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老害と呼ばれた者たち

「ワシらが社会からもろたんは、『老害』いう侮辱だけや」


涙ぐむ老人がいる。


「ワシらにも尊厳があるんや。色々とな……、延命措置はできる。でもな。自分の死に場所は、偉い医者に決められたくない。自分らで決めたいんや」


「知ってるか?

テントウムシおるやろ。

あんなに目立つのに、あいつら鳥に食われへんねん」


「なんでか、わかるか?」


「テントウムシは苦いんや。学習効果やな」


「だからワシらは害雷にワシらを食わせて、痛い目に遭わせてやる。

二度と人間様を食いたくなくなるようにな」

周りの老人たちも一斉に叫んだ。


異常な数のコメントが投稿される。


「泣いた」


「俺も参加したい」


「年寄りだけ戦わせるな」


「ふざけるな」


「これが日本か」


「翻訳して海外へ送れ」


「軍は何してる」


「武士だ」


(ぷるるる)


桜井から連絡が入る。


「見たか?」


「あぁ見た」


「彼らはバスで害雷が出現した地域に向かっている」


「それで、俺らはどうすれば良い」


「何もしなくて良い。

彼らは生中継している。

老人たちの覚悟を見届けてやって欲しい」


「子供たちにこれを見せろと」


「父さん、私、見届けたい」


「僕もだ」


「お前ら……、わかった。見よう」


「この作戦、効果があると思うか?」


「わからん。

あの状態では本人たちが先に爆死する。

爆発しても害雷には効かない。

専門家は懐疑的だ。

だが……、

政府は、まだ何も動いていない」


「そうか……」


俺はSNSをちらりと覗く。


「止めるべきだ」


「本人が決めたことだ」


「老人を利用するな」


「生きる価値を誰が決めるんだ」


「本人の意思をどこまで認めるか」


「社会はその意思を利用してよいのか」


そんな意見で溢れていた。


……

老人たちを乗せたバスは、

害雷が襲う街に入る。


途中途中で、一人また一人とバスを降りた。


そしてアロハの老人はその街のビルの上に立ち、撮影を始める。


(ごんごんごんごん)

あちこちで音がする。

その音に釣られて害雷が各方面に散らばっていく。


「おぉ効いとる。効いとる。あれはな。鍋でな。音出して引き付けとるんや」


(ばーん)

遠くで爆発音が響く。

アロハの老人はカメラをその方向へ向けた。

画面の端で、害雷の頭部が吹き飛び、倒れる。


「うぉ。成功したやん」


それからも十数回。爆発音がして、顔が吹っ飛ぶ害雷の姿が撮影された。


「あれ……数が合わんな。全員が成功したわけやなさそうやな」


「うわ。

こっちも見つかってもた。

俺はここまで撮影してたけど、これで終わると思うわ。

視聴者の皆、ありがとうな。

お前らがいてくれたから、婆さんや子供や孫が亡くなっても、生きてこれた。

でももう十分や。

俺も喰われて、皆と一緒のところに行くわ」


(ごーんごーんごーん)

大きな鍋の音がする。


「誰や」


「ワシや。栗爺や。お前、俺の最後を撮影せんと死ぬなんて許さんぞ。カッコよく撮ってくれ」


画面に栗爺が映し出される。

「なに言うてんねん。そのセリフだけでも十分カッコええやろが。アホタレ」


害雷は栗爺を掴み、口に咥える。


(ばーん)

大きな爆発音がする。

(ばしゃばしゃばしゃばしゃ)

多量の血が飛んでくる。


「栗爺!」

アロハの老人の叫び声が聞こえた。


静まり返る。


(ぐうくぅぅぅうう)

何かの叫び声が聞こえる。


「なんや。害雷が帰っていくぞ」


害雷が帰っていく映像が映し出される。

「どういう事や」


「ワシらが追い返したんか?」


カメラに真っ赤に染まったアロハシャツの男が映し出される。


「お前は誰やねん」


「別人?」


「やらせだったの?」


「あの爺さんは?」


コメントが溢れる。


「はっ? 何言うてんねん。老害爺ちゃんやで」

アロハシャツの男は答える。


「なに言うてんねん。若すぎるやろ」


「別人やん」


アロハシャツの男は、スマホを取り出す。

自分の顔を見る。


そのまま黙った。


コメント欄が一斉に流れる。


「誰?」


「別人?」


「若い」


「嘘だろ」


男は小さく呟く。


「……ワシか?」


そのまま画面は止まった。


……


その後、アロハの男は軍により保護された。

今回の作戦に参加したのは四十七人。

うち生き残ったのは、一人だけだった。


SNSでは、

老人たちを称える声が100万を超えた。

「英雄だ」

「日本の誇りだ」

「ありがとう」

という声もあった。


しかし、それ以上に

「若返った理由は?」

という投稿が世界中で拡散された。


老人は研究所に連れてこられ、精密な検査を受ける事になった。


研究者達は言った。


「若返りだけでなく身体能力も変化しているのか」


「害雷の血液が人体にどんな影響を与えるのか」


「巨火子との関係はあるのか」


いつの間にか研究所には、世界中の著名な研究者が集まっていた。


……

俺は、ただ子供たちとの時間を過ごした。


畑で西瓜を収穫し、井戸水で冷やし、

縁側で食べた。

「これな。塩を振って食べると美味いんだ」


「なにそれ。流行りのソルティなんとかってやつ?」

美祝は尋ねる。


「なんだそれ?」


「父さん知らないの? ソルティキャラメルとか、そういうのだよ」

翠明は西瓜でシャツを真っ赤にしながら、答える。


「それはなんだ? 塩味のキャラメルってことか?」


「そうだよ」


「なんというかな。少量の塩味で甘さが引き立つんだ」


「だったら、一緒だね」

美祝は笑った。


俺たちは、

特に画像を出す必要もなかったから、

西瓜を食いながら、会議に参加した。


議題は、

害雷を資源として活用することだった。


桜井が会議後、あきれ顔で言った。

「少し前まで、人類の危機だと言ってたが、今は違う。

害雷を資源として活用できないかだとさ」


「人類の危機も資源として捉えれば、前向きに考える連中もいる」

俺はそう言った。


「さすがに疲れたよ。そっちに遊びに行っても良いか?」

桜井は言った。


「あぁ来てくれ。美祝がホットケーキを持ってきてほしいってさ」


「菓子職人さんいる?」

美祝は言った。


「ちょっと待ってくれ」


「ひさしぶり、美祝ちゃん。私もそっちに遊びに行っていい?」

菓子職人があらわれる。


「いいよね。父さん」


「もちろん。皆で来てくれ」

俺はそう答えた。


(カナカナカナ……)


風が止み、

ひぐらしの声だけが辺りに響いていた。


END


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


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