73話 黒龍の影
「すまない。全く、自分ながら酷いな…」
やはりやらかしていた。
俺は全身赤黒い鱗に覆われた、人の形をした龍になっていたらしい。しかも尻尾も羽も生えていて、尻尾を振るだけで吸血鬼の体が横断されただの、口から火を吹いて、吸血鬼を丸焼きにしただとか、魔術を鱗を弾き飛ばして跳ね返し、返り討ちついでにバラバラの肉片にしただの、爪が鋭すぎて柱に隠れた吸血鬼を柱ごと切っただの。挙句の果てに、寄ってくる下級吸血鬼相手に火を吹きまくって、双子ごと焼きそうになったと言われた。
正直、理解不能だ。
俺がそんなことできるはずがない。そしてできたとしても必ず持て余す。持て余す力は俺は嫌いだ。だから俺がそんな力を持ってたとしても使いたくない。
そして、今一番話したいのはニオ、お前だ。
『制御できなかったの、でも私は悪くない。あなたの中の鬱憤?激情が抑えられなかったから。それはあなたが、怒りながら自害したせい。生き返らせてあげるから安心してって言ったのに』
いやいや…そういうことは前もって言っておけよ…
『でも危なかったもん。一から十まで説明する時間がなかったの!もう!』
一言、冷静に自殺しろって言えばいいだろ。いや?冷静に自殺なんてできるのか?無理だろう。
『まあ、使いどきは考えましょう。人間の体で使うには規格外だから。私ができる限り浄化したはずなのに、ちょっとしたきっかけで制御不能になった。多分よほどの無我の境地にならないと制御はできないのかも』
使いこなせないなら使わないほうがいい。何か前例でもあればいいんだが。一度レームに聞いてみたほうがいいな。
「どうしたの?」
ナディアが顔を覗き込む。
「いや、少し頭の整理をしていた。二人には迷惑をかけたな。すまなかった」
「あやまらないで!あなたを騙した私たちを、わざわざ助けてくれたんだもん。おかげでお母さんも助かった。だから、何も謝らなくていいよ!」
「私からもお礼を言わせてください。これで助けられたのも二度目ですね」
双子の母親がスカートを持ち上げて頭を下げる。
「あの時はサキュバスとは気がつかなかった」
「うふふ。姿をごまかすのだけは上手くなってしまって」
変化を解いて、照れ臭そうに笑っている。
まあ、このままの姿でいるといろいろな弊害があるんだろう。未だにサキュバスを魔物と考える人も多いとレームも言っていたからな。
「おーい!だいたい片付いたぜ!なあ見てくれよこいつ!ぶくぶく肥えた豚顔吸血鬼だぜぇ!」
首をブンブン振りまわしながら、キラキラの金色の鎧を着た金髪の男が走ってくる。
「よお!お前、素人のくせに強いんだな!俺は金雷のディオン。あんたも吸血鬼狩りにならねぇか?」
手に、蝙蝠のような顔をした生首を渡される。
近くで見るとかなり気持ち悪い。人の頭と変わらない大きさなのに、耳が大きく立っていて、豚みたいな鼻が付いて、口が耳まで裂けている。
「やめなさいディオン。首なんて持ってこなくていいんです」
「こいつもなかなか強かったぜ。でもあんたが倒したのが一番強いやつだ。あれを倒せるってことは相当腕がいいんだなぁ!俺らの仲間になれよ!」
「運良く倒せたようなもんだ。何回もやりたくない」
だがディオンは会話の途中で興味が別に移り。双子に言い寄りはじめる。
「そこの麗しいお二人さん。俺と薬屋に行かないか?一番いい薬を君に贈らせてくれ。綺麗な肌が傷ついているのはいたわしくて」
「この傷はぁ…アルヴィさんに舐めて治してもらう予定なので。ね?」
シャーディアが艶かしく舌を出して、俺に視線を送ってくる。
「何を言ってるんだ…」
「酷い!私を燃やそうとしておいて、自分で唾でもつけて治しておけっていうんですか?」
「適切な治療を受けてくれ。怪我を甘くみてはいけない」
「ふふっ!アルヴィさんは真面目ね。魔族なんだから、このぐらいの傷は寝たら治っちゃうのに」
「それじゃあ。私と一緒に寝よ?それで舐めるのは許してあげるから」
「ずるい。私も!」
双子に腕を無理やり組まされる。力が強い…普通に格闘したら負けそうだ。
「おいおい、大物も女の子も全部お前のものかよ。けっ、羨ましいぜ全く」
「ディオン…奥様方にまた怒られますよ。あなたもそろそろ身の振り方を考えるべきです。拙僧は奥方達に言いつけられているので、あなたには厳しくせねば。そこに直りなさい」
「また始まっちまったぜ…おっさんの説教がよぉ…」
アシュヴィンがディオンを、正座させて説教を始める。
「こうなると長い。アルヴィさんはもう行かれるといい。ここは私達にお任せ下さい。それと、今回は本当に助かりました。色々と問題がある世の中ですが、また会った時も友として接させてください。へへっ…」
アルカードに握手を求められる。なぜか嬉しそうだ。
「大げさだな。ああ、よろしく。頑張れよ」
「ええ、あなたも!」
アルカードは吸血鬼狩りだ。だからまた吸血鬼の事件に巻き込まれた時には会いそうな気がする。




