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Mellow-刀ひとつ、武人が歩む魔法の国-  作者: 飯田倉和
武人来訪編
12/29

第11話「遺跡調査(中編)」

そもそもの発端はミカヅチが「遺跡の魔獣を見てみたい」とアルバートに言い出した事から始まった。


それを言われたアルバートは最初は当然困ったし、学園防衛戦にて遭遇している魔獣等のデータでは駄目なのかとも思った。それならば研究施設の見学やそこにある資料庫での調査で事が済むのだが、どうやらミカヅチは遺跡そのものも見てみたいらしく、魔獣はそのついでのようなものだと言った。


(確か、王室の研究施設が近いうちに規模の大きめな遺跡探索へ出ると国王様から聞いた記憶があるな・・・)


ふと疑問に思ったのは、何故遺跡「の」魔獣なのか。まるでミカヅチが「遺跡には地上にいる魔獣とは全く別の個体がいる」と踏んでいるようなものだ。この国おろか魔獣の知識もそこまで無いだろう目の前の武人だが、初陣で無双級の活躍を平然とやってのけた学園防衛戦な対ど魔獣戦闘に関するセンスはアメリア以上に頭抜(ずぬ)けている。

アルバートはそんな武人が遺跡の先に何を見るのか。父親の盟友として無性にそれが知りたくなり、あえて一定以上の危険を伴う可能性の高い研究施設の遺跡調査への随伴をわざわざ出したのだ。


「しかし・・・よく俺たちのサイズに合う作業着ありましたね?」

「俺達は制服もスーツもほぼ特注に近いからなぁ。だが作業着に関しては業者が普段から取り扱っているらしくてな、研究所に問い合わせてみたら普通に使われてるものの在庫があったよ」


身長は180を遥かに超え、それ以上に服のサイズが合わなくなるほどの筋肉に恵まれたミカヅチとアルバートは普段着はまだしも制服やスーツはそこらへんでは売っていない。わざわざ自分の肉体のワンサイズ大きいものを国王を通じて専門の業者に頼んで卸してもらっているのだ。

研究施設には巨漢の研究員も数多くいるらしく、そのあたりは抜かりなかった。二人はその巨漢が使う作業着の予備を着ると、それなりにフィットしていた。



「前回の調査では地下約30メートルまで進めましたが、その先で大きめの崩落があったようで前に進むのは危険だと判断しました。今回の目的はその崩落で積もった瓦礫を撤去し、更に進むということです。」


ミカヅチ達のいる班を取り仕切る調査員が遺跡の入り口付近で二人に説明を施す。しかし前回の調査から数ヶ月ほど経っているので、もしかすると調査を進めたところにもまた魔獣が住み着いている可能性があるという。

学園の生徒が同伴という調査員の心配を他所にアルバートが「彼は戦技科のランクAなので問題ないですよ」と笑ってのけた。

横にいたミカヅチは若干苦笑いしていたが、持っていたサムライソードに気付いた調査員は顔を引きつらせながら納得したらしい。


山岳地帯に存在している遺跡はそれなりに深いものが多いらしく、今回調査する遺跡も入り口から既に下りが続くこととなる。最初のほうは測量班の用意した据え置き型のライトが使用できるためそれなりの明るさで進むことができるが、道が入り組み始めることにはそのライトも使用できなくなり、所持している懐中電灯のみが頼りとなる。

しかしこの国の懐中電灯はジパングの電池式と違い動力源は魔力のため、連続点灯時間も光量も段違いだった。


石造りの階段から始まり、ある程度降りたところで上下左右すべて石で造られた廊下のような通路となる。どこを見ても風化されボロボロな状態だったり、所々で苔のような植物が生えているのを見るとその古さを再確認させられる。道端に落ちている骨は住み着いて飢え死んだ魔獣のものだろうか。


「もうじき前回の調査地点、地下30メートル付近にある広間です」

「ここまで特に問題は無し・・・か」

「曲がる箇所はあれど基本的に一本道ですからね」


一行は一本道の通路を抜け、それなりに開けた部分に出てくる。

やはり基本的に使われている材質は岩石であり、それなりに削り整えられていた。授業でも様々な遺跡の写真などは見たが改めて太古の人間はよくもまぁここまで丁寧に岩を削って積み重ねてこんなもん造ったよなぁとミカヅチは心の中で思っていた。

色んな箇所に光を当てていると、ひとつの何か動く物体を捉えた。

すかさずミカヅチとアルバートが前に出ようとしたが、調査員の一人が慌てて二人を止めた。


「あれは大丈夫です!肉食の小型魔獣ですが基本的に人間に害はありません!むしろ鼠や害虫を狩ってくれるので、こちらとしては助かっていますよ」

「よく見てみろミカヅチ、なんだか愛くるしいツラしてやがる」

「流石にこれを斬ったとなっちゃ女共がいたらバッシングの嵐か・・・」


土竜(もぐら)のような見た目の魔獣だが、その性質も土竜と似たようなものらしい。だがその愛くるしい見た目とは裏腹に腕力は小型種の中でも強く、粘土質の土どころか風化した岩盤ならば掘れるのだという。

ということは律儀に入り口から来たのではなく掘ってたらいつのまにか遺跡まで辿り着いてたパターンだろう


(たくま)しいねぇ」


強く生きろよ、と言葉を投げかけて調査再開。

この広間そのものは何の問題もなく、前回調査したままとほぼ変わらないらしい。問題はその先、ふたつ通路があるうちのひとつが確かに瓦礫で埋まっている。もうひとつは特に何かで塞がれているわけではないのだが、進んでみると一番奥は行き止まりだったという。


「で、この瓦礫はどうするんだ?ショベルも持ち込めなければ人力でどかすワケにもいかんだろ」

「護衛の魔術師に頼みます。火薬を使った物理的な爆発だと当然更に崩落してしまうのは目に見えてるので、風を使える方が空気を操る炸裂魔法を撃ち込んで何回かに分けて瓦礫を吹き飛ばします」


その言葉を横に護衛で来ている魔術師が二人ほど瓦礫の前で詠唱を始める。なぜ二人も必要なのかと思っていたが、横で調査員が「一人だと吹き飛ばすだけになってしまって我々が危ないですから」と付け足した。

おそらくもう一人は炸裂で吹き飛ばした瓦礫が他の調査員に被害を及ぼさないよう障壁魔法を張るのだろう。


そんなこんなで二人が頑張り、どんどん瓦礫の山は開けていった。

10分もすれば通路を塞いでいた瓦礫は綺麗になくなり、広間の二箇所に瓦礫が積まれていた。

調査員共々が安堵した顔で「これで調査が進められるな」と言い合う中で、ミカヅチだけが表情を強張らせたままだった。


「・・・()な空気が流れ込んできやがる」


そんなミカヅチの呟きをアルバートだけが逃さなかった。

言われてみれば確かに。というほどアルバートも感じ取れるわけではないが、ミカヅチの言いたいことも分からないでもない。

これまでライトで照らして難なく辿り着いたが、その先は何やら暗い。物理的にというよりは、感覚的に薄暗く思えてくるのだ。当然照らすライトの量は同じなのだが、それなのに何故か少し暗いとアルバートは思った。


ミカヅチの感覚神経はアメリアやハーネルはおろか、アルバートですらも感じ取れないほどの些細なことでも感づいてしまうほどに鋭い。

念には念をということで他の調査員にも細心の注意を促させ、未開の地へと調査は再開された。



「・・・妙だな。深度計を見ても、どうやらさっきの広間からあまり下に潜ってはいないらしい」


新たに進んでいるルートは、どうやら潜っているわけではなさそうだ。

最初こそ階段はあったものの、感覚的に5メートルくらい下ってからはずっと平らな道が続いている。どうやらこの遺跡は深く堀り進めたものではなく、ある程度の深さまで行ったら横に進んでいくタイプらしい。特に珍しい造りというワケではないというのに、進むにつれてだんだんと不安になってきた。

今までは丁寧な石造りだったものに対し、現在いる場所は半ば洞窟に近い。歩いている箇所こそ固められているが、壁などは掘った状態そのまま。地層の様子が見え、岩石などはそのまま放置されていた。

だがそれよりも気になることが先ほどから視界に入っていた。


「ミカヅチ、どうした?」

「・・・さっきから目に入る魔獣や動物の骨、明らかに昔のじゃねぇな」


歩みを止めた調査員達が一斉にミカヅチのほうを見た。

アルバートともう一人護衛の魔術師が一番近い残骸まで歩み寄りライトを照らすと、バラバラにはなっているものの骨と化した魔獣らしきものの骨格と似ていた。そしてそこには、小さな虫が湧いていた。風化した骨ならば栄養素など皆無に等しく、まず虫が湧くことなど有り得ない。


「これは・・・明らかに最近、それも数日前とかその次元のものですね」

「小型種とはいえ、肉食種がこうも無残な姿で見られるとはな・・・」


そしてこれは研究結果が出ていることだが、肉食の魔獣も共食いはしないらしい。

地上の理に適って草食魔獣や魔力を持たない普通の動物を食べるのがセオリーなのだが、この残骸の頭蓋に残された歯を見る限り明らかに肉食魔獣のものである。

瓦礫の先、階段を下りてから明らかに何かが変わった。

戦闘のできない調査員を守るべく、二列に並んだ調査員の横に護衛魔術師が4名左右に配置し、最前にはアルバートと防御魔法に長けた魔術師がひとり。殿にミカヅチが配置された。

洞察力と夜目が利くミカヅチ以外の戦闘員にはライトの装備を徹底させ、転がっている魔獣の残骸をひとつひとつ確認しながら奥へ奥へと進んでいく。

そしてようやく、長い洞窟も終わりに近づこうとしていた。・・・が


「行き止まりにしては随分と物騒な壁だな」

「壁というにしても随分と近未来的じゃあないか・・・?どう見ても岩ではなく分厚そうな鉄だと思うんだが」


一番前にいたアルバートが壁に近づき、触れたり軽く叩いたりして反応を確かめてみる。音からするに数十センチと相当分厚い鉄でできているような音が響き、「流石に爆薬を使っても壊せそうにないなぁ」と冗談交じりに乾いた笑いを漏らす。


「これはあれですねぇ、フィクション作品ならシェルターのように開いていって中から様々な兵器が登場するのでは?」

「フラグ建てないでくださいよ・・・」


すると突然洞窟内に軽く振動が起きる。まず一同が視線を送るのは当然その行き止まりとなっている鉄の壁だった。

そしてその期待を裏切らずに鉄の壁はゆっくりと動き始めた。土埃を出しながら鉄の壁はどんどん上に上がっていく。鉄の壁は壁ではなく、シェルターのようなものだったのか。

まるで軍施設の合体メカでも登場するのではないかというゆっくりとした演出にゴクリと喉が鳴るが、ここは魔獣も住み着く太古の遺跡。的中してしまうのは大体悪いことしかない。


「うっ・・・。一同、マスクの準備だ!」


壁が開き始めたあたりから既に発生していた不快な臭い。

腐敗臭にも近いがどちらかというと血生臭さに薬品のような臭いが混じっており、壁が完全に上に昇った時には洞窟内は完全にその不快な臭いで充満していた。


次に聞こえてきたのは魔獣のものと思われる低くかすれた呻き声。

ジャリ・・・ジャリ・・・と地を踏みしめ、その音は誰が聞いても明らかにこちらへ近づいていた。護衛の魔術師、そしてアルバートとミカヅチが構えて警戒態勢を取ると、徐々に迫りくるものの姿が明らかになっていく。


「おいおい・・・流石にそりゃねぇだろうよ」


今まで王国で見てきた魔獣とは明らかに違うものが「立っていた。」

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