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異世界の英雄を育てた私の晩ごはん  作者: 海野三矢子
二章 英雄、成長期
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「いたっ」

「ジェイクやめろ。女性に乱暴するんじゃない」


 掴まれた腕の痛みで私が悲鳴をあげると、テオドールがジェイクの手首を掴んで制止させる。強い力で掴まれているのか、みしっとジェイクの骨が軋むような音が聞こえ、そのすぐ後に私の腕は解放された。


「……申し訳ございません。何か分からないものをテオドール様にむけられたので咄嗟に身体が動いていました。乱暴な真似をしてしまいました」

「いえ、私の方こそごめんなさい」


 腕を捻りあげられたがジェイクが本気を出して私をおさえつけていたらきっと怪我をしていただろう。


「ジェイクさんが警戒するのも当たり前ですよね。私がちゃんと説明しなかったのが悪かったです」

「いや、今のはジェイクが悪い」


 余程の馬鹿力で掴まれたのか、同じくテオドールから解放されたジェイクの腕が震えていた。表情は変わらないが痛かったんじゃないだろうか。


「あの、大丈夫ですか?」

「ジェイクは大丈夫。それよりもビデオカメラのことを教えてくれ。これは一体なんなんだ?」

「えーっとですね」


 さっきのこともあるのでビデオカメラをテオドールではなく、ルーク君達選手がいる方に向ける。

 録画のボタンを押して選手達、そして闘技場の中を撮影した。「それで、それで?」と好奇心を隠そうともしないテオドールに録画したビデオカメラの映像を再生して見せる。


「こ、これは!?」


 液晶モニターに顔を近付け、信じられないと驚愕の表情を浮かべているテオドールとジェイクの二人に苦笑いする。

 ビデオカメラに興味があったのはテオドールだけではなかったらしい。澄ました顔をしていたジェイクも液晶モニターに釘付けになっている。


「信じられない……こんな魔術具があるとは」

「これが撮影なのですか? まるで時間を切り取ったかのようです……こんなに鮮明に……」

「俺にも撮影とやらは出来るのか?」

「はい、ここを押すと録画になります」


 興味津々のテオドールにビデオカメラを持たせ撮影を任せる。テオドールは「ほうほう」と喜色満面でビデオカメラを選手達をむけていたので、どうせならルーク君を撮ってほしいとお願いをしておいた。

 カメラマンのようなことをお願いしても大丈夫だろうかとテオドールではなくジェイクの方をちらっと見るが、ジェイクはテオドールを止めるつもりはないらしい。


 私の視線に気が付いたジェイクもこちらを見た。


「貴女はあの平民の生徒の関係者だったのですか?」


 ルーク君のことだと思い私は頷く。


「今日はルーク君の応援に来ました」

「あのルークという生徒はとても優秀らしいですね。今まで平民の生徒が代表選手に選ばれたことはないと聞きました」

「え、そうなんですか?」


 ルーク君が日々頑張っていることを知っている私は嬉しくなってしまった。

 どうやら平民でありながら代表選手に選ばれたルーク君は注目されているらしい。


「優秀な騎士に貴賤は関係ないからな。もし噂通り優秀な人物なら俺の隊に入れてもいい」


 不敵な笑みを浮かべるテオドールの横顔。

 ジェイクは肩を竦め、「皆がテオドール様と同じ考えならば良いのですがね」とぽつりと呟く。

 騎士学校に通う生徒はほとんど貴族ばかりで、ルーク君は馴染めていないようだった。グリムとロアーノという友人や理解ある学校関係者の人がいることは知っている。全部話してくれるわけじゃないが、それでも平民で孤児のルーク君は差別を受けることもあるようだ。しかしルーク君はそれが当たり前のことで、仕方ないことと受け入れている。


「……ルーク君は大丈夫でしょうか?」


 未来を想像して心配が募る。

 騎士学校でもそうなら騎士になった時は?


「大丈夫だろう」

「え?」

「ははは、生意気そうなやつだな」



 テオドールが持つビデオカメラの液晶モニターにルーク君の顔が大きく映っていた。


 険しい表情で睨んでいるみたい。



「何だかルーク君怒っている?」

「苛立っているみたいだな。まぁ、お嬢さんにではないと思うが」

「ええ?」


 一体どうしたのだろうと心配になり、液晶モニターではなくルーク君の方を見たのだがぷいっとあからさまに視線を逸らされてしまいショックを受けてしまう。


「そんなことより交流大会が始まるようだ。まずはローワングレアとイラシュエルの二校の戦いになるらしいぞ」


 アイゼングレーグの生徒だけが出入口の扉から退場していく。


「各校が総当たりの星取り戦形式で勝負をするって聞いたんですけど、危険なんですか? 剣と魔法を使うんですよね?」

「おや、お嬢さんは交流大会を見るのは初めてかな? 王都に住んでいて珍しい」

「え、ええ。遠い場所に住んでいて最近王都に着たばかりなんです。だから交流大会のこともルーク君から少しだけ聞いたんですけど、あまりよく分かっていなくて……」


 グリムとロアーノに話した設定をここでも使わせてもらおう。遠い場所から王都にやってきたルーク君の隣人。


「たまに大怪我をする生徒もいるが、今まで死人が出たことはなかったはずだ」

「大怪我……」

「生徒が怪我をしても医療班が待機していて、治癒の魔法をかけてくれるから心配しなくても大丈夫だ」


 魔法の力ってやっぱりすごい。

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