第18話「地獄への片道切符」
目指せ月一更新(咎め)
すいません、思いの外ダラダラ話続いてしまったので熱いバトルは次回に持ち越し
遺跡の外観を見上げれば、何度見ても重厚で神々しい石肌だ。
直前に国王に連絡を取った際、「くれぐれも深追いせず、無事に帰ってきてくれ」と心配の声が上がった。アメリアは一言大丈夫と言っていたが、いざ現場を前にするとやはりこの空気は初めてなのか、少しばかり緊張の顔色が伺えた。
しかしここはあくまで出発点。アルバートやミカヅチからしたら、ハーネルとアメリアにはここをクリアしてもらわない限り、この先コンゴウの捜索で向かってくるであろう障害を払うことはできないだろう。2人は既に、ここから先ずっと相手にしていくのは、学園防衛戦で相手にする魔獣ではなく、この奥で戦ったあの二足歩行の魔獣なのだろうと予知していた。
近辺を見回っていたアルバートは、とある物が視界に入りしゃがみ込んだ。先日の調査以来この地を訪れた公人はおらず、環境保全のため撤収作業も廃棄物ひとつ残さないくらい徹底して行ったのだが、それは忽然と数個落ちていた・・・薬莢である。
弾頭がないということは勿論使用済み、それ即ち誰かがここで銃を使ったということになる。アルバートはハーネルを呼ぶとその一つを投げ渡した。ハーネルは少し驚いた顔をするもすぐに薬莢をまじまじと観察し始める。
普段から実銃を媒体にし、通常戦闘も実銃を扱う彼は火薬の知識も持ち合わせており、ガンマニアだけでなく自作で火薬を調合して爆弾の製作もできてしまう。鼻を近づけ残り香を嗅ぎ、薬室を小指でなぞったりして数十秒後、アルバートの方を見て頷いた。
「・・・・・間違いねぇ、これに埋め込まれていたのは鉛製の弾頭だ。そうなると使ったのは魔法使いじゃねぇし、何より火薬の匂い的に使ってから数日と経ってねぇ。」
指でコイントスのように空の薬莢を弾くと、そのままアルバートの掌に収まった。そもそも先日アルバートとミカヅチが調査に行った時には調査チームの中に銃を媒体にしている魔法使いはおらず、使っていたのはそれこそ奥底で出会った二足歩行の魔獣だった。
となると考えられるのは、この数日の中で誰かがこの遺跡に乗り込んだということだ。れっきとした調査ならば当然国王に申請があり、アルバート達も関わっている以上その情報は耳に入らなければおかしいはずである。それがないということは無断でこの遺跡へ足を踏み入れたということで、それをやってのける人間というのは勿論世間では褒められたものではない人種というのが定石だろう。
そしてもう一つの予想としては、それこそ中に潜んでいる魔獣だ。何故かはわからないが奴らも銃を使っている。アルバートは頭の中である仮説を立てたが、今それは自分だけの仮設に留めておこうとぐっと言葉を飲み込んだ。
「光があるのは当然闇があってこそだ。それは表と裏も同じ、この国において闇の部分が色濃いのは西地区になるわけだが、最近はめっぽう大人しくなっていたんだ。北の遺跡を塒にするにはあまりにもリスクが高すぎるから、少し頭のいいヤツならそんな考えに至らないだろうとは思っていたんだがなぁ・・・・・。もしかすると、俺達が調査に出ていたのを陰から視察していたグループがいたのかもしれん。部外者が近寄れないように地上のチームが結界を張っていたとはいえ、結局はその外から視られては意味がないからな。」
薬莢を透明な袋に入れて胸ポケットにしまい込み、各々準備が完了した。
遺跡とはいえ最初は大体が狭い洞窟のようなものの一本道なので、仮に挟撃に持ち込まれてしまった非常にマズい。ということなので単縦陣にするか複縦陣にするかで少し悩んだが、結局複縦陣で進むことにした。タンク兼近接戦のアルバートと、オールラウンダーのアメリアを先頭に中距離射撃部隊のハーネルとスティレットが後ろに続き、殿はミカヅチとなった。
同じ近接のミカヅチを隣に置くかでも悩んだが、経験値の浅い3人を後ろに固めてしまってはいざ後ろから襲われた場合の対処が遅れてしまうのと、なんというかミカヅチなら一人でも大体うまくいなしてくれるだろうという考えでもあった。そして先日の調査ではハンドライトを使用していたが、今回はおそらく戦闘がメインになる可能性があるためアメリアの補助魔法「フラッシュ」の出力を抑えた魔力光を浮かばせることとなった。さすがは広域魔法の一部、一定の場所を照らすのではなく全体的に照らしてくれるので壁とかの状態も見やすい。
こうして一行は遺跡の内部へと繰り出した。
「中等部ン時に公開されてる遺跡の見学とかにゃ行ったが、こうして調査中の遺跡に入るのは流石に初めてだな・・・」
「私もです・・・。なんというか、この空気の若干の生温さが不気味というか気持ち悪いというか・・・。公開されている遺跡はもっと神聖な空気だった気がします。」
人工的な構造になるのはもう少し先なので、岩肌をなぞって進むことになるから確かに湿度なんかも関係はしているだろうが、たしかにここの空気は神聖なものとは程遠い。
アルバートはふと思う。ミカヅチの話によればこのシェルターが開いた時に襲い来る禍々しい匂いはヒトの臓物や血肉の匂いに近いらしく、あの魔獣は人間を糧にしているとも断言してみせた。たしかにあの腐敗臭はかなり不快になるくらい気持ち悪かったし、普段学園防衛戦で相手にする魔獣の血煙とは別の匂いであることもどことなく分かってる。
「拳聖」と呼ばれるアルバートだって、目の前でヒトが殺されるところをまじまじと見せつけられるなんてのは気分が良いものではない。だが現実にこのパーティにはその文化に染まり尽くしてしまった修羅がいる。アルバート自身は腹を括ったつもりではあるが、改めて教え子にそれを強要するのは如何なものなのだろうか・・・と考えても仕方ないことを思う。だが忘れてはいけない、自分たちは人間を相手にするつもりはなく、あくまで新型の魔獣を調査するためなのだと・・・。
結局何事もなく前回調査して撤収した場所まで来てしまった。
「ここまでは特に何も無し・・・か。てっきり魔獣ではなくゴロツキ共あたりが出迎えてくれるものだと思っていたのだがな?」
「ここまで頑丈な扉があるのならば、門番を置く必要も無かったのでしょう。地上からこの場所に辿り着くまでの時間数から計算すると、わざわざ好奇心だけでここまで来る意味も無いと思われます。」
「ま、そんな好奇心だけで動くことができるのが俺達人間でもあるんだけどな?」
たははっとハーネルが笑うが、スティレットにはいまいち理解ができないのか少し首を傾げて見せた。機械的な並列思考しか持ち合わせていないだろうスティレットに「好奇心」というものを説いても仕方ないことだろうとい思うが、たしかに人間の中の一部は好奇心だけで動く者も多いわけではないが少なくもない。研究一筋の学者とかがいい例だろう、熱中してしまうと周りが見えなくなるタイプなんてものはピンときたら即行動に移すくらいにはオンオフがはっきりしている。もう一つの例としては、ノリと勢いだけで動く学のない連中・・・つまりこの国にもいるがゴロツキみたいなもんだろう。大体は己の快楽のみを追い求めて好き勝手やるような連中だからこそ、遺跡の一つでも占領してしまえば国も迂闊に手出しできないとでも思っているのだろう。
そもそもこんな小さな王国ですらも荒れくれ者が生まれてしまうのだろうか。
前にも言ったと思うが、アトランティスは大きく分けて東西南北と4つのエリアに分かれている。特に発展しているのは東と南で、北は未開の地が多い、そして西は主に工業地帯。西は何故か昔から根付いた文化を尊重している傾向にあり、何代も前には犯罪者の収容所と労働施設があり、取り仕切っていたのも結局は腕っぷしにモノを言わせる脳筋が多く、それらが代々続いてきてしまったせいで国で会議を起こしても反発しあうことが多い。
そして魔獣の生態を研究している研究所や様々な武器などを作る開発局も西にあり、それらに属している人間は公務員ではあるものの結構アタマがキてる人間も少なくない。先程も言った好奇心の塊である学者もいるし何よりそいつらは金払いが良く、危険な場所に行かせるために多額のカネを積んで腕っぷしのいいゴロツキに調査を頼むこともあるので王国としては頭を悩ませている。実際研究などに一役買ってしまうので無碍に裁けず、温室育ちの調査員に出る幕がなくなってしまっているのが現状だ。
・・・ここで「ミカヅチも結局は傭兵稼業だしゴロツキと大して変わらないのでは」と言うのはご法度にしておきたいところである。
―――閑話休題。
初めて見る3人は目の前にある重厚なシャッターを見上げる。
いつ見てもとても地中にあるとは思えないほど分厚く立ち塞がるものである、先日の調査では特になにもせずとも開き出して一向に戦慄を与えてくれたが、果たして今回はどんなお出迎えをしてくれるのだろうか。
そんなことを考えていると、やはり前回同様に振動が始まった。アルバートは「開くぞ」と皆に言うと腕を捲くり直し、指をポキポキと鳴らし始めた。つられるようにハーネルはライフルのチャージングハンドルを引き、アメリアは鞘からレイピアを抜く。ミカヅチとスティレットだけが不動を貫いていた。
ゴゴゴゴゴ・・・と重厚な音を響かせながらシャッターが開いていくと、禍々しい瘴気と共に吐き気さえ覚えるあの匂いが漂ってきた。アメリアとハーネルはその匂いに顔をしかめ服の襟などで口を鼻を覆い、完全にシャッターが開く頃には一帯の空間に嫌な空気が充満することとなった。
アルバートは目線をアメリアに送ると、アメリアは苦い顔をしながらも頷きフラッシュを先に進ませる。
シャッターの向こうは完全に人工物の通路であり、薄暗いながらライトも点いていた。言うなれば軍隊の基地通路のような無機物さで壁には所々黒く染まった血痕がこびり付いていた。
「なぁ先生・・・。シャッター前の時点で思ってはいたが、こりゃどう考えても遺跡じゃねぇよなぁ・・・?前の石壁だなんだって大広間とかならまだ分かる、大昔の人類だって石を削ったり、その削った石を積み重ねるって技術は持ってるだろ。・・・だがこりゃどう考えても後付けだぜ?作ってそう何十年も経ってねぇぞコレ」
やはりハーネルは勘が鋭い。空気に当てられながらも自分なりに分析はしていたのだろう、問題はこの先で待ち受けるであろう地獄絵図を見ても正気でいられるかどうかなのだが・・・。
対するアメリアはというと、やはりどことなく顔色が悪い。若干呼吸が浅くなっており、今は心配になったのであろうスティレットで傍で支える形となっていた。
ここから更に歩を進めるか考えあぐねている時だった。
ズドオォォォォォンッ!!!!!
「「うぉおっ!?」」
「おわぁっ!??」
「きゃあぁぁぁッ!!?」
爆撃機から爆弾でも落とされたのかというくらいの轟音と振動が全員を襲った。
ミカヅチが衝撃の発生源だった後ろを振り向くと、チィッと溜めるような舌打ちをする。自分たちが今通ってきたシャッターが閉まっていたのだ。退路は断たれてしまい、嫌でも先に進まなければいけない状況となり、流石のアルバートとミカヅチにも焦りの色が浮かんできた。
こうなった以上は根源を潰してやる他ない。そうアイコンタクトを取った二人は尻もちをついてしまったアメリアとハーネルを起こし、先へと進む。シャッターから直線にしておよそ100m先に扉が出てきた。おそらく施設の入り口になるのだろう、念の為スティレットが探知を行う。スティレットは目の機能を切り替えるとジッと扉を見渡す
「多数の熱源と魔力反応、どちらも生物であることは間違いありませ・・・熱源が消えた?魔力反応は・・・」
「スティレット・・・どうしたの?」
「いえ・・・有機体の熱源反応だけが次々と消えているのですが、魔力反応だけは残っているんです。このパターンはおそらく殺が・・・」
「「先生!」」
「おぉおりゃぁぁぁッ!!!」
スティレットの回答を遮るかのように男3人が叫ぶ。この中はヤバい事になっていると直感で分かったのか、アルバートは扉を開けるどころか身体強化を施した蹴りの一発で破壊してしまった。そしてそのままなだれ込むように内部へと駆け込んでいく。
そして一同は、いよいよすべてを目撃してしまう。
「「シャアァアアァガァアアアアァ!!」」
「「あぁあっああぁぁ!!?」」
「ぎゃぁあぁっぁああああっあっぁぁぁあ!!!」
「グガァアアアアアァァァッ!!」
「痛いぃ!痛いぁあ・・・!いだ・・・」
逃げ惑う弱者を嘲笑うかのように甚振り、生きたまま八つ裂きにし、その血肉と臓物をハイエナのように食らう、禍々しき二足歩行の魔獣の姿を




