38. 騎士と竜
私とレイナはゆっくりと体を起こして、手を握り合って座り込んでいた。
お互いの顔を見て無事を確認してからクスッと笑う。
「やったよ! 私たちがドラゴンを倒したんだよ!」
「一緒に倒すって願いが叶ったね」
「ありがとう、レイナのおかげだよ~」
「セラが頑張ったからだよ」
私たちは抱き合って喜んでいた。
すぐ近くで座り込んでいるガルムの呆れたような視線に気がついた。
「きゃーきゃーうるせぇよ。お前らはガキかよ」
「ごめん、ドラゴンを倒せて嬉しくてさ。騎士になってドラゴンと戦うのは夢だったから……」
「言っとくがとどめを刺したのは俺様だからな」
ガルムは大人げないことを言って誇らしげに笑みを浮かべた。
そして鞄からポーションを取り出すと一気飲みした。
私とレイナは立ち上がると、お互いの服に付いている砂埃を払い落とした。
激しい戦闘で服も髪も砂埃で汚れている。
「はやくお風呂に入りたいよ。町に戻ったら服も洗濯しないと」
「汚れちゃったね。もう少しの辛抱だよ」
「それより忘れてるもんがあるだろ……」
ガルムは倒れているクラウド隊長を指差す。
ドラゴンを倒せたことが嬉しくて忘れてしまっていた。
「はうっ!? ご、ごめんなさい。すぐに治療を」
レイナは慌てて鞄からエーテルを取り出すと一気に飲み干した。
これで少しは魔力を回復できたようだ。
それからふたりで一緒に隊長のもとに駆け寄った。
私たちが近づくとクラウド隊長がゆっくりと兜を脱いだ。
脚か腰を負傷しているのか立ち上がれない様子だ。
「無事にドラゴンを倒せて良かった。ふたりとも怪我はないか?」
「私たちは大丈夫です。ついでにガルムのおじさんも」
「そうか、本当にすまない……僕が不甲斐ないばかりに……」
金髪は乱れていて、凛々しい整った顔に生気は感じられなかった。
隊長はため息をついて落ち込んでいる。
「すぐに治療します」
レイナは負傷した脚を中心にヒールを唱えている。
隊長は自分を責めるような言葉を吐き続けた。
「クソッ……上級騎士になってからは毎回これさ。僕のせいでいつも誰か死ぬんだ……」
「クラウド隊長、そんなに自分を責めないでください」
レイナが優しい声で隊長を慰める。
「この任務でも仲間を死なせてしまったよ。戦闘では真っ先に負傷して動けなくなるし、なにをやってるんだ僕は……」
隊長は悔しそうに髪をかきあげる。
レイナは悲しそうな表情をして無言で治療を続けていた。
私にはクラウド隊長の気持ちが痛いほどわかる。
もし自分が同じ立場で、仲間が死んでしまったりしたら、そんなの悲しくて悔しくて耐えられないと思う。
しばらくしてガルムが重装鎧をガチャガチャと鳴らしながらこちらに歩いてくる。
そして隊長の鎧を指差して笑い始めた。
「隊長、あんたみっともねぇな。それ、漏らしてんじゃねえのか?」
「ふざけるな! 鞄の薬品が割れたんだ」
隊長はガルムを睨みつける。
「おいおい、冗談に決まってんだろ? まぁ致命傷にならなくて良かったんじゃねぇか」
「エーテルさえ割れてなければ、あと一発は魔法を使えたはずさ。本当にすまない……」
隊長は座り込んだまま、悔しそうに私たちに頭を下げた。
「気にしないでください。隊長の魔法のおかげで私たちは助かりました。あの援護がなければどうなっていたことか」
「そうか……なら役に立てて嬉しいよ」
私は隊長に優しく微笑んで励ました。
レイナの治療を見守っていたガルムが口を開く。
「ところで隊長の具合はどうよ。見習いの治癒魔法で治りそうなのか?」
「えっと……脚の骨は折れてないようです。今は応急処置で全体の傷を回復してます」
「少し痛みは引いてきたよ。ありがとう」
隊長がお礼を言うと、レイナは優しく微笑んで治療を続ける。
ひとまず大怪我はしていないようだから安心した。
レイナが治療をしている間に、私は行方不明になった自分の剣を探すことにする。
☆☆☆
周囲にはドラゴンの焼け焦げた肉片がいたるところに転がっている。
隊長が貸してくれた白銀の剣は、燃え尽きたドラゴンの首元に落ちていた。
剣はまだ熱を帯びていて、先程の壮絶な死闘を物語っている。
「私の剣はどこいっちゃったんだろ? この辺に落ちてるはずなんだけどな」
ドラゴンが暴れたときに抜け落ちたか、ガルムの両手斧による一撃で抜け落ちたか……。
そこまで遠くに飛んだとも考えにくい。
ドラゴンの死骸は焼け焦げて異様な臭いを放っていた。
「これ絶対に高くは売れないよね……」
素材の状態は最悪だ。
私がドラゴンの死体を眺めていると、ガルムがやってきて怒り出した。
「クソが! 見てみろこれを! 鱗は燃えて、肉は腐って黒焦げ、骨も角も折れてぐちゃぐちゃ。こんなもん解体所に運んでも値が付くわけねぇだろ」
「あぁ、やっぱり売れないんだ……」
その言葉を聞いて、一攫千金を期待していた私は肩を落としてガッカリする。
「命がけで体張ってこの結果だ。討伐報酬も安いクソみたいな任務だったな!」
怒ったガルムは黒焦げのドラゴンの前脚を蹴り飛ばした。
その脚の下に何か落ちているのが見える。
「おじさん、その前脚を少し動かせる? 私の剣が踏まれてるみたいなの」
「ちっ、しょうがねぇな。ほら、早く拾いな」
ガルムは舌打ちをすると、めんどくさそうにドラゴンの前脚をどかしてくれた。
「ありがとう、こんなとこにあったんだ。戦闘中は気づかないはずだよ」
ガルムのおかげで私の剣を見つけることができた。
それにしてもこのおっさん、見かけ通りのかなり頑丈な肉体をしているようだ。
レイナの魔法で治療しているにしても、怪我ひとつしていないのかぴんぴんしている。
「おじさんは怪我してないの? 炎弾が直撃したように見えたんだけど……」
「あぁ、あれか。かなりヤバかったぜ。着弾の瞬間に武器で防御したのと、この火竜の鎧のおかげで命拾いしたぜ」
ガルムの重装鎧が少し焦げて黒ずんでいるのが見えた。
火竜の鱗と黒鉄で作られた高価な鎧は、火や炎に対する耐性があるようだ。
「クソッ! 鎧が痛んでやがる。また修理しねぇとな」
「あぁ~、私の防具も傷いってると思う。尻尾の一撃をくらったからね」
「それにしてもだ……」
ガルムはレイナのほうを見ている。
「あの金髪姉ちゃんの魔法、効き始めるまで遅すぎねぇか? そのおかげで俺様の作戦が狂っちまったぜ」
「そんなこと言わないであげてよ。まだ魔女見習いなんだから、練習すればもっと上手くなれるよ」
「だとしてもだ。生半可な腕で首突っ込んでみろ、いつか大怪我するか死んじまうぞ」
「それは……」
「まぁ、今回は俺様が仲間だったことに感謝するんだな」
私は言い返せなかった。
たしかに今回の戦闘はあぶなかったし、私たちが役に立てたのかもわからない。
私が依頼を引き受けなければ、もっと強い派遣騎士や冒険者が援軍に駆け付けていたはずだ。
せっかくドラゴンを討伐できたのに気分が落ち込んでしまう。
「でも、まぁなんだ。ふたりともなかなか根性あるし気に入ったぜ。兵士は根性と覚悟よ、そうだろ?」
「そ、そうだね……」
ガルムは焼け焦げた火竜の死骸を眺めている。
そして火竜の死骸に手をかざした。
「コイツはまだ若いな。成長する前のドラゴンのクソガキだ」
「そうなの? かなり貫禄があるように見えたよ。睨まれたとき怖かったもん」
「長く生きた火竜はこんなもんじゃねぇさ。もっとデカくて狂暴でずる賢い、火山の熱を吸収して成長するとも言われてるな」
「そうか、だからここまで逃げてきたのかな」
帝国領で魔導兵器に撃たれて、傷を負った体で必死にここまで逃げてきたんだ。
演習場跡地の北東には火山もあるから、地質的にも火竜が好みそうだ。
ここで傷を癒してから、周辺の牧場や集落を襲うつもりだったのかもしれない。
可哀想だけど討伐するしかなかった。




