12歳、銀行王(ロイヤル・バンカー)への就任
あれからさらに4年。
俺、アルトは12歳になった。
声変わりも始まり、身長も伸びたが、相変わらずボロ納屋を拠点に世界の経済を指先一つで動かす日々を送っていた。
現在の借入残高:50,000,000 G(完済まであと半分)。
魔王軍の給与振込、辺境伯の軍事予算、そして近隣諸国との国際決済。
俺たちが作り上げた『ネオ・コイン』経済圏は、もはや王国全体の流通量の8割を占めるまでになっていた。
そんなある日。
納屋の前に、金ピカの馬車が止まった。
現れたのは、高級そうな絹の服を着て、明らかにやる気のなさそうな顔をしたおっさん――王国財務管理官のデップ氏だった。
「いやぁ、アルト君だっけ? 君のところの『ネオ・バンク』、すごいね。おかげで既存の王立銀行、今日付で破綻しちゃったよ。預金者もみんな君のところへ逃げちゃって、金庫には埃と羊皮紙しか残ってないんだわ」
デップ氏はポテトチップスを齧りながら、他人事のように笑った。
「破綻って……一国のメインバンクがそれでいいのか?」
「いいのいいの。あんな古いシステム、管理するのも面倒だったし。そこで相談なんだけどさ、君の銀行、今日から『王国直属中央銀行』ってことにしない? 免許とか面倒な手続きはこっちで全部『よしな』にしとくからさ」
あまりのゆるさに、隣で水冷作業(今はもう趣味に近い)をしていたクロエも呆れ顔だ。
「……で、親父の残りの借金はどうなる?」
俺が一番重要なことを問い詰めると、デップ氏は「ああ、それね」と軽い調子で手を振った。
「もう半分も返してくれたんだし、君が国の銀行を引き受けてくれるなら、残りの5000万ゴールドは『設立記念キャンペーン』ってことでチャラでいいよ。細かいこと言っても、もう計算できる役人も残ってないしさ!」
ピロリンッ!
【メインクエスト:『親父の不始末(一億Gの借金)』を達成しました!】
【報酬:王立銀行総裁の地位、爵位(名誉男爵)、借金全額免除】
視界に浮かぶステータスウィンドウが、爆音のファンファーレと共に輝く。
FF風の青いウィンドウには、見たこともない桁の数字が並んでいた。
【名前】 アルト
【ジョブ】 王国中央銀行総裁(※世界経済の支配者)
【Lv】 50
【HP】 500 / 500
【MP】 9999 / 9999 (カンスト)
【アビリティ】
・『国家予算の私物化(合法)』
・『異世界経済の再定義』
・『定時退勤(魔王軍準拠)』
「……終わった。マジで終わったぞ……」
俺は椅子に深くもたれかかった。
一時はどうなることかと思った一億ゴールドの負債。
8歳から始めたガレージ(納屋)起業は、わずか数年で国家そのものを飲み込んで完結した。
「アルト、やったわね! これでやっと、スライムの干物じゃないまともなご飯が食べられるわ!」
クロエが飛びついてくる。
「ああ。……でも、まずは親父を叩き起こして、二度とFXに手を出さないよう、国家レベルで取引制限をかけてやる」
俺は総裁の権限をフルに使い、まずは身内のマネーリテラシー教育から始めることに決めた。
限界ニュータウンから始まった俺の異世界転生、第二章は「国家まるごとスローライフ」の幕開けになりそうだ。




