74話 誘惑の理由
「ふぅ…あんまり引っ張るな」
「二人に気に入られましたね。でも私も若ければ、つがいになりたいくらい素敵な人ですわ」
「お母さん!」
「いいじゃない。私たちはそういう種族なんだもの」
「ダメよ!お父さんがいるじゃない!」
「死んでしまった人は私を満たしてくれないから。ね?」
「喪中にそんなことするな…」
「まあ、そういうなら仕方ないわ。でも、気が変わったらいつでも言ってね。あなたならいつでもお相手するから」
「じゃあ。いこ!いこ!」
双子に腕を引っ張られて、屋敷に押し込まれる。
「本当はこっちで迎える予定だったんだけど。お母さんが、思い出のお家を汚さないでって…まあ、そんなことどうでもいいですよね」
「こっち、こっちだよ」
このまま寝室に連れ込まれそうだ。こういうのは男が誘うような気がするが…双子はとても積極的で、俺も断る気はもちろんない。
「水浴びさせてくれないか?血で濡れてるんだが」
「え?いいよ!一緒に入ろ!」
ナディアが小躍りしているし、シャーディアは腕にぴったりくっついている。いい思いができる期待があるが、話が早すぎて少々、二人が心配だ。
双子に連れられ、浴室に入る。そして、あれよあれよと服を脱がされ、狭い木桶風呂に押し込まれる。双子の母親が呼んでくれた侍女が水を入れて、風呂を沸かしてくれている。だがまだ冷たい。
「ニヒヒっ」
ニヤニヤとナディアに股間を眺められる。それをシャーディアがたしなめる。
「私たちはお父さん以外の男の人の裸なんて、初めて見るので。気になっているというか…」
「まだ若いからか?サキュバスはもっと奔放かと思ってたよ」
「お父さんが厳しくて…」
「それに私たちは半分サキュバスだから、別に精気がなくても困らないんだよね。でも興味はありありだから!」
そういいながらナディアは、服を脱ぎ捨てて、露わになった体のまま、風呂に向かい合って入ってくる。
「どぉ?変じゃない?」
月明かりとランタンで照らされたナディア。まずは小麦色の肌に目がいく。いや、年の離れた子とこんなことをしていていいんだろうか。
だがそんな考えをよそに、ナディアは悪戯な表情で腿を体に絡みつけてくる。
「もう!私も入りますからね」
「狭いぞ…」
「冷たいからこのまま」
シャーディアが伸ばした腕の間で密着してくる。ナディアと違い柔らかい部分が多い。
「でも今日は、今までで一番不思議な一日です。おめでたい祝勝会の、主賓のあなたを騙すために近づいて、そのあなたのことが好きになって。そしてこんなことになるなんて」
「俺も同じ気持ちだ」
「うん。うん。でもこれは運命の出会いだよね!お母さんが色々話してくれた恋の話の中でもいちばん刺激的かもね。でもこれから色々あるのかも?」
「だめよ。彼は疲れてるんだから」
「もう奥様面ですかぁ?」
「違います!でも彼は本当に良く頑張ってくれたから、もう休ませてあげたかったんですぅ!」
双子が両脇で言い合いを始める。だがとても心地いい感触に包まれている。
「長風呂してしまったな。もう日が出てる」
双子と体を洗いあい、色々と話してるうちに時間が経ってしまった。風呂上がりの薄着のまま、寝室に向かう。
「外の吸血鬼もみんな死んで、これで安心だね。これから寝ましょ?」
寝室は綺麗に整えられ、真ん中に大きなベッドがある部屋だ。
「ふあぁ〜私も眠たくなってきちゃった」
ナディアがベッドに飛び込み、腕を広げる。
「アルヴィもおいで!」
脇に座ると抱きしめられ、寝転がされる。
「ねぇ。好き」
「そこまで気に入られたのか?」
「うん。わかんないけど。直感かな?」
「私もです。一度騙したから、信じられないかもしれないけど。本気なんです」
シャーディアにも抱きしめられる。その体を抱きしめ返すと泣き始めてしまう。
「怖かった……あの吸血鬼が本当に怖くて…」
「お姉ちゃん…」
「お父さんのことが大好きだったんです。お父さんは、お母さんが魔族だってわかっても、大切にしてくれました、私たちのことも。でも死んじゃった…」
ナディアもしくしくと泣き始め、それをシャーディアは涙を飲んでなだめる。
「いつぐらいから脅されていたんだ?」
「一月前です。魔族の女を愛人にしてるって正妻に言うって、まずお父さんを脅したんです。そこからずっと…」
貴族というのは家柄が重視される。貴族の正妻に選ばれるのは大体は貴族の娘だ。そんな中で魔物を愛人にしたと言いふらされれば、もちろん立場が悪くなる。
吸血鬼は知性が人並みにある。だが人の道徳に縛られないせいで、嘘も脅しも平気でやる。そんな奴が、わかりやすい弱みを知れば、もちろんそこにつけ込む。
「最初は匿えば許してやるって。でもだんだん要求が増えて」
「その要求にお父さんは失敗して、殺されたの。でも、もともと殺すつもりだったんです」
「それにお母さんも、あの吸血鬼にいい様にされてた。お母さんは隠していたけど、私は見ちゃって。それでもっと怖くなったの。私たちみんな、吸血鬼に弄ばれて、死んじゃうんだって」
「でも全部、あなたのおかげで終わりました。それで怖い気持ちがなくなって安心しちゃったからかな?…」
「助けてくれてありがとう。それと騙そうとしてごめんね」
言い終わると、疲れたのか、双子は抱き合ったまま眠ってしまった。
「おやすみ。よく頑張ったな」
二人の頭を撫でる。多分、二人は死んだ父親の代わりを求めているのかもしれない。吸血鬼相手に、二人とも勇敢に戦っていたが、年相応に恐れを抱いているんだ。
理不尽な魔物どもはそんなことを考えもせず暴虐の限りを尽くし、平穏に暮らす人々を不安にさせる。この世界は、俺がいた世界と違った理由で、だが同じように毎日が不安が多い。それをなぜ受け入れなければいけないのかと思うのは、間違っているのだろうか。
でも双子はそれを受け入れようとしている。その姿は健気で愛おしい。




