンタ森崎とも噂立ってたでしょ、一体何があったのか包み隠さず教えなさい」
「え、いや、でもさすがに傷心の傷抉る真似は」
「良いから言うの!私には聞く権利あんでしょうが」
「そうそう、真山さんきっちり説明責任果たしなさい?そう簡単には帰さないよ」
「え、いやいや、もうすぐお昼休みが」
「授業休みたくないんだ、真面目だねえ陽菜ちゃん。だったらさっさとスッキリしておこうよ」
「え、えー…、女の友情怖いね」
「団結するにはお互いの意志疎通が必要でしょ?常識よ」
「そ、そうなの…私初めて知った」
気付けば周りの3人にも取り囲まれ、そんな人生初の恋バナなんてものをしてしまった。
ちなみにその外見のギャップから、目撃者達に密かに私が取り囲まれリンチされていると勘違いされて騒ぎになるのはその少し後の話。
「なんでよ!」と憤る相馬さん達を宥め、リンチなんてされていないと誤解を解きにまわって、落ちつく頃にはぐったりしてしまった。
「だ、大丈夫?真山さん」
「う、ん……それにしてもなんであんな噂が回るかな。ただ女子の友情深めただけなのに」
「そりゃあ、あの派手なお姉さん達に陽菜ちゃんみたいな真面目ちゃんが囲まれてればねえ」
「うるさいよ灯里くん。そもそも灯里くんがあんな真似しなければ」
「えー?でもあんな真似したから今明良と付き合えて、綺麗なお姉さんとの友情もゲットしたんじゃん。俺功労者じゃない?」
「…というか何でお前毎日当たり前のようにいるんだよ、邪魔だ1人で帰れよ」
「うわ、やだやだ。これだから独占欲の強い男は」
「な、べ、別に」
「ど、独占欲…!?北上君が、私に?」
「…え、あ、ごめん。気持ち悪いよな、俺」
「ううん!そんなことない!う、嬉しい」
「え!?あ、その、良かった。ちょっとホッとした」
「…………本当嫌だこのバカップル。俺の扱い本当酷い気がする」
北上君とはこうして毎日一緒に帰るようになって、初め2、3日すごい騒ぎになった私達も最近やっとちょっと落ちついてきて、そして毎日たくさんの発見がある。
なぜだか灯里くんが一緒についてきて、そしてこれまた何故かいつも途中でどっか行ってしまうという謎ができたけれど、それでも今まで以上に北上君の傍にいられる幸せに私は浸っていた。
「それじゃあまた明日ね、あ、あ、明良くん」
「う、うん、その、ひ、陽菜」
お互い照れくさくて1日1回しかできない名前の呼び合い。
いつか慣れてくれる日が来るのだろうか。
それを想像することさえ、とても幸せに思えた。
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好きな人がいる。
いつも人に囲まれてて、くしゃくしゃと顔にしわを寄せて笑う男の子。
どんな人にも同じように笑みを見せる彼。
ずっと見つめていたら、何だか私も幸せで。
気付けば私の中は彼一色だった。
クラスの中心な君とクラスの端っこな私。
身の程知らずな恋なのかもしれない。
それでもこの恋を続けずにはいられないのです。
願わくば、これからも。
これにて完結となります。
最後までお読みいただきありがとうございました!