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第二十二話

 エリーは沈んだ気持ちで城を後にした。そぼ降る雨は止みそうにない。エリーの沈んだ心のように、街は重く暗かった。

(…どうすればいいんだろう?…どうすればこの国を救えるの?…)

 自分に問いかけてみても、良い考えは何も浮かんでこなかった。

(もうダメ…私一人では何も出来ない…)

 宿屋に帰り扉を開けると、子猫が小さく鳴いて足元にすり寄って来た。叔母が倒れ、居酒屋も宿屋も今日は締め切っている。例え店を開けたとしても、来るお客は誰もいないだろう。

「どうしたの?お腹空いた?」

 エリーをじっと見上げる子猫をそっと抱き上げた。子猫は、何か言いたげにエリーを見つめて鳴き続ける。

「待って、今ミルクを持って来るから」

 子猫は突然エリーの腕から飛び降りると、サッと厨房の方に駆けて行った。何か不吉な気配を感じたエリーは、子猫を追って厨房に入る。

「サム!」

 かまどの前の床にサムが倒れていた。エリーは慌てて駆け寄る。

「サム!…」

 エリーはサムを抱き起こし、頬ずりした。サムはぐったりして、その身体は炎のように熱かった。

「…嫌、嫌だサム…しっかりして…」

 堪えきれずに涙が溢れ出て、エリーは泣き崩れた。

(みんな、みんな病気になっていく…みんな死んでしまうの?…)

「…エリー…」

 サムは薄く目を開け、やっとの思いでエリーの背中に手を回した。

「エリー…」

(泣かないで…僕は大丈夫だよ。僕は死なない…エリーも病気がうつるから、離れた方がいいよ)

「……」

 エリーはサムから顔を離し、じっとサムの顔を見つめた。サムは目をつむり、苦しげな呼吸をしている。今、はっきりとサムの声を心で聞いた。小さな身体で必死に病気と闘っているサムの姿を見て、エリーの心に熱いものがこみ上げてきた。

(サム、大丈夫よ、私が助けてあげるから。みんな助けてあげるから)

 エリーが心で話しかけると、サムは答える代わりにエリーの背中に回した手に力を込めた。エリーは、サムをしっかりと抱きかかえ、厨房を出ていった。

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