最終話 崩壊続行
「スミレってね、スイートバイオレットとブルーバイオレットがあるんだって」
「へぇー? 何が違うの?」
「……わかんない……」
「あはは、まぁ、さ、そのうち分かるよ!」
「……うん……!」
スミレが咲き乱れる頃。
俺は春の病院の庭に来ていた。
でもそこは小窓がある場所じゃなくて、もっと人目につく所。
隣には彼女が居て、にこにこして話している。
可愛いなぁ。
あぁー駄目だ俺!! 我慢だ俺!!
冬が終わる頃から、俺達は毎週のようにここで人形劇をするようになっていた。
お客さんは入院している患者さん。
彼女はまだまだ緊張してるけど、皆に楽しんでもらえて嬉しいみたいだ。
バイオレットは、まるで生きているかのように動いてる。
でも、もうあの時みたいな感情は抱かない。
あの夏の日。
彼女は俺をあの崩壊から救ってくれて、やっと現実を見させてくれた。
つめたいものに囚われていた俺に、温かい血が通うのは、会って話せる、会って触れられる人だと教えてくれた。
崩壊は崩れ、また始まって……
「今日はここまでです! 皆さん、ありがとうございました……!」
「ありがとうございましたー」
「……あのね、スミレの話なんだけど……花言葉は知ってるの。英語の辞書に書いてあったから……」
「ふ、英語の辞書かよ!」
「な、悪かったですねーっ!」
「はは、ごめんごめん、それで? なんだったの?」
「もー……それでね、花言葉は……スイートバイオレットが『素朴』、ブルーバイオレットが『愛』と『忠実』なんだって」
「じゃぁキミはスイートバイオレットだな! 素朴だし……くく……」
「ちょっと、笑わないでよーっ!! 塚松君みたいに格好良い人とは違って、どーせ素朴ですよ!でみつあみですよ!」
「みつあみは可愛いからいいよ」
「!! ……ホント?」
「ホントホント」
変わったなぁ。
もう言葉に怯えは無く、真直ぐ俺を見つめてくる。
愛しい君は、目の前に居る、菫。
「っていうか、塚松君はバイオレットが『愛』とか『忠実』とか言いたいんでしょ?」
「そうだなー、菫はバイオレットみたいに忠実じゃないからなー」
「えぇー!? ホントにっ!?」
「あはは、冗談だよ。でもさ、忠実じゃなくてもいいだろ? 菫は、変わるから」
「? どう言うこと?」
微笑んで言うと彼女は怪訝な顔をした。
愛おしくて、また笑ってしまった。
変わるから。崩壊するから、俺達は生きてける。
崩壊続行。
生きてる限り、それは続く。
「菫がスイートバイオレットなら、俺は虫かな。」
「虫!? 何で!? 虫は嫌ーー!!」
「おいおい……そんなに嫌がんなよー……甘い方に、虫は行くだろ?」
あたたかい春。
哀しさはきっと消えないけれど、
君が居るから、俺はもう大丈夫だよ。
キミは、愛する事を願ってくれる?
♪
哀玩人形はだんだん崩れて、愛願人形になってゆく。
誰もが崩し崩され、今日も世界は変わってく。
君の世界をもっと素敵なものに変えられるように、少しでもいいから変われるといいな。
哀玩人形はこれで終わりです。
いかがでしたでしょうか?何かを感じていただけていたら幸いです。
ここまで読んで下さって、本当に本当に、ありがとうございました!!