最終話
本文よりあとがきの方が長い
メディニ王国から、人目を避けるようにドゥエニャス侯爵領に二人の貴婦人が数人の子供たちとともに亡命してくるのは、ハルフテル公国が建国されて八年目の話だ。
彼女たちはドゥエニャス侯爵夫人リオナ・ヴァロウ・ドゥエニャスに保護を願い、侯爵夫人はそれを受け入れた。
そしてその半月後。賢母として知られ、王太子妃であった頃から国王を支えていた王妃サラが不幸にも野盗たちに襲われ、王子や王女ともども命を落としたと言う悲しみが王宮からまだ薄れる間もない頃。
メディニ王国国王、バセット・エディ・メディニが、自身の腹心であったサフウェン・ルシアン・フォッソによって殺害された。かつて騎士として王に捧げた剣で、親友でもあった国王を暗殺したサフウェン・ルシアン・フォッソは、その場で自害したという。
バセット王の子供たちは亡くなった王子と王女しかいなかったため、メディニ王国の正統な後継者は公爵家に婿入りしていたビックス・ラッセ・ルモワン公爵だけだったのだが、すでに継承権を放棄していることと力不足であることを理由にこれを辞退。
他にも数人の傍系が候補に挙げられたものの、誰もが明らかに傾いた国の王となるのを拒否。
バセット王のもとで宰相を務めていたジラリ・ジェラール・オークレアは、バセット王の大叔父である現ハルフテル公国ドゥエニャス前侯爵の孫であり、そのドゥエニャス家に嫁いだ元メディニ王国ハルフテル公爵家――つまり広義の意味で王族であったハルフテル公爵家出身のリオナ・ヴァロウ・ドゥエニャスの息子であるレオン・ルス・ドゥエニャスを次期国王に推薦。
貴族たちからも大きな反対は起きず、一年間の両陛下及び殿下の喪が明けるとともに、レオン・ルス・ドゥエニャスはメディニ王国の国王に即位した。この時まだ十四歳の少年王であったため、叔母でありハルフテル公国の女王であるマリアネラ・サヴィドリア・ハルフテルが後見人に就くこととなった。
これによりメディニ王国におけるメディニ王朝は幕を閉じることとなり、続いてドゥエニャス王朝が始まるのだが、国王レオンはその翌年、ハルフテル公国王女と結婚。これにあわせて女王マリアネラは女王を退位、娘に女王の座を譲ることとする。この時の女王マリアネラはまだ四十代の若さであった。あまりに早い女王の退位に健康面での心配の声が上がったが、激動の時代を公国のかじ取りに邁進した女王は、ここで家族との時間を大切にしたいと退位した理由を表明している。
メディニ王国国王レオンと二代目ハルフテル公国女王は二国の共同統治者となることを宣言。さらに彼らの息子の代にて、ビックス・ラッセ・ルモワンと、ミランダ・ララ・ルモワンの間に生まれたルモワン公爵家長女と結婚。
彼らの息子が王位を継いだ際にハルフテル公国はハルフテル王国と名を変え、旧メディニ王国首都は彼の弟であるメディニ公爵が治める公爵領となった。
これによりメディニ王国は地図上から姿を消すこととなったのである。
それは、とある王子の結婚破棄宣言から、四十年の月日が経った頃の話である。
なんかほんと、すっごいダメ男を十万字も書いてしまった。わーりとミレイユさんもアレな女性だったんですが、文字数が増えに増えた結果、途中退場となってしまいただの被害者になってしまった。ちなみに名誉は回復してはいないので狂人の最初の妻もアレだったとか、バセットが狂ったのは彼女のせいだとか後世の歴史家にさんざんに言われてます。
最初のプロットではもうちょっと王子に救いがあったんですよ? でも女性陣が「あいつほんとクソ」「まじでクソ」と言い募るものですから……まぁ、こうなりました。(いやもうちょっと丁寧な口調でしたよ脳内令嬢)
一応補足しておきますと、亡命してきたのは王妃であるサラと、サフウェンの妻になっていたエリッカです。バセットの不穏な動きを察知したエリッカとジラリによってカルメラ姫のつてをたどってドゥエニャスに亡命しました。
カルメラ姫からそれとなくサラには警戒するようにという話をされていたのですが、自分だけはまだしも子供たちも狙っているとわかり、彼女は即座に行動しました。ちなみに兄であるサフウェンはでもでもだってと言うか、まだバセットを信じている部分があるので話は通してなかったです。
作中では語られませんでしたが、彼女の子供はハルフテル国のしかるべき家に嫁ぎ、あるいは婿入りし、経歴ロンダリングをした後に王家に血が吸収されました。旧王国の落胤とかそう言うのは発生しないように管理されています。ルモワン公爵家にもバセットの弟の血が残ってはいるんですが、王家にルモワンの血を受け入れているので、ルモワンが何かやらかしたら王家の人間が公爵家の継承権主張して人員入れ替えとか強行します。
一応、継承権の扱いは、ハルフテル国はイギリス式、メディニ国はドイツ式(当時は名前違いますが)を採用しました。前者は女性でも継承権があり、後者は女性に継承権がないのが一般的でした。(そう単純なものでもなかったみたいですがとりあえず)
ベルギーとかオランダとかの王様「え、そこ!?」みたいな繋がりたどって王様になってもらったりしているので、血統管理はマジで大事。
ジラリとしてはサフウェンがバセットを殺すことも、その後自害することも、可能性は半々かな。と思っていましたが、単純な男であることも知っていたので、悪くない賭けだとも思っていました。どちらにしろ王国がもう長くないことは理解していた。ちなみにバセットの弟にはすでに話を通しておいたので、予定通り王位を拒否。というか、まともな頭があったら傾きまくった国を継ぎたいとは考えない。それこそよほどの野心でもない限りはね。
その後は彼の予定通り、地上からメディニ王国は消滅しました。おそらくジラリの名前はハルフテル王国の建国史の序盤にてそれなりに賢者として名を刻むこととなるでしょう。バセットが愚王として名を遺すのは決定していますが、サフウェンの扱いが愚王を諫めることができずに自らの命で王を止めた英雄とするか、狂人に妹や妻を差し出した真の愚者であるとするかは、後世の歴史家の中でも意見が割れている感じです。
後世の歴史では普通にミレイユもサラとその子供たちもエリッカとその子供もバセットが暗殺したことになっており、狂人王バセットの狂人エピソードの一つに数えられています。一部真実で、一部虚構。歴史は勝者によって作られて行きます。
さて、影が薄かったはずなのに最後の最後で活躍したジラリくん。いや、描写そのものは少ないのでやっぱり影は薄いんですが。彼が何を思って国を亡ぼすようなことをしたのかはわかりません。いや、滅ぼすつもりはなかったのかもしれませんが、繁栄させるつもりもなかったんでしょう。
彼の理想は、バセットとリオナの両陛下を、自分とサフウェンが支えるということだったのかもしれません。それがバセットの婚約破棄によって壊れてしまった。それゆえに自暴自棄になっていたのか。もしかしたら彼にとってもリオナが憧れの女性であり、だからこそ彼女をないがしろにしたバセットが許せず、彼女の息子を王位につかせようとした。そう考えるのは、ちょっと安直すぎるかな。
まぁ要するに、男も女もパートナーにはちゃんと誠意ある対応をしましょうね。
リオナとグラシアノについては、この二人はダンジョンもぐったり、子育てしたり、ダンジョンもぐったり、子育てしたり、侯爵の仕事したり、子育てしたりと末永く爆発していました。
リオナさん、本人が全く知らないところで一つの国を亡ぼすきっかけになったので、ある意味傾国かもしれない……。




