神選
我が家の近所には、大昔から由緒正しい神社がある。
子供の頃から何かあるたびに俺はそこにお参りに行っていた。
二月。
そういや今年は初詣に行ってないな。
何気なくそう思った俺は、そこ、『須上神社』の前で足を止めた。
神社は山の上に見えており、参道を進んだ先にある階段を上って行く。
社務所には誰もおらず、お金を入れて下さいというメモ書きと共に、絵馬やおみくじが置いてあった。
俺はポケットの中の小銭入れから500円玉を一枚取り出した。
そしてそれを横の小さな賽銭箱に投げ込んでから、絵馬を一枚手にとる。
『目標を達成できますように 漣 蒼真』
漣蒼真。俺の名前だ。
めちゃくちゃ曖昧な願い事を書き、本殿の方に向かう。
誰もいないお宮の前に立ち、二礼二拍手……
「節分も過ぎたのに、今ごろ初詣か」
「へっ?」
不意に背後から声をかけられ、俺は思わず飛び退きながら振り返った。
「……どぐ丸?」
振り返った先に立っていたもの。
それは……
『どぐ丸』だった。
どぐ丸というのは、俺の住んでいる一之宮町のいわゆる『ゆるキャラ』だ。
町で発見された遺跡から出土した『土偶』がモデルの、見た目はまったくゆるくないシュールなキャラクター。
だが、カテゴリー的にはゆるキャラという事になっている。
「てか……なんで?」
ここにゆるキャラが?
ローカル放送の撮影?
俺は、自分でもびっくりするぐらい怪訝な表情を浮かべていたと思う。
「蒼真か。いいね」
「なんで俺の名前……?」
「さっき絵馬に書いてたでしょ。漣蒼真って」
やや困惑している俺の事を、まったく気にする様子もない。
土偶ならではの虚ろな目(黒く塗りつぶされてるだけだが)をしたそいつは、無表情のまま言った。
当たり前のことだが、どぐ丸はスポンジの様な生地でできた着ぐるみである。
言葉は中の方から聞こえてきていて、外側の顔はまったく動かない。
さっぱりわけが分からず、何か言おうと一歩踏み出した瞬間。
どぐ丸は俺の方にぐいっと迫りつつ、ニヤッと笑った。ような気がした。
「身長、体重ふつう。特に運動能力に優れるわけでもない」
くっ……。まあそうだけど。
「だけど……うん。まあ、アレだな。最後の一人はお前にしよう」
「へ。俺? 俺が何?」
「ある祭に参加してもらう」
え。祭り?
「お前達の言うゲームみたいなもんだな。お前と同じ、17歳ばかりで闘ってもらって、その代表者を決めるんだ」
「いや、おれまだ16だけど。てかゲーム?」
「数え歳ってやつ。今年で生まれて十七年目ってこと。ゲームというか、大会かな」
どんどんしゃべるなこいつ。
「毎年、神無月に出雲で行われる神々のサミットがある」
あ、これはちょっとだけ聞いたことあるぞ。
「その時に、各地の優秀な人間同士が力を競い合う余興がある。その予選だな」
何言うてるかわからん。
話してると疑問がどんどん増えていく。
俺の口から出る質問に対し、どぐ丸は抑揚のない声で答え続ける。
「予選……」
「これで勝ったら県大会。次に地区大会。そこでも勝ち進めば本番、出雲やね」
「一体、なんの競技……? さっぱり話が……」
「競技というかなんというか。他の人間のライフを0にすれば勝ちっていう、何でもありの戦いだ」
「ライフ……?」
「うん。選手は各自4つのライフを持っている。人にはもともと御霊が4つあるからな」
御霊……。魂か?
「だから三回は死んでも大丈夫」
ふざけた見た目でめちゃくちゃ怖い事いうな……。
まあ、なんとなく話は分かった。
そこで俺は一呼吸だけ間をおくと、少し声のトーンを落として聞いてみた。
「……この大会で勝ったからって、何か得があるのか?」
「勝った者の願いは、確実に叶えられる」
「え。本当か!」
おお! これはすごい事なんじゃ!?
……が。同時に浮かんださりげない疑問。
「というかじゃあ、普段神社でしてる願いは叶えられてないってことかよ」
その瞬間。
どぐ丸は少しだけ首を斜め上に向け、やや遠い目をしながら言い放った。
「その辺はまあ、気にするな……」
こ、こいつ……。
「とりあえず神選に参加できることは、とてもラッキーだ。蒼真も吾もな」
ゲームとか、ライフとか、一人称がワレ等、追求すればまだまだ疑問は尽きない。
……はずなのだが、こいつの話にはそれを上回る妙な吸引力と、有無を言わせない強制力があった。
「その大会は、いつどこで……」
俺がそう言いかけた時だった。
「あ、ちなみに蒼真に選択する権利はないんだ。そして、その質問の答えは、今だ」
あたりが薄暗くなった。




