01. 旅立ちの日
初投稿です。
一章『荒れ地のドラゴン編』を完結まで毎日投稿します。
その日、私は絶望していた……。
私の名前はセラ、年齢は18歳、職業は派遣騎士。
レサリア王国の騎士団に憧れ、田舎の町から王都に出て4年が経っていた。
騎士学校を卒業して派遣騎士になることはできたけど、良い仕事もなく日々の生活は苦しかった。
近々、隣国のヴァルドニア帝国とは戦争になるという噂もあり、その影響による物価高騰が王都での暮らしに追い打ちをかけてくる。
宿舎の家賃は3ヶ月も滞納してしまい、数日後には出ていくことになるだろう。
私は冒険者ギルドの階段に座り込んで依頼書を確認していた。
『裏庭の草むしり……15G』
『ゴブリン退治……250G』
『ワイン蔵の荷物運び……500G』
『迷い猫探し……800G』
簡単な雑用はまったく稼ぐことができない。
弱い魔物の討伐依頼は報酬が少なく、場所によっては移動するだけでも大変だ。
重い荷物運びは腰を痛めるし、女性だと嫌がられることもよくある。
迷い猫探しは無事に見つけて捕まえないと、報酬は支払われず時間も無駄になってしまう。
今日も良い仕事が見つからなかった。
派遣騎士とは、騎士学校を卒業しても騎士団に入隊できなかった者に対する救済制度だ。
王国からの依頼を優先的に受けられるし、冒険者や他の職業の人よりも報酬が少しだけ多くもらえる。
そこで手柄を立てれば、騎士団に推薦されて入隊することも可能だ。
しかし王国からの依頼がなければ、冒険者ギルドで普通に仕事を探すことになる。
「ゴブリン退治以外は騎士のする仕事じゃないよ」
私はため息混じりに愚痴をこぼす。
それから依頼書をぐしゃぐしゃにして地面に投げ捨てた。
ぼんやりと空を見上げると、夕焼け色に染まった空には一番星が輝いている。
重い腰を上げて、とぼとぼと宿舎に向かって歩きだした。
中央広場のバザールは、夕方でも活気があり大勢の人で賑わっている。
市場の屋台には、美味しそうなパンや果物、肉の串焼きなどが並べられていた。
肉が焼ける香ばしい匂いがしてくると、私のお腹がぐぅーっと鳴った。
「お腹空いた……。そういえば夜ご飯はあったかな?」
お金と仕事がなくても、お腹は減るから食べないと死んでしまう。
パンとリンゴを買ってから帰ることにした。
数年前と比べると食品の価格も随分と値上がりしている。
市場でパンを買っていると、近くの兵士たちの話し声が耳に入ってきた。
「おい聞いたか、北の荒れ地にドラゴンが現れたらしいぞ」
「ヴァルド二アと戦争になるかってときに、ドラゴンの相手なんかしてられるかよ」
「なんなら冒険者でも雇って討伐するんじゃないか?」
兵士が愚痴をこぼしながら話している。
(北の荒れ地にドラゴンが現れたんだ……)
騎士になってドラゴンと戦うことは、子供の頃からの夢でもありロマンでもある。
私は兵士たちの話を聞いてとんでもないことを思いつく。
(私が荒れ地のドラゴンを倒してやる!)
そう心の中で叫んだ。
もしドラゴンを倒すことができたら、実績を認めてもらって、安定した収入の王国騎士団に入隊することができる。
さらにドラゴンの素材は貴重で、状態が良ければ高値で取引されたりもしている。
上手くいけば一攫千金ができるかもしれない。
こうして私はドラゴン退治の冒険に出ようと決心した。
どうせ数日後には宿舎を追い出されてしまう。
宿舎までの帰り道、私は冒険心と淡い期待を抱いて胸が高鳴っていた。
☆☆☆
宿舎に戻ると、玄関先では管理人のおじさんが花壇の手入れをしている。
もう空は薄暗くなっているのに熱心なことだ。
私は話しかけられないように静かに扉を開けようとした。
「あっ!? セラさん、ちょっといいかな」
(まずい見つかっちゃった......)
「家賃のことなんだけど、そろそろ1ヶ月分だけでも払ってもらわないとねぇ。ここの規則だからさぁ」
「その……遅れてごめんなさい。大きな仕事が入ったので、数日後にはお支払いできます」
私は愛想笑いをしながら嘘をついてしまった。
おじさんは安心したのか、にっこりとうなずいて微笑んでいる。
「そうかい、それはよかったね。今のご時世、派遣騎士だと何かと大変でしょ? とくに女性ならなおさらだ」
「あはは、そうですよね。明日の朝は早いのでこれで失礼します」
私はそう言うと、そそくさと階段を駆け上がって自分の部屋へと入った。
バタンとドアを閉めると、呼吸を落ち着かせてからため息をつく。
「はぁ~、誰かに見られてなくてよかった~」
家賃の催促をされてるところなんて、恥ずかしいから誰にも見られたくない。
気を取り直して冒険の準備をすることにした。
部屋の中は薄暗くなり、オイルランプに火を灯してテーブルに置いた。
紙袋からリンゴを取り出して一口かじる。
テーブルの上に地図を広げて、王都から北の荒れ地までのルートを確認した。
馬車で7日くらい、歩いたらそれ以上はかかる。
旅費は途中の町で依頼を受けるか、魔物を倒して稼ぐしかなさそうだ。
さっそく鞄の中に必要なものを詰め込んでいく。
「ポーション、ランタン、コンパス、地図、お金(全財産の500ゴールド)」
これから冒険に出かけるというのに、毒消しと聖水を持っていないのが心配だ。
飲み水の確保も大変なので水筒も用意しておく。
パンとリンゴ、クッキーやチョコレートなどのお菓子、部屋にある食料は全て紙袋に詰め込んでいく。
食料は途中で食べるので、たくさんあっても邪魔になることはない。
「あとは歯ブラシと替えの下着を用意しておかないと……」
必要な物を鞄に詰め込んで冒険の支度が完了した。
「これで終わり~っと♪」
私はこの状況でも鼻歌を口ずさみながら少し浮かれている。
まるで自由気ままな冒険者にでもなった気分だ。
明日は知り合いと出くわさないように、朝早くに王都を出発したかった。
冒険の支度を終えると、すぐにベッドに入って休むことにする。
その日の夜はぐっすりと眠ることができた。
☆☆☆
早朝、窓を開けると優しい朝の光が差し込んでくる。
冒険に出発するには絶好の日だ。
早起きした私はゆっくり階段を下りると、宿舎にある共同の洗面所に向かった。
顔を洗って、歯磨きをして、鏡を見ながら肩下まで伸びた青髪を整える。
女の子なんだし身だしなみは大切だ。
それから部屋に戻って、服を着替えて装備を整える。
防具は比較的軽くて動きやすい鋼の軽装鎧。
胸と肩を守る金属アーマー、手を守るガントレット。
服とスカートの部分は、燃えにくい丈夫な布で丁寧に重ね縫いされている。
武器は鋼の剣、安くて丈夫で扱いやすい。
鋼の盾も持っていたけど、生活費の足しにするため雑貨屋で売ってしまった。
今回のように長距離を移動するなら、金属の盾は重たいし邪魔になる。
ベルトに鞄を装着して、腰に剣を差したら準備完了だ。
「そうだ、置き手紙を残しておかないと……」
うっかり忘れるところだった。
念のためテーブルの上に置き手紙を残しておく。
『任務で遠征に行くのでしばらく留守にします。心配しないでください』
こんな感じで書いた。
私は任務の途中で死亡か行方不明ということになるだろう。
魔物か獣にでも食べられたと考えるのが自然だ。
大勢の人が集まる王都から、私のような派遣騎士が一人消えても騒ぐ人はいないと思う。
出発する前に自分の部屋を眺めていた。
この宿舎には騎士学校を卒業してから1年間お世話になった。
ベッドとテーブルと化粧台しかない小さな部屋でも、仕事で疲れて帰ってきた私を優しく迎えてくれた。
もう戻ってこれないと思うと悲しくなってくる。
悔しい気持ちをこらえながら、ドアを静かに開けて外に出た。
(誰とも会いませんように……そーっと……)
こんなときに知り合いに話しかけられるのも嫌だ。
誰かと出くわさないようにと祈りながら宿舎の階段を静かに下りる。
早朝なので誰とも会うことはなかった。
玄関に置いてある牛乳箱から、ミルク瓶をふたつ取り出して紙袋に入れる。
最後にお世話になった宿舎に深々と一礼した。
結局、滞納していた家賃を払うことはできなかった。
管理人のおじさんは良い人だし、迷惑をかけてはいけないことはわかっている。
王都に出るときも爺ちゃんに何度も注意されていたことだ。
無事にドラゴンを倒して一攫千金できたら、必ず残りの家賃を支払いに戻るつもりだ。
☆☆☆
日が登ると中央バザールは賑わいを見せ始める。
北門に向かって歩いていると、白馬に乗った王国の上級騎士の姿が見えた。
朝日が反射して白銀に輝くオリハルコンの鎧と、王国の紋章が描かれた豪華な赤いマント。
盾には王国のシンボルであるグリフォンの装飾が彫られている。
「やっぱり上級騎士はかっこいいなぁ~」
あんな装備を着込んで町を歩けば、周りの人からは尊敬の眼差しを向けられること間違いなしだ。
騎士を目指す者なら誰もが憧れると思う。
私は上級騎士の鎧に見惚れていた。
上級騎士になるには、王国の騎士団に所属して功績を挙げる必要がある。
あと魔法が使えないと上級騎士にはなれないと聞いている。
私は生まれつき魔力がないので、どれだけ頑張っても魔法を使うことはできない。
でも、例え上級騎士にはなれなくても、王国の騎士団には入りたかった。
「ドラゴンを倒して必ず騎士団に入ってやるんだから!」
もし失敗したら故郷のフルーレの町に帰って、爺ちゃんが働いてるブドウ畑を手伝わせてもらおう。
ちゃんと失敗したときのことも考えている。
大通りを歩いていくと、北門へと続く大きな橋が見えてきた。
橋の下では住む場所のない貧しい人たちが、テントを張って暮らしている。
中にはテントすら買えずに、下水道で雨風をしのいで生活する人もいるくらいだ。
大きな川が流れて水辺があるとはいえ、衛生的には良くないし健康にも影響が出てくる。
「どれだけ頑張って働いても、良い仕事にありつけないと最後はこうなるんだ……」
お金を稼がないと、住む場所や食べる物まで悪くなってしまう。
私も王都では帰る家を失った。
この橋の下で暮らす人たちとそこまで違わないのかもしれない。
華やかな王都の影の部分を目の当たりにして、なんだか気分が落ち込んでしまった。
だから私はこの橋を通るのが嫌いだ。
橋を渡った先には、石造りの大きな門がそびえ立っている。
いよいよ王都レサリアともお別れだ。
門番の兵士に軽く会釈をしてから通り抜けた。
王都の北門を出ると、広大で緑豊かなヘルム草原が広がっている。
街道を少し進んでから振り返ってみると、都会の冷たい城壁がずっと並んでいるだけ。
こうして4年間暮らしていた王都レサリアに別れを告げる。
私のドラゴン退治の冒険が始まった。
読んでくれてありがとうございます。
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次回もおたのしみに。




