第13話「狂気と覚悟」
「―――以上が、遺跡調査の報告となります。」
遺跡の調査から一夜明けて昼、アルバートはエリダンヌ国王・マクシミリアンのもとを訪ねていた。
国王本人は調査チームからの報告書は一応目を通しているが、それでもやはり言葉を濁らせて記載されていたりと一部事情で断言のできない報告もあるので、その真意を確かめるためにアルバートを呼んだのだ。「エリダンヌ国王」としてではなく、盟友でありヴァルハラの先輩である「マクシミリアン」として。
「二足歩行の人型魔獣・・・か。」
「明らかに従来の原生種とは違いますね。統率の取れた行動に、人間のみが使用できるはずの銃を扱うなんて普通では考えられませんよ。」
マクシミリアンの予想は当たった。
送られていた報告書には「新種魔獣らしき存在の確認」とはあったが、それが本当ならば当然映像かなにか媒体を用いて記録が少なからずともされているはずなのだが今回はそれがなく。かなり不透明なまま終わっていた。
そしてアルバート自身もマクシミリアンに報告するためのレポートを個人で制作していたらしく、そちらのほうには包み隠さず新種魔獣の事が書かれていたし、当然マクシミリアンもその報告には目を見開いて驚いていた
明らかに人工的に造られた遺跡の内部シャッターに隠された謎。
美しい魔法の国とは言っているが、世の中は綺麗な事が全てではなく、このアトランティスでも勿論盗賊などといったならず者だって存在するし、そのならず者が群れを成している組織や地区だって存在する。
当時は遺跡の一部が破壊されていたり、一般の立ち入りが禁止されている遺跡へ勝手に足を踏み入れてアジトまがいなものを作っていたりと頭を悩ませることが多かったが、何故かここ1、2年は影を潜めている。小さなことはたまに起こってはいるが、大体はすぐ王国軍や警備隊によって捕縛されていた。
推測としてはこうだ。影を潜めているならず者は、ただ単に大人しくなった訳ではない。自分たちがアジトにすべく入り込んだ遺跡は既に別の「何か」によって占拠されており、彼らは捕らえられた。そしてあの二足歩行の魔獣は彼らを使った「人体実験」の末に生み出された特異種・・・認めたくはないが、限りなく正解に近いとも思っている。
様々な遺跡で織り成す美しいこの魔法の国は、既に裏で「何か」に落とされていたのだろうか。
「・・・して、先生としてはあの遺跡はどうしたら良いとお考えで?」
「由緒正しい歴史の一部であることは理解していますが・・・ああなってしまっている以上、消してしまったほうがいいと思います」
その回答には流石に「国王」として喉を呻らせる。
だがしかし、この地を作ってきた神聖な遺跡が何者かの手によってまったく別の、禍々しい城と化しているのならばアルバートの思っていることは正しいことである。
であれば、潰してしまう前にもう一度・・・というよりこの遺跡をくまなく調べ尽くす必要がある。しかしあんな出来事があったのだ、いくら精鋭の揃う遺跡調査チームとはいえ、同じものをもう一度見たい・行きたいよ思う人間はいないだろう。
「ミカヅチ君はどう反応しているんだ?」
「特に何も・・・。今まで千切っては投げてきた魔獣が人型になったところで、例えそれが実験によって人間が変貌した姿であっても・・・彼がここに来る前の状態に戻った程度の事なんだと思いますよ。ミカヅチが居なければ全滅も有り得たのはまた事実ですから。」
アルバートが執務室から出て行き、マクシミリアンが一人残される。
「あいつらがミカヅチの生き方を垣間見るいい機会ですから」と最後に残していった言葉から察するに、アルバートはアメリアやハーネルを連れて行く気なのかもしれない。正直な話自分の愛娘をそんな危険な場所に連れて行くのはまだ早いと思って言葉を出そうと思ったが遅かった。遅れた原因のひとつとしてマクシミリアンは過去の出来事が頭を埋め尽くしていた。
「―――因果なことだ。修羅はどこまでも・・・。」
マクシミリアンはポツリと呟きながら、窓の外に映る武人の背中を見て目を細めるのであった。
翌日の訓練場。ミカヅチは一本の木刀を手にして口を開いた
「お前ら、俺を魔獣だと思え」
あまりに唐突すぎた一言に、クラスのほぼ全員の時が止まった。
やや数秒遅れてようやく「はっ?」や「へっ?」などといった生返事だけが返ってきた。アルバートはやれやれといった感じで半ば呆れながら集団の後ろから声を掛けた。
「あー・・・みんな聞いてくれ。今日の訓練内容は少々変更があってな・・・題して『超新種!古代二足歩行魔獣討伐訓練』だ」
「二足歩行魔獣?そんなのいるかァ?」
「あくまで想像の話な?まぁ俺たちアトランティスの人間でもまだ見たことない原生魔獣ってのはいっぱい居ると思う。今回はその中でも『こんなの居たら超厄介だろ』というのを考えてみた結果。普段俺たちが相手をしている四足歩行の魔獣ではなく、神話でいう『キメラ』や『デーモン』に近い二足歩行の魔獣がいいだろうと判断した」
「たしかに一対一じゃミカヅチに勝つことは難しいだろう。だが一対多数ではどうだ?何だかんだまだやったこと無いだろ?そして今回はあくまで『撃破』ではなく『討伐』・・・要は全員の力を合わせてコイツを倒すか捕まえるかしてみろって事だ」
「成程。あくまで彼は新種の魔獣・・・だから生け捕りにする技術もいるって事ですね?」
魔法には当然、攻撃型の他にも捕獲型や補助型といったカテゴリが存在する。いくら対魔法戦闘に超特化したミカヅチとはいえ、様々な魔法がカッチリと噛み合えば一太刀くらいは入れることができるかもしれない。
カリキュラムには集団戦闘やチーム戦といった項目もあるので、普段から魔法戦技科はそれなりに連携プレーは鍛えられているハズ。
ただ気がかりなのが、ミカヅチが持っているのはサムライソードではなく木刀だということ。
「物理防御結界が最大値って、流石にミカヅチさんにハンデ付け過ぎでは?」
「そうだぜ。しかもお前サムライソードじゃなくて大丈夫なのかよ?」
ミカヅチはおもむろに水分補給用のボトルを持つと軽く放り投げ、「シッ」と息を漏らしながら放つ逆袈裟の一振り。直撃したボトルは、見るも無残に水しぶきを散らしながら真っ二つに千切れ飛んでいった。
木の中でも特に硬い黒檀の木刀。それはミカヅチのような達人が扱わなくとも怪我では済まない。唖然とするクラスへ振り向いたミカヅチの右目は、いつだかのような眼光を灯していた。
「・・・防御結界が無ければ、腕と足はこうなるぞ?」
「ミ、ミカヅチを墜とせェッ!」
ちなみにクラスBの生徒は5分と持たず、その3分後にアメリアとハーネルが墜とされましたとさ。おしまい。
「して、あの二人が実際にあの魔獣たちを見たらどうなると思う?」
「姿だけを見るのならば『これが新種か!』程度の認識になると思いますよ。俺たちは実際に討伐してきたから色々と探る事ができるわけであって、それがもし俺たちもただ単に写真データだけを見せたれた時は同じ反応をする」
訓練の合間。クラスメイト達が鍛錬に励むなかアルバートはミカヅチを連れて片隅で並んで皆の様子を眺めていた。
やはりアルバートは第二次探索にアメリアをハーネルを起用するつもりらしく、先ほどのミカヅチ討伐訓練はそれに対応しきれるか見るためにアルバートが即興で考えたものだ。
結果としてはふがいない形で終わってしまったが。本来の相手はミカヅチではない以上どっちに転ぶかはわからない。技術よりも、どちらかというと精神面があの遺跡探索の成功を左右するのではないだろうか。
「あの先にあるものは全て人工物だろうな。奴等を生み出したやつもいるのか。」
「賊共を全部実験台にしているとなれば数が少なすぎる。あれだけ厳重な扉で作っておいてそこにいるのはアレだけってのは流石にないでしょう」
「なら、奥底でまだ捕らえられている・・・もしくは実験の最中な人間がいるということか・・・?」
アルバートははっとなるが、どうやら武人の考えている事は違うようだ。
どこか怒りを孕んだような空気がアルバートの口をも閉ざす。
「あの独特の生臭さ・・・覚えがある。ジパングに居た頃に戦場で、特に落とされた後の集落で嗅ぐ事の多い、それを見るのも忌々しい地獄の底よ・・・。」
虚空を睨むように切れた目をしたミカヅチの、組んだ腕がぎりっと軋む。
登録武人として全国各地で人を斬り続けていた先に見た貧困集落の末路。土地は落とされ財産は奪われ、飢えが飢えを呼び凌ぎを削り果たした先に辿り着くひとつの暗黒郷。
見るのも嫌になっていた光景を、また見なければいけないということか・・・。
「・・・おそらく、奴等は人を食糧としている。」




