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「ねぇ、それでルーク君。その怪我はどうしたの?」
私も食事を始めながらルーク君に質問する。
ルーク君は口に入っていた食べ物を飲み込んでから私をじっと見て、何と説明しようかと首を傾げながら考えているようだ。
「……実はですね」
ルーク君の説明を聞いて私は震え上がってしまう。
実技試験中の会場に空から巨鳥の魔獣が現れ、それを騎士学校に通う生徒達だけで倒したらしいのだが、その時に巨鳥の鋭い爪で腕を裂かれたそうだ。
ルーク君の世界には魔獣と呼ばれる狂暴な生き物がいるらしい。
騎士になると国を守るために命を捧げて魔獣と戦う使命とかーー
思ったよりも危険がすぐ近くにある世界でルーク君は暮らしている。
ルーク君が囮役をして巨鳥の気を引き何とか討伐することに成功したものの、上空から更にもう一匹巨鳥が現れた。巨鳥からクラスメートを守るためにルーク君が魔法を使って撃退したらしいのだが、なぜか助けたクラスメートに殴られたと言うのだ。
「え? 助けたのに殴られたの?」
助けたのに殴られてしまうなんてそんな理不尽ある?
ルーク君は私の表情を見て苦笑いした。私には理解出来ないが、ルーク君は仕方がないことと考えているらしい。
「どうやら平民で孤児の俺に助けられたことが貴族としてのプライドを傷付けたらしいんです」
「何それ」
「……そういう人は結構多いですよ。俺は気にしていません」
はふはふと温かいスープを口に含み、「このスープもとても美味しいです」と話題を変えてしまったルーク君。
あまりこの話題には触れてほしくないようだ。
ルーク君が嫌なら聞かない方がいいのだろうけど、ルーク君の生活環境が再び不安になってしまう。それってこちらの世界でいうイジメみたいなものなのだろうか。
身分制度があり、日本で生きる私とはまた違った価値観を持って育つのだろうから向こうの世界のことを知らない私がとやかく言うのは違うと分かっているのだけれども……
「……偉かったね、お友達を守るなんてヒーローみたい」
「ヒーロー? ヒーローって何ですか?」
「ヒーローっていうのは今日のルーク君みたいな人のこと……英雄なら分かるかな?」
「英雄なら分かります。でも、俺が英雄ですか?」
「そうだよ。学校のお友達を守ったんだからルーク君は英雄よ」
「孤児の俺が英雄?」
「孤児は関係ないでしょ。ルーク君ならきっと立派な騎士になると私は思うわ」
「……はい、俺は立派な騎士になります」
「うん……でも! 怪我には注意してね。ルーク君が怪我をしたのを見たら心配で心臓がぎゅうって痛くなっちゃったよ」
「え! す、すみません」
「きっと私が思っている以上に騎士になるのは大変なことなんだろうね」
手を伸ばして箸を握っているルーク君の手に触れる。
思ったよりも大きくごつごつした男の子の手だ。包むように手の甲に触れるとルーク君の背筋が分かりやすくピンと伸びた。褐色の手を握り「怪我には十分注意してね」と伝えた。言わずにはいられない。そちらの世界ではルーク君のことを親身に面倒見る人はいるのだろうか。こんないい子が辛い目に合っているかもしれないと想像しただけで胸が痛い。
ルーク君に会ってから数週間しかたっていないが、私の生活にルーク君はすっかり溶け込んでしまっている。ふとした瞬間に今ルーク君は何しているのだろうと考えてみたり、何か美味しいものを食べたらルーク君にも食べさせてあげたいと思ったり。喜んでくれるルーク君を見ることに幸せを感じた。まるで年の離れた弟が出来たみたいで、面倒をみてあげたくてしょうがないのだ。
迷惑に思われないように加減をしているつもりだが、気を付けないと際限がなくなりそうで自分が怖い。
「早く怪我が治るといいね」
「は、はい……えっと、明日孤児院の院長のところに行って怪我を治してもらいます。院長は治癒魔法が使えるから、これくらいの傷だったら直ぐに治してくれます」
「そうなんだ。孤児院の院長は優しい?」
「はい、怒ると怖いですけど……優しいおじいさんです」
孤児院の院長が優しいという情報は少なからず私を安心させた。
ルーク君は騎士学校に入るために孤児院から出なければならなくなり、屋根裏の格安の部屋を借りて一人生活を始めたらしい。ルーク君は孤児で平民のため貴族が生活する学校の寮では生活出来ず、街で部屋を借りるしかない。他にも何人か平民の生徒がいるらしいのだがその子達も格安の部屋を借り、その家賃は学園が支払いをするそうだ。平民でも魔力がある子供は学校から生活するためのお金を借り、騎士になってから返済していくシステムらしい。ざっくり説明を聞いた感じは奨学金みたいなものなのだろう。
他に朝食と昼食も騎士学校の食堂で食べることが出来るので最低限の食事は与えられる。
貴族向けの寮で作られる夜の食事は美味しいらしいのだが、学校の食堂は評判があまりよろしくないことを前にルーク君から聞いていた。
「孤児院にいる大人は院長と院長の孫のレナさん。この二人が俺達孤児の面倒を見てくれていました」
「子供は何人くらいいるの?」
「俺がいた時は二十人くらいです」
「二人で二十人の面倒を見るのは大変ね」
「はい。だから孤児院にいる年長者が小さな子の面倒を見る決まりがあったんです」
「そんなにたくさんの子達と暮らしていたなら今の生活は静かに感じたんじゃない?」
「そうですね、最初は一人で過ごす夜はとても静かで落ち着きませんでした。孤児院は寒くても夜はみんなで身体を寄せ合い眠って朝を待つので寝言や鼾、夜泣きする子も居たから夜でも煩いくらいなんです。本当の家族がどんなものか分からないけど、院長はここにいるみんなは血が繋がっていないが家族みたいなもんだってよく言っていたから孤児院を出た時は、そうですね、少しだけ……」
「家族と離れて寂しかった?」
「……会いに行こうと思えば会いに行ける距離なので寂しいなんて言えないですけどね」
「それに」と言ってルーク君は触れていた私の手に反対側の手を重ねる。
こぼれるような笑みを浮かべ「今はゆいさんが俺と一緒にいてくれるので寂しくないです」と言った。




