特別
「え?」
ほとんど働かない頭を軽くもち上げ、俺は心なく聞き返す。
そんな俺を手招きで呼び寄せる日種香。
俺に静守曜子の身体を優しく起こすよう指示し、自分は腰を伸ばして立ちあがった。
そして大げさにこっちに振り返ってから、人差し指を立てた。
「いーい? 今から色々と分かったことを話すからね?」
彼女の頭の回転には俺たちも一目置いている。
俺とハヤトは日種香の言葉を、やや緊張した面持ちで待った。
「まず、さっきのジャージの彼。十中八九、彼が国原創だけど……。とりあえず、普通じゃないよね」
『へ?』
突然の言葉に、俺とハヤトは思わずまぬけな声を漏らす。
「まだはっきりしないけど……たぶん、彼は普通の選手じゃない」
そこで一瞬だけ首をかしげる。
「うーん。何か分からないけど……特別な条件があってこれに参加してる人かな……」
言ってることがさっぱり分からない。
俺が理解不能な表情でいるのを尻目に、日種香の話は進んでいく。
「次に、紀本亮平だけど……。彼、信じがたいけど、ただ強いだけの人かも」
そう言いながら彼女はお得意の、意地悪そうな笑顔を作った。
あ、これは、自分の中でしっかりと答えが出た時の表情だ。
「今時そんな人居たんだって感じだけど、このゲームと言う特殊な環境を、ある意味一番謳歌してるんじゃないかな」
「それは……本気で殺し合いとかが好きてことか?」
ハヤトはややしかめっ面になり、日種香に聞き返す。
「言葉が悪いけど、当たらずとも遠からずだと思う。まあ腕試しとかって感じ? 彼の名誉の為に言いかえると」
そう言うと、すこしだけ笑う。
その解答を聞かされたハヤト。
呆れたという風に鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「さてここからの話が一番重要なんだけど……」
俺はなんとなくギクリとして、大きく唾を飲み込んだ。
「ソーマ。キミって何かある?」
んなまさか。
「何かって?」
「それは分からない」
何のことやら。
っと、反射的に答えそうになったが、俺は喉まで出かかったその言葉をぐっと堪え、状況を思い返してみた。
静守曜子、そして自分に向かって飛んできた木刀。
当たらないでくれとは思ったが、何かそれに働きかけた様な記憶はない。
だがよくよく考えてみる。
ハヤトに殴られて死んだ時、俺は静守さんが放った矢。
あの矢は自分の眼前にまっすぐ向かってきていた。なのに俺には当たらなかったというのは、今思うと不自然か?
更に言えば、この学校に来てすぐの時。
俺は静守さんに背後から矢で射られていた。
暗幕の隙間から紀本を狙い打てる静守さんの腕前で、ほとんど動いてなかった俺を背後から外すのは変か?
いや待てそもそも俺の目の前で紀本に刺さった矢、あれは本当に彼女の腕だけか?
いやいや無い無い。
俺にそんな、都合のいい能力があるわけない。
「とりあえずソーマ」
呆然と固まっていた俺は、日種香のやや抑えられた低い声で我に返った。
「え? あ、何?」
静守さんの上体を支えていた俺は、少しだけ顔を上にあげて日種香の目を見る。
そこにあった彼女の顔は、今までに見たことがないほど真面目な表情で、そして、少しだけ寂しそうだった。
「……私は、分からない物を抱えたまま、一緒には行けない」
その言葉の意味を理解するのに、俺はしばらく時間がかかった。
その間にハヤトと一瞬目があったが、すっと視線を逸らしただけで、何も言葉はなかった。
「……今は曜子ちゃんがいるし、これまでの事もあるから何もしない。けど……次会った時は、このゲームのルールにのっとって、君を倒す!」
そう言うと、日種香はかなり無理のある笑顔を作った。
――。
そして小走りに距離を取った後、くるっと俺の方を向いて大きく手を振った。
「嫌いになったわけじゃないよ! 私ってこんなキャラなんだってだけ!」
そう言うと、彼女は少しだけ名残惜しそうにしながら早歩きで去って行った。




