2話 コンビニ
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ハンドルネーム[インゴット]こと、本名[石造 哲郎]は、電車を乗り継いで1時間ほどの帰路についていた。
年齢、30才。男性。
やや崩れたオールバックに、目の下のくま。疲れていないのに心配をされるような形相。
特徴の無い黒のスーツを着て電車に揺られている彼の姿を見た者は、出張帰りのサラリーマンかと思うことだろう。
しかし、その実態は、配信をしながらソロでダンジョンに潜る冒険者兼ダンジョン配信者である。
視聴者はあまり獲得できてはいないが、しかし定着してくれているファンが数人いる、そんな配信者。
次に潜るダンジョンや、次の配信内容について脳内で黙々と考えていたら、いつの間にか最寄り駅に着いていた。
インゴットは少し慌てて電車から降りる。
今は夕方だ。
ダンジョンで運動をしたので、インゴットはそこそこに腹が減っている。
彼は1人暮らしで、電子レンジで温めた弁当とカップ麺が主食だ。
最寄り駅から家までの帰路でコンビニに寄り、夜飯を買って帰るのが彼の日課だった。
コンビニの自動ドアが開き、レジに立っていた店員から「いらっしゃいませー」と声をかけられる。
ほぼ毎日、夕方の同じ時間帯にコンビニに寄っているので、インゴットと店員は顔見知りになっていた。
友人と言うほど仲が良いわけでもないが、かといって無反応というのも印象が悪いので、インゴットは「どうも〜」と軽く返答して、買い物カゴを手に取った。
今日はガッツリと肉を食べたい気分だ。
胃もたれ? それは、まぁ……薬で相殺を……。
インゴットはそう思いながら、お弁当コーナーに向かう。
(オーク肉の生姜焼き弁当、ミノタウロス丼、コカトリスライス……ふむ、悩みますね)
陳列されている弁当を端から端まで見ていく。
2100年現在、モンスターからドロップした食材は一般的な物として普及していた。
味は畜産に劣るが、とにかく保存が効く。何しろ、ダンジョン産の食材は腐ることが無いのだ。
その上、資源が枯渇しないダンジョン産の食材の供給は安定していた。
ダンジョンが発見されてから数年はダンジョン産の食材に世間も抵抗があったが、今では比較的に安価な食材として親しまれている。
結局の所、加工されていれば消費者は気にならないものだ。
(シーフードダンジョンカレー。美味しそうですね。これにしましょうか)
インゴットはカレーを手に取り、買い物カゴに入れた。
そういえば……と、先ほどの配信中に貰ったコメントを思い出す。
(確か、新しいグルメダンジョンが出現したとか。次の配信はそこに行っても良いですね)
思いがけず次の予定が決まった。
まだ見ぬグルメダンジョンに思いを馳せながら、カレーに合う飲み物とサラダを買い物カゴに入れていく。
晩酌用のおつまみもカゴにin。
おおよそ1000円ほどを目安に欲しいものをカゴに入れ、レジに向かう。
会計をささっと済ませ、顔見知りの女性店員の「ありがとうございました〜」という声を背に、コンビニを後にした。
帰宅したインゴットは、スーツを脱いで部屋着に着替えた。
電子レンジで温めたシーフードカレーを食べながら、スマホをテーブルに置いて、先ほどの自分のダンジョン配信のアーカイブを流しつつ音量やカメラなどの確認をする。
音量などは特に問題ないようだ。安心する。
カレーを食べ終わり、ごちそうさまでした、と手を合わせる。
容器を流しに持っていこうとした時、スマホの通知音が鳴った。
(おや、珍しい)
通知を確認すると、Yitterのダイレクトメールだった。
Yitterは自由なつぶやきをして、それを不特定多数が自由に見れる、というのが主なコンテンツではあるが、他の人からは見えない場所で1対1のメッセージのやり取りができる機能も存在する。
それがダイレクトメールだ。
つまるところ、現段階では他の人に見られたくない内容の会話を相手が申し出てきた、ということになる。
(送ってきたのは……剣豪さん?)
ダイレクトメールを送ってきたのは、インゴットのダンジョン配信をよく見に来てくれている常連の剣豪だった。
内容を確認し、インゴットは少し迷ったが、承諾する。
(分かりました。良いですよ。……と)
そう簡潔に返答した。
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