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ごろんと寝返りを打ち異世界と繋がった壁を見る。
「ルーク君の部屋、すごい寒かったけど大丈夫かな」
ルーク君の部屋は真冬のような寒さだった。ストーブみたいな暖房機はなかったし、上着を預けてきたがあれだけじゃきっと寒いよね。
大丈夫かなとじっと壁を見つめてルーク君のことを考えていると壁の方からコツンと音が聞こえた。コツンコツンとまた繰り返し音が鳴ったので頭を持ち上げる。
まるで呼ばれているみたい。
どうしても気になって眠気も飛んでしまったので起き上がり、クローゼットの前に移動して扉をを開く。冬用の毛布と掛け布団を収納袋に入れて片付けていたことを思い出したのだ。
小さく収納していた袋を手に持ち、音が鳴っていた壁に近寄る。袋を腕に持ち直して壁を両手で触ると、当たり前のように穴が開いた。こんなに不思議な現象なのにもう驚きもしない。
さっきおやすみの挨拶をしたばかりで、またこちらの世界へ続く穴を開いたらルーク君も驚くかもしれない。寝ていたら持ってきた布団をルーク君にこっそりかけて戻ればいいわよね。
「あれ、ルーク君?」
しかし穴を抜けてすぐのところにルーク君が立っていた。
大きな紫色の瞳が私を見ているのだが、その大きな目の縁に泣いていたのか涙の痕跡が残っている。慌てて顔を隠すルーク君に泣いていたのかと質問するのはしちゃいけない気がして、涙に気が付かないふりをした。
「……ゆいさん?」
「もうっ! 寝なきゃダメだって言ったでしょ。早く寝床に行きなさい」
「はっ、はい」
ルーク君は慌てて寝床と思われる場所に行った。やはり藁と布を集めた部屋の一角が寝床らしい。
ううう、やっぱりこの部屋寒いよ。収納袋の中から毛布と掛け布団を取り出し、寝床に横になったルーク君の上に掛ける。本当は敷き布団があればいいのだけど私の部屋に敷き布団がないので持ってくることが出来なかった。
これで少しは寒さが和らげばいいのだけれども。
「あの、これは?」
「部屋に帰ってからもルーク君が寒いんじゃないかって気になって戻ってきちゃった。これでどう? 寒くない?」
「すごく温かいです。でも、これ」
「いいのよ、遠慮なく使って。これから私の住んでいるところはどんどん暑くなっていくから私には必要ない物なの」
掛け布団の中でもぞもぞと身体を動かし、布団から顔だけ出して見上げるルーク君の姿が何だか可愛らしい。
私の分は次の冬が来る頃までに準備すればいいから遠慮なく使ってほしい。こんなに寒いので風邪を引いてしまっては大変だ。
「……ゆいさんが、また来てくれるなんて思いませんでした」
「え、もしかして迷惑だった?」
「そんなわけないですっ! ……とても嬉しいです」
「良かった。迷惑って言われたらどうしようかと思った。お節介でごめんね」
「こんなに良くしてくれるのに迷惑なんて思うわけない!」
ルーク君の大きな声が小さな部屋に響いた。
しぃっと口元に指を一本立てる。夜に大きな声を出したらまずいとルーク君も思ったのだろう。慌てて自分の口を手で隠していた。
ふふふ、と笑いながら横になっているルーク君の隣にしゃがみこみ、内緒話をするように小声で話しかける。
「部屋でね寝ようと思った時に、コツンコツンってノックするみたいな音が壁から聞こえたの。何かルーク君に呼ばれてるのかなって勝手に思っちゃった」
「……すみません、もしかして本当に俺が呼んでしまったのかもしれないです。俺、ゆいさんが来る少し前に壁を叩いたんです。ゆいさんに聞こえてるかなって……本当にゆいさんの部屋に届いていたのならごめんなさい。俺の方こそ寝る邪魔をしてしまいました」
「邪魔なんかじゃなかったわ。でも、それじゃあ、あの音は本当にルーク君が? 本当に不思議ね。一体どうなっているのかしら」
私の部屋とルーク君の部屋の繋がりは穴が閉じていても変わらずあるらしい。何が理由か分からないので全部不思議で済ませてしまっているが、本当に一体何が起きてこんな状況になっているのやら。
「どういう理由で二つの世界が繋がったかは後で一緒に調べてみない?」
「一緒にですか?」
「うん。だって気にならない?」
「気になります」
「それじゃあ約束ね。さてと、寝ましょうか。時間が随分遅くなってしまったわ。今度こそおやすみなさい」
「おやすみなさい」
「あー、いいのいいの。横になってて。せっかくお布団が温かくなってきたのに、抜け出たらまた寒くなっちゃうから」
私を見送ろうとしたのかルーク君が起き上がろうとしていることに気が付き、その前に私が自分の部屋に戻ってしまおうと立ち上がる。ささっと壁を抜け、自分の部屋に戻ってから顔だけひょいとルーク君の部屋に出してルーク君の名前を呼ぶ。
「お節介ついでに明日の晩ごはんも一緒に食べませんか? 食べられるなら今日と同じくらいの時間とかどうかな?」
「え、いいんですか?」
「もちろん。一人でごはんを食べるのは寂しいもの。明日は今日よりもう少し手の込んだ物を作るわ……どうかな?」
「嬉しいです」
「私も嬉しい。それじゃあ明日楽しみにしているわね。ごはんを食べられる状況になったらさっきみたいにノックしてくれる? そしたら私が穴を開けるわ」
「分かりました」
それじゃあまた明日ねと挨拶をしてから穴を閉じた。
ルーク君に眠るように言ったんだから私も早く寝ないと。明日の晩ごはんは何を作ろうかなと考えながら私も眠りについたのだが、誰かのために作る食事のことを考えるのは楽しく、久しぶりにわくわくしたせいでなかなか寝付けなかった。
こうして私とルーク君は毎晩一緒に食事を取るようになったのだった。




