1話 新緑の遺跡 第1〜5層
毎週月曜日の朝に更新してます
1999年12月31日23時00分。
大規模な地殻変動が発生。それを皮切りとして、世界各地で災害が多発した。地震、津波、竜巻等、世界が終わるのだと誰しもが思った。
2000年1月1日00時00分。
日付が変わった瞬間、災害がパタリと止んだ。目前に迫っていた竜巻でさえも、まばたきの間に消失した。その超常現象に、神に救われたのだと誰しもが思った。
2000年1月1日01時01分。
最初に発見したのは日本で活動している登山家だった。彼は日の出を山頂で見ることを毎年の恒例にしており、地が揺れている中でも山に登っていた狂人である。
彼が山中で見たのは、地面が隆起し、トンネルの入り口のようになった異様な光景と、そして明らかに自然物では無い、所々が金で装飾された木製の巨大な扉だった。
丸みを帯びた両開きの扉は、力を入れずに開くことができた。そして彼が中で見たのは、周囲の地形や質量保存を考慮しない巨大な洞窟――ダンジョンであった。これが世界で初めて観測されたダンジョンである。
彼は第1発見者として、このダンジョンに名前を付けた。
――新緑の遺跡、と。
✜_______________✜
剣豪:刀! 刀刀刀刀刀刀刀刀刀!!!!!
治癒ネズミ:槍とか
ツンデレツインテ:モーニング☆スター!
常連3人から受けたリクエストを見て、インゴットはクスッと笑顔をこぼした。どれも個性のあるリクエストで面白い。
「剣豪さん速かった。それじゃまずは鉄で刀を作りましょう。石剣はひとまず、【鍛冶師】で分解して……」
ポーチから取り出した石のハンマーで石剣を叩くと、わずかに光を発してから石ころに戻った。
【鍛冶師】は、素材から武器を作成する能力と、作成した武器を分解して素材に戻す能力を併せ持っている。その為、気軽に武器を作成して使い回すことが可能なのだった。
インゴットは石ころにハンマーを振り下ろし、簡易的な石の作業台を作成した。
道具や工程、設計図などを用意することで、【鍛冶師】による武器作成の効率は格段に向上し、完成品の品質も良くなる。
鉄鉱石を川でよく洗って汚れを落とした後、作業台に乗せる。
完成品の刀が作業台に乗っている光景を頭で思い浮かべ、それになるようにハンマーで叩いた。
「【鍛冶師】!」
カンッ! と、鉱石を叩く音が響く。
すると、作業台には鉄の刀が乗っていた。
分類としては太刀。世間一般の人が刀と聞いてイメージするものより少し長い刀だ。
本格的に刀を作るのであれば、素材は玉鋼の方が良いのだが、ひとまずは鉄でも代用は出来ていることだろう。
現実的な鍛刀については省略するが、ダンジョン内、ひいてはインゴットのスキル【鍛冶師】においては、鉄鉱石と良質な砂をかけ合わせることで鋼や玉鋼を作成することが可能である。
とはいえ、その辺の地面から砂をすくっただけでは低品質なものしかできないので、案外入手難易度は高い。
砂漠や海辺の砂浜が広がるダンジョンであれば砂も採取しやすいが、新緑の遺跡においてはモンスターからのレアドロップや、状態の良い砂岩を砕いて入手することとなる。
剣豪:刀!!!!!!!!!!!!
「はい、刀です。リクエストありがとうございますー。それではリクエスト順に1・2層は刀で、3層は槍で、4層はモーニングスターにしますね。5層はまた後で考えましょう」
剣豪が歓喜のコメントを送ってくるのも、インゴットには見慣れた光景だった。相当な刀好きなのだろう。
これからのダンジョン攻略の方針を定めた所で小休憩を終わりにし、インゴットは石の作業台を【鍛冶師】で石ころに分解してから階段に向かって歩き始める。
今日の配信の予定時間はおおよそ2時間。ここまでで15分ほどが経過しているが、5層までの攻略であれば時間的な余裕はある。
なにしろ、道中のモンスターはほとんど一撃で仕留められる為、戦闘にかける時間を大幅に短縮できるのだ。
配信としての見栄えが良いかと問われるとインゴット自身もうーん、と唸ってしまうのだが、1ヶ月記念のゆるい雑談枠と割り切っていた。
「そういえば皆さんはご存じですかね? 最近、海水浴場に新しいダンジョンが出現したそうで、ちょっと気になってるんですよねぇ」
治癒ネズミ:あ、Yitterで話題になってましたね
ツンデレツインテ:海産系のグルメダンジョンらしいわよ!
剣豪:寿司!
Yitterとは、SNSの一種だ。
ネットで気軽につぶやくことができる場所として人気を博している。
その気軽さから情報の拡散力と速さが他のSNSと比較しても高く、テレビのニュースよりも公式情報を得やすい事もある。
「グルメダンジョン! 良いですねぇ。肉系は胃もたれする年になってしまったので、まぁ……アレですが……。海産系はそのうち行きたいですね。ちなみに私はエビが好きです。グラタンとか食べたくなってきました」
ダンジョンには特徴ごとに大きく分けて3種類の分類がある。
1つ目はインゴットが攻略中のようなノーマルダンジョン。植物、鉱物資源が豊富な点から資源ダンジョンとも呼ばれている。新緑の遺跡はこれに該当する。
2つ目はトラップダンジョン。多種多様な罠が生成されて危険だが、貴重な品を入手できる宝箱も多く生成されるハイリスクハイリターンなダンジョンだ。
3つ目はグルメダンジョン。モンスターから高級食材がドロップしたり、あるいは調理後の料理がそのままドロップする、まさにグルメなダンジョン。
剣豪:胃もたれ可哀想
ツンデレツインテ:グラタン良いわね! あたしはシーフードパスタ好きよ
「パスタ良いですね〜お腹減ってきました。……っと、階段に到着しましたね。次は2層です」
雑談をしながら進み、気づいた時には階段に到着していた。
この階段を降りると、新緑の遺跡の第2層となる。
インゴットは階段を降りた。
広々とした青空に、雄大な自然。
川や建造物の配置は異なるが、1層とあまり変わらない景色だ。
「よし、ではここから2層の攻略を──」
──ああ、いや。ここはカットで。
「──5層に到着しました」
インゴットは5層、つまり新緑の遺跡の中間地点であり、今回の配信の目的地に到達した。
1〜4層の探索エリアとは違い、5層の中ボスフロアは狭い円形状の洞窟だ。
まさに戦う為だけに用意されたような地形は、ダンジョンの意思か、はたまた神的な存在の介入なのか。それはまだ誰も知らない。
次への階段を守るようにして、新緑の遺跡5層の中ボスである[レッドウルフ]がこちらを警戒して身構えていた。
レッドウルフはその名の通り、赤い体毛の狼だ。四足歩行でスピードに優れ、その牙と爪から繰り出される攻撃には多くの冒険者が苦戦した。
「レッドウルフ。ダンジョン潜りたての頃は苦戦したものです」
剣豪:ファイト!
モフモフ狂:もふもふ!
「では先ほどのモフモフ狂さんのリクエスト通り、レッドウルフ戦ではトマホークを使って戦います」
トマホーク。木こりが木を伐採する用の斧と比較すると一回りも小さく、軽量な斧がトマホークだ。
トマホークの特徴として挙げられるのが、
「よっ、こ〜ら〜〜〜〜〜〜しょっ!」
投げられる斧だ、という点である。
インゴットが振りかぶって投擲したトマホークは、空中でヒュンヒュンヒュンと回転しながらレッドウルフに向かって飛び、その頭に刺さる。
「グオオォン……」
血が流れる……といった事も無く、レッドウルフに刺さった傷跡からジジジ…とゲーム的なエフェクトが発生し、やがてレッドウルフは断末魔と共に光となって消えた。
どことなく悲しい断末魔だ。
「あっ」
剣豪:あっ
治癒ネズミ:あら
モフモフ狂:もふもふが……
現在、ソロで☆3ダンジョンまで踏破している実力者のインゴットにとって、☆1ダンジョンの中ボスとでは力量差がありすぎたのだろう。
挨拶代わりの先制攻撃で、中ボス戦が終わってしまった。
まぁ、これはこれで配信の撮れ高としては良いのではないだろうか。インゴットは前向きにそう思った。
「え〜〜〜と、はい! それでは今日の目的も達成できたので、とりあえず入口まで戻りますね。【帰還】!」
インゴットは【帰還】の魔法を発動した。
これは【鍛冶師】のような、個人にしか発現しない特殊なスキルではなく、ダンジョンにいる間はどんな探索者であれ例外無く使える魔法だ。
技というよりもシステムであり、ダンジョンにおける法則と言える。
インゴットは新緑の遺跡の入口に戻ってきた。
【帰還】を使用すると、素材やドロップ品を所持したまま入口に瞬間移動することができる。
ダンジョン内で致命傷を負う、あるいは致命傷が確定した状況になった場合は、本人の意思に関係なく【強制帰還】が強制的に発動し、所持品を失った状態で入口に戻されてしまう。
その為、冒険者はほどほどの所で【帰還】を使用して探索を切り上げるのだ。欲をかくと良いことは無い。
「記念配信とはいえ、☆1ダンジョンは難易度下げすぎでしたね。ま、なにはともあれ。ここまでご視聴いただきありがとうございました! まだまだこれからもダンジョン配信を頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします」
インゴットは配信に映るように丁寧なお辞儀をする。
コメントでは拍手の絵文字が送られてきていた。
「ではでは、お疲れ様でした。また見てくださいね〜」
インゴットは締めの挨拶をして、配信を終了した。
Yitterで今日の配信が終了したことをつぶやいて、新緑の遺跡から出るのだった。




