第17話「とある銃士の苦悩」
魔法戦技科2年の戦闘訓練は更に激しさを増す。
クラスAは基本的にアルバートを介せずほぼミカヅチとの模擬戦となっているため。アルバートもクラスB以下の訓練に熱が入る。そしてアメリアとハーネルも、ほぼ毎日ミカヅチを相手に激戦を繰り広げていくのだが、ミカヅチがクラスAに入ってからというもの、二人に白星はまだ無かった。
アルバートとアメリアによるクラスA戦闘訓練、そして度々巻き起こる魔獣迎撃戦でハーネルは自分自身それなりに力を付けられたと思っていた。
だが目の前で対峙する、同い年ながらも規格外の範疇を超えた武人を見ていると、自分はまだまだ甘かったと思うどころか、こいつに勝つためにはあと何年血反吐を吐く研鑽を積まなければならないのだろうかと途方に暮れてしまいそうになる。
(面白ぇんだよ・・・。こいつを相手にしてっと、模擬戦だってぇのに今までやってきた魔獣迎撃戦がママゴトみてぇに思えちまう、それくらいこいつは別格だ。何をどうやっても勝てる気がしねぇ・・・。)
ハーネルはチラリとアメリアを見る。すると彼女もその視線に気づいたのか、魔力弾を自身の周りに展開させながらミカヅチに近接戦を仕掛けに行った。だがミカヅチもそれを受けに行く、しかし待ちに出たのではなくアメリアの踏み込みを上回る速度で懐に潜り込んだのだ。
だが、それで良かった。アメリアの展開していた魔力弾は云わば機雷のような役割を果たすもので、対象が魔力弾に触れるか術者が爆発させるかの2パターン使用することができる。だがアメリア自身もそれを発動させたところでミカヅチが止まらないことは重々理解していた。だからアメリアは魔力弾を爆発させることよりもまず懐に潜り込んだミカヅチにレイピアを振り下ろすが、当然のごとくミカヅチのサムライソードに返される。低く踏み込んでいたとしてもミカヅチとアメリアの身長差はあるため、アメリアは振り下ろす前よりも深い位置までレイピアを弾き返されて思わずノックバックしてしまう。
ミカヅチは浅く息を吐くとそのまま追撃態勢に入ったが、アメリアは指を鳴らすと自身が展開していた魔力弾が次々と爆発を起こした。彼女はこれでミカヅチにダメージが入るとはこれっぽっちも思っておらず、にも拘わらずこの手段を選んだのは、云わば目眩まし。魔力弾の強制爆発によって発生する閃光と爆発音、そして砂煙によって辺りの視界は一瞬にして埋め尽くされることになる。
それをハーネルとアメリアは一瞬のアイコンタクトでやってのけたのだ。
二人でクラスAを守ってきた期間は特別長いわけではないが、それでもお互いの信頼関係は高く連携攻撃も惚れ惚れするくらい鮮やかだった。
アイコンタクトから魔力弾の爆発が発生するまで、ハーネルは二人の周りを走っていた。ミカヅチに的を絞らせないためでもあるが、一番の理由はミカヅチが閃光と埃に飲まれた時点で自分の位置をわからなくするためだった。
そして逆にハーネルは埃に飲まれるミカヅチの位置と向きを見逃さなかった。完全に視界が塞がれる直前の、目視でいうとこと約10cm四方の穴。その奥にハッキリと見えたミカヅチの胴を、ハーネルの訓練模擬弾が襲った。
アイコンタクトからハーネルの銃口が火を噴くまで、おおよそ10秒と少ししかなかった。クラスAによる超高等技術の応酬はクラスB以下の生徒達も固唾を呑んで観戦することが多い。今回ばかりはアメリアとハーネルの作戦勝ちとなった。
―――と思われたが、砂埃は内部から一閃で強制的に晴らされることとなった。
ハーネルは撃った直後に気づいていた。明らかに視界の埋まった状態の中で金属と金属がぶつかり合う音が聴こえていたのだ。その時点でハーネルの銃撃がミカヅチに斬り払われたと察知したが、後はアメリア次第だろうとも思っていた。
だが晴れた視界の中には、既にレイピアから手を離し尻もちをついていたアメリアの姿もあったのだ。
(コッチは視覚外を狙ってんだぞ!?相変わらず獣じみた反応速度しやがって・・・)
ハーネルの抜き打ち・・・云わばクイックドロウは事実無茶苦茶に速い。その速度はアメリアでも防ぎ切る事はできず、それがハーネルの持ち味ともなり共にクラスAを引っ張っていく要員ともなっていた。
それにほとんどの生徒は気づいていないがハーネルは1発ではなく2発撃っていた。一発ならアメリアの防御率は4割弱で、2発ともなればアメリアの防御率はほぼゼロに等しいほどの高等技術である。しかも今回は面と向かって放ったわけではない・・・アメリアを囮にミカヅチに抜刀術の構えを取らせず、魔力弾の強制爆発によって視界を塞いだ後のほぼ背後からの2発だったのだ。だが奮戦虚しく易易と返されてしまった、その後アメリアに追撃できるほどの与力を残して・・・。
「くそったれェッ!」
飛んできた鉄鞘に銃を弾き返されたところで、タイマーの音が虚しく鳴った。
訓練施設に併設された給水場でハーネルは蛇口をフルに回す。
蛇口から勢いよく出てくる冷たい水にそのまま頭を突っ込むと「あぁあああぁぁぁ〜〜〜・・・」と情けない声が漏れてくるが、そんな声が出るほど気持ち良いのは誰でも分かっている。ひとしきり堪能すると軽く髪の水を絞って「ぶはぁっ!」と上体を起こした。
水をかぶるにあたってハーネルは上半身裸で給水場に来ているが、当然給水場は男女で分かれているわけではなく共用施設だ。しかしハーネルはそんな細かい事は気にしておらず、周りの女子生徒に関しても特に気にしてはいなかった。時折「彼はやらないのかな・・・?」と水濡れになった武人を想像しながらも遠慮がちにチラチラと見てくる女子もいるが、ミカヅチは大体顔を洗うだけで終わる。
ハーネルの身体はミカヅチから見ても悪くない。後衛だからそれほど鍛えていないとも思われがちだが、銃を扱うのも当然力がいる。ましてやハーネルは自動小銃も扱うし、通常では二挺拳銃・・・伊達とも酔狂とも思われるかもしれないが片手だけで拳銃を扱い切るのはそう簡単な技術ではない。それにハーネルの射撃技術は当然アメリアやアルバートも認めるほど精密で、それを扱い切る以上のハードなトレーニングを積んできた。
それに後衛といえど絶対に相手から距離が離れて攻撃できるとは限らない。時には無理矢理にでも近接戦闘を余儀なくされる事も当然だが戦場ではあるので、ナイフを使った護身術もある程度使えなければならない。そう考えるとハーネルも意外とバランスの良い体の鍛え方をしているのだと思う。
それに翌日にはハーネル自身当然初めてであろう遺跡の探索が待っている。技術面では申し分ないので、結局あとは精神面がどうなるかに掛かっていた。
―――そして隣の悪友とは別に、不安なのはもうひとり・・・。
翌日の昼前、学園の教員用駐車場に複数の姿があった。
その場にある大きめのワゴン車は学園が所持しているものである。基本的に生徒や荷物を運搬するために使われるものだが、その使用する場面というのはそこまで多くはない。何せ結局は教員が運転しなければならないため、主にカリキュラムにある施設見学などといった中でしか使われないのだ。
といっても今回向かう先は北の地区でありそれも山岳地帯。当然だが王国軍の進攻演習でもない限り車でないと辿り着けない。
アメリア、ハーネル、スティレットの3名はアルバートの指示のもとトランクに荷物を積んでいく。日帰りの予定だが仮にもし何かしらのアクシデント等で足止めせざるを得ない状況にもなることを想定しての野営道具と、あとは各個人の武装である。
といってもほとんどハーネルのものである。アメリアはガチガチの魔法騎士であるため基本的な装備はレイピアのみで、スティレットは火器を使用するがアンドロイドが故その小さな身体の中に内蔵されている。ハーネルは実銃を用いた射撃型であるがため、どうしても嵩張ってしまう。ましてやスティレットのように弾丸を生成してコス◯ガンよろしくできないため、銃と弾丸の2種類はどうしても持っていかなければいけない。
そんな中、今回は学園の訓練ではあまり見かけないものを積んでいた。
「珍しいですね?ハーネルさんが小銃を持ってくるなんて」
自動小銃―――所謂アサルトライフルだった。
モノ自体は一応学園のロッカーに入れてはあるのだが、ハーネルがライフルを持ってくるのは魔獣迎撃戦ですらもごく一部の場合のみで、それ以外は全部拳銃で対処している。それだけ彼も慎重になっているというわけか。専用ケースに入っているライフルは折り畳みが可能なフォールディングストックでショートバレルの、アサルトライフルの中でもそれなりに小ぶりなタイプだった。現実で言う所の「PDW」に似たものである
「魔力切れを想定しちまうと、どうしても通常攻撃を頼らねぇとならんからなァ・・・。だからといって威力の高い長物を持ってきても洞窟だってんだから取り回し邪魔にしかならねぇし、威力より取り回しと装弾数・・・って考えると自動的にコイツ持ってくるしか無かったんだよなぁー。まぁマガジンと弾丸は経費だって言うし久々に役立ってもらうさ」
少し銃弾についての話をしよう。ジパングでは「実包」と主に呼ばれ、外国では「カートリッジ」と呼ばれるそれは大まかに「弾頭」「薬莢」「発射薬」「雷管」の4つによって構成されている。銃のハンマーやピストンが「雷管」を叩く事により発火し「薬莢」の中に詰められている「発射薬」が燃焼する・・・「火薬」と言ったほうが伝わりやすいだろうか。その「発射薬」が燃焼することによって発生したエネルギーが「薬莢」の先端で蓋の役割をしていた「弾頭」を押し出すことによって銃器から射出される。ざっくり説明すればそんなところだろう。
実銃を扱う人間が一番頭を悩ませるは勿論弾薬の値段である。そもそもアトランティスでは国際基準にて生産されている弾薬を外国から輸入している。といっても完成品そのものを丸々輸入しているわけではなく、材料をバラバラな状態で取り入れているのだ。銃国家とは違い魔法国家であるアトランティスは弾丸をも魔法の媒体に使うことが多いため、国際基準そのまんまの弾丸では相性が悪いのだ。
主に敵に当たることになる「弾頭」の素材は合金や重金属であるが、アトランティスでは合金は作れど重金属など採れない。だがこの国はそれこそ魔鉱石が採れ、その加工品が当然魔法との相性・・・云わば魔力伝導率が良いため弾頭のみを魔鉱石を主成分としたものを王国軍の開発チームはアトランティスでしか作ることのできない弾薬として生産しているのだ。
一度に何千何万発と生産はできるもの、使用素材が故に決してコストパフォーマンスに優れているとは言い難く、無駄弾を使うことができない以上実銃を使う魔法使いは射撃の腕が一流でないと務まらないのだ。
今回の調査にあたって使用される消耗品は全て経費で落とすこととなったため、ハーネルはライフルのマガジンを5本、ハンドガンのマガジンを6本手に入れる事ができた。
「そういやもう時間なんだがミカヅチいねぇんだけど?」
ハーネルがそういうと他の3人が顔を見合わせる。時計を見れば集合時間から既に5分経っているのだが、たかしにミカヅチの姿が無かった。
対人戦闘だろうと対魔獣戦闘だろうと平然とやってのける彼が今回の作戦の要ではあるものの、今回のミカヅチ自身の目的はきっとアメリアとハーネルに本物の実戦を教え込むためだろうとアルバートは思っていた。もしかしたらミカヅチは「自分抜きでやれ」と友を平気で地獄に送ったのではないかと冷や汗が流れる。
一同にも若干不安の色が出てきており、アルバートは落ち着くため煙草を取り出すと、胸ポケットに煙草と一緒に入っていた携帯が鳴った。見てみると発信主はもちろんあの武人、恐る恐る電話に出たアルバートだったが、その表情はすぐに呆れのものと変わり、重い溜息をつくと電話を切った。
ギギギギギ・・・・と軋むような音がならんとばかりに首だけをハーネル達のほうへ向けると、とてつもなく笑顔だった。・・・が、心なしか眉間がピクピク動いている気がした。
「・・・・・『すんません。さっき起きました』だってよ」
「「えぇ〜・・・」」
どうやらマジで寝坊しただけのようだった。
詫びとしてミズチ特製のサンドイッチを持ってきたミカヅチは本当に眠そうな顔で、アメリア達は本当に大丈夫なんだろうかと別の意味で不安になっていた。そして一行は、後に地獄となる場所へ向かっていくのだった。
―――当然そうなると思っていたのは、前に座っている二人の男だけだったかもしれない。




