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Mellow-刀ひとつ、武人が歩む魔法の国-  作者: 飯田倉和
武人来訪編
13/29

第12話「遺跡調査(後編)」

「なんだこいつらは・・・!?」

「新種の魔獣か!?二足歩行なんぞ聞いたことがないぞ!」


その場にいる「ほぼ」全員が戦慄した。


アトランティスに住む魔獣は陸上に生息している動物が?化したような、いわゆる前足と後ろ足から成り立つ謂わば「四足歩行」のものしか存在していなかった。

しかし目の前にいる魔獣は、明らかに「二本の足だけで立っている」。これは王国の歴史、いやもしかするならばこの世の魔法歴史を覆さねかねない事態である。王国数百年はおろか、魔法文化のある全世界の歴史をどれだけ掘り起こしても存在しないものだったからだ。


だがしかし現実である。まさにそんな歴史的な存在がここにあった。当然の如く研究員の中には好奇な目でそれを見る者もいる。だが大半は絶望に塗れた目で怯え尽くしている。

それもそのはず。目の前で歩きながらにじり寄ってくる魔獣は誰がどう見ても恐ろしい風貌をしている。二足歩行、それもご丁寧に人型でありその身体はまさに「腐敗」。焼け(ただ)れたような、ヘドロをかぶったようなドロドロな外皮に悪魔のような面構え。

そして「オレがそいつらを食ってやった」と言わんばかりに主張している鋭利な牙の並びと生臭さを孕んだ蒸気のような呼吸。掴む・引っ掻くに適しているであろう人間の倍近くある手から生える鉤爪がまさに・・・


―――「魔獣」ではなく「魔物」と呼ぶに相応(ふさわ)しかった。



「・・・確かに見たこともない種類となっちゃぁ、コイツらが他の魔獣を喰らったと考えても不思議じゃねぇな」


流石のアルバートもこの状況には冷や汗が浮かんでいた。

普段なら新種の魔獣を発見したとなればアルバートはもちろん研究室一同は大喜びで生け捕りにして調べるだろうが、生憎状況が状況・・・それも最悪にほぼ近い状況であるから全く喜べない。

相手は明らかにこちらに敵意を剥き出しにしている。下手に刺激しようものなら飛びかかられて食らいつき、そのへんに転がっている魔獣の残骸と同じ状態になってしまうだろう。


どうする・・・?と目線をミカヅチへ送るが、彼の目は前髪に隠れてしまっておりイマイチ表情を読み取ることができない。だが何故だろうか、ミカヅチ自身に焦りの色がない気がした。

ミカヅチだってこんな魔物を見るのは始めてのハズだが、彼が遺跡に行きたいと言った際に「遺跡の魔獣」と言っていたあたり、こういうものがいることを大方予想できていたのではないかとも思える。


そんな事を考えていると突如魔獣達が動き始めた。

慌てて身構えた全員だったが、魔獣は襲ってくることはなく散り()りになり、一頭が低く響く唸り声を上げると片腕を背中へと回した。すると周りに散った他の魔獣達も腕を背中に回す。


そして直ぐさま魔獣はその回した腕を今度はアルバート達のほうへ一斉に向けた


「冗談だろ・・・」


アルバートは向けられた先にある黒光りした物を見て驚愕の表情を浮かべる。それは紛れもなく「拳銃」と呼ばれる人間が使用する武器だった。


(こいつら、魔獣というにはあまりに・・・!)


「「「うわぁあああああぁぁぁッ!!!?」」」


万事休すと思った全員だったが、サムライソードを抜いた武人が最前にいつの間にか立っていた。


刀漏流止(とうろうながし)


言葉は幾多の銃声にかき消されたが、その銃声がすぐにピタリと鳴り止んだ。

自分がまだ生きていることを確認している調査員や魔術師は、全くといっていいほど何が起きたのかわからない表情をしていたが、唯一アルバートだけが身を庇ったものの、ミカヅチを信じてその行動からは目を逸らさなかった。

持っていた銃を地に落とした二足歩行の魔獣達はもがき苦しむように頭を押さえて蹲っていた。


(アメリアの奥義を全て斬り落したやつか!?極限に集中していたから使えたものだと思っていたが、まさかこんなにアッサリ使えるとは・・・)


弾丸とはせいぜい1センチ弱の小さな鉛の粒に過ぎない。

ライトは地に落とされ満足に視界も確保できなく薄暗い状態でミカヅチは数発の弾丸を綺麗に捌き、なおかつ刀身に滑らせた状態から跳弾を計算し相手に向かって跳ね返したのだ。

相変わらずの人間離れした技術にアルバートも思わず背筋が凍る。


「38口径か・・・。思ったより見えにくかったぞ」


魔導斬(まどうざん)一刀流が迎撃兵法「刀漏流止(とうろうながし)

銃の弾丸や射出型ナイフのような投擲武器などといった飛び道具をはじめ、魔法による誘導弾に射撃系魔法を何発来ようがどんな方向から一斉に来ようが刀一本でひとつ残らず斬り払う技術。

当然使用できるのはミカヅチとコンゴウの二人だけであり、数々の魔法使いがこの技術に苦しめられた。先ほどもやったことであるが、斬り払うどころか払いきる直前に刀身の軌道を変え、そのまま放った相手に返すことすら可能となっていた。


ミカヅチがアトランティスに来て間もない頃、能力試験として相手に選んだのが生徒として学園最強、唯一「騎士」の称号を持っていたアメリアだったが、あっけなく倒してしまった。

アメリアの持ち味である魔力で作られた強靭な射撃魔法を一発もヒットさせることなく全てサムライソードで叩き落とし、近接戦闘ともなればほぼ一方的に相手を潰していく。そんな絶対的な強さを見せたミカヅチだったが、アルバートはおそらく手を抜いているだろうと踏んでいた。

今目の前で見てしまったから分かる。この武人にとって飛んでくる銃弾はせいぜい「動いてる的」と同じようなものなのだろうと。


(だが何故、初めて見る種類の魔獣・・・いや、魔物とでも言おうか。それを見てもミカヅチは躊躇なく斬れるのだろうかと思ったが・・・。)


齢17歳にして、そんな若さを全てどこかに置いてきたように修羅道を歩み進んだ男。同い年のアメリアやハーネルだってそれなりに研鑽を積んで戦ってきたからこそアルバートにとっては信頼のできる生徒になってくれただ。この男は当然そんな領域にいるものではなかった。

ジパングという世界で有数の人間同士の争いが絶えない国で、ミカヅチはたった1人で妹との生活を守り抜いてきた。・・・文字通り、己の手を生き血で染めてでも。


(改めて考えると彼は今まで人間を斬り続けてきたんだ。たかだか魔獣が人間に似た・・・二足歩行になったところで「たかだか魔獣」ということだけなんだ。・・・これは俺も割り切る必要がありそうだ。)


ふぅっと浅く呼吸を整えたアルバートは拳を握ったり解いたり感触を確認しながらミカヅチの隣に並んだ。

その眼差しは大人としての威厳か、コンゴウ・アザイの元盟友としての威厳か。先程までのような迷いの色は見られなかった。


「護衛の魔術師はみんなを守ることにだけ専念してくれ。・・・こいつらは俺たちが始末する。」


魔術師が一斉に防御魔法を調査員の集団に張ると、二人は構えて一斉に飛び込んだ。


「チェエエエェェェストォォォォォッ!!!」


咆哮と共に先陣を切ったミカヅチは横一文字の抜刀術で魔獣の胴を真っ二つにする。ミカヅチに飛び込む形で迫っていた魔獣は禍々しい呻き声を上げながら無残にも上半身下半身共にグシャリと地に転がり落ちることとなった。

そのまま次々と魔獣の身体を斬っていく横で、アルバートはひたすらに拳打で魔獣の身体を潰していく。踏み込んだ足が地にヒビを入れ、そこから拳へとダイレクトに伝わるエネルギーが魔獣をぶっ飛ばし、洞窟の壁へをめり込ませた。

ふぅっと呼吸を整えたアルバートだったが、突如足がなにかに掴まれるような感触が走った。慌てて下を見ると、上半身だけとなった魔獣が腕を伸ばしてアルバートの右足首を掴んで今にも噛み付こうとしていた。


「おいおい・・・真っ二つにしてやったハズなんだがな」

「こいつら、まだ動けるのか!?」


勢いよく掴まれた足を振り上げ、踵落としで魔獣を地に叩きつけながら手を潰す。ギィギィと気色悪いうめき声を上げながらも魔獣はまだしぶとく動き続けようとしていた。

次々と魔獣を斬り刻んでいたミカヅチだったが、チラリと周囲を伺ってみるとあるものが視界に入ってきた。「刀漏流止」で跳ね返した弾丸が頭に直撃した魔獣だけが、その後一度も自分達を襲ってくることなく野垂れんでいたのだ。

となると現状考えうるこの魔獣の弱点はひとつ・・・。


「頭を狙ってくれ先生!どうやらそこ以外潰しても意味がねぇ!」

「頭!?」

「さっき弾丸を跳ね返したヤツらだけ動かんとなれば・・・」

「厄介だな・・・。的が小さい分俺は噛まれないようにだけせんと・・・なぁッ!」


飛びついてきた魔獣の鉤爪を避けながら腕を掴んだアルバートは、そのまま左拳を左テンプルに叩き込む


(あれが「拳聖(けんせい)」の拳の威力か・・・。少ない動作で急所を的確に狙うのは勿論、打撃の衝撃をダイレクトに対象へ伝えるのが巧みの域だ)


アルバートの拳に打たれた魔獣の顔面はまるでマグナム弾に打たれたスイカのように弾け飛ぶ。拳だけではなく蹴りでも二匹単位で身体を吹き飛ばし、踏み込みの鋭さもアメリア以上となれば、正に肉弾戦車のような戦術。国王が言っていた「対人・対魔獣戦闘のエキスパート」とはあながち嘘ではなかったのだ。


「バルカンバスタァァァァァッ!!!」


目にも留まらぬ回転数で繰り出される無数の拳打が3体の魔獣の顔面を一気に殴り潰した。

それにしても強い。ほぼ徒手空拳のみで魔獣を圧倒できる格闘戦技術は、単に極限の鍛錬のみでは獲得できないだろう。

アメリアに聞いた話なのだが、魔力資質の中でもアルバートは特異体質に入る。彼にはエリダンヌ家の「光」やハーネルの「氷」のような目視できる魔力を持っていない。

「見えない魔力(インビジブルマジア)」と呼ばれる魔力素質は、アトランティスはおろか魔法文化国中でも10に満たない数しか確認できておらず、分かっている能力としては基本的には「身体強化系」だということだ。


「塵と化せぃぃぃ!!」

「ぎゃぁあああああぁぁぁッ!!?」


逃げようとして走り始めた最後の魔獣をミカヅチが後ろから縦真っ二つに振り抜いた。

だがその斬った魔獣から発せられた断末魔は、聞き間違えでなければ誰もが聞いたことのあるような鮮明な「声」として出てきた。血しぶきを上げながらぐしゃりと地に崩れた魔獣は、そのまま灰となって散っていった。


「今・・・明らかに人間の声がしたぞ・・・!?」


どうやらそう聞こえたのは二人だけではなかったようだ。

だが、その前兆はあったと思う。明らかに太古に作られたとは思えないシェルターのような分厚い鉄のシャッター。二足歩行の人型魔獣。そしてその魔獣が全員持っていた、人間が使用する38口径の拳銃。

「明らかにこの魔獣と遺跡には現代の人間が関わっている」と確定じみた考えが出てくるが、正直な話これ以上なにも考えたくないというのが周りの考えでもあった。情報を整理しようにも何から話をしていいのかも全然わからないくらいには調査員や魔術師は混乱しているに違いない。


行こうと思えば行ける。そう平然と答えるのはミカヅチしかいなかったが、そういうとほぼ全員が黙りこくってしまった。

灰と化した魔獣の残骸を横目で見ながら、調査員の1人が重い口をよううやく開いた。


「撤退しましょう・・・。これ以上進めば、きっとこの国の何かが壊れてしまう気がする」

「果たして今回の件、どこまで報告書をまとめればいいのだろうか・・・」


流石にそのあたりの事はそっちでなんとかしてくれ。と心の中で思う二人だった。

そしてこの一件が後に、アトランティス・エリダンヌ王国全体を揺るがす大事件の幕開けとなることを、1人を除いて誰も知らないまま時が過ぎるのであった。

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