第二十話
雨は昼を過ぎても止まなかった。雨に煙る街並みは、暗く沈んで見える。リシリーがさし向けた馬車に乗り、エリーは城へと向かっていた。人通りのまばらな通りに、エリーは葬儀の列を見た。黒い姿の人々の沈んだ群れ。その重い雰囲気は、街の暗さを一層象徴していた。
(また、お葬式だわ…)
流行病が広まってきてから、葬儀の列をよく目にするようになった。為すすべもなく、死んでいく人々…。活気のあった街は、日増しに生気を無くしていく。
エリーが城に向かっていた頃、牢屋のダリルはベッドに寝ころび、牢の薄暗い天井をぼんやりと眺めていた。外は小雨が降り、牢の中は一層ジメジメとしていた。
(もうすぐ城に着く頃かな?…)
ダリルは懐から小さな水晶球を取り出した。手のひらに乗せ、じっと見つめて呪文を唱える。
(やはり、ダメか…)
ダリルは小さく息を吐く。いつもなら、澄んだ水晶球に見たい場面が浮かんでくるはずだった。だが、リシリーの魔法が邪魔しているせいか、水晶球には何も映らない。リシリーと会うエリーのことが気がかりだった。
と、牢屋番の一人が苦しそうな咳をした。 ダリルは身を起こして、目を向ける。
「大丈夫か?」
もう一人の牢屋番に声をかけられるが、咳はなかなかおさまらない様子だった。
「…たちの悪い風邪のせいさ…もう何人もの騎士達が倒れている…」
彼はようやくそれだけ言うと、また咳き込んだ。
(城の中にも病が広がってきたようだ。早く手を打たないと…)
ダリルは水晶球を懐にしまい込みベッドに横になると、精神を集中するように目をつむった。
城に到着したエリーは、家臣の案内で広く美しい部屋へ通された。
「リシリー様をお呼びして参ります。しばらくお待ち下さい」
家臣はそう言って部屋を後にし、エリーはだだっ広い部屋に一人残された。城の中に入るのは、もちろん初めてのことだった。優雅なソファーとテーブル、壁に飾られた大きな絵画、華やかな花瓶に生けられた溢れんばかりの花々、頭上高くきらめく美しいシャンデリア…。どこを見渡してもエリーの日常とはかけ離れた品々が目に入ってきた。
エリーの心に不安の波が押し寄せる。見知らぬ国にたった一人で訪れた異国人のような心境だった。そして、これから会うのは力ある魔法使い…。
(落ち着いて…)
エリーは深呼吸して高まる不安を抑えた。と、その時、部屋にノックの音が響き、扉がゆっくりと開いた。エリーが緊張して振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべたリシリーが立っていた。




