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第10章 咆哮の獣騎士

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5 「手を出すな」

「だいたいの話は聞いていたのだろう。貴様の表情を見れば分かる」


 ミランダが剣を構えたまま、冷ややかに告げた。


「我々の動向を知られた以上、対応を変える必要がある」


「なんなんだよ、お前は……」


 ジャックはうめきながら後ずさる。


「確かに貴様は人間離れしたパワーとスピードを誇る。だが、戦闘に関しては素人。この狭い室内で──この至近距離なら、私に分がある」


「戦う、つもりか……俺は、そんな……」


 先ほど彼女と同僚が話していた会話の内容を思い出す。


 おそらく、同僚はレヴィンの指示でジャックに関する情報を探っていたのだろう。

 大事な仲間が自分を売るような真似をしていた──。


 そのショックと混乱で、頭がぐるぐると回る。


(──いや、違う)


 おそらくレヴィンに『支配』されているのだ。


 己の意志をねじ曲げられ、手駒にされて……。


 許せない、と思う。

 平穏で幸せな日常に、土足で踏みこんでくるようなレヴィンの手口を。


 だけど、どうすればいい?

 立ち向かえばいいのか?

 相手に刃向かった場合、手駒にされている同僚はどうなるのか?


 いくつもの疑問がジャックの思考を鈍らせ、行動を躊躇させる。

 と、


「考え事か、ジャック・ジャーセ? 戦場では一瞬でも気を抜けば、命を失うこともあると知れ」


 ミランダが床を蹴って突進する。


「っ……!」


 ジャックはすぐに意識を目の前の女騎士に戻した。


 混乱から立ち直れず、反応が遅れてしまう。


 それでも──強化された彼の反応なら、多少虚を突かれても十分に対応できる。

 ジャックの反射神経の前では、鍛えられたミランダの動きさえも緩慢に見えた。


 だが、


「甘い」


 ミランダの口元が笑みの形を描く。


「こいつっ……!?」


 迎撃の拳打を放とうとしたところで気づく。

 もし彼女が避ければ、ジャックの攻撃はその背後にいる同僚に当たってしまう──。


「仲間を巻き添えにするかもしれない、と気にしたか。情報通りだな」


 ミランダが突然、横に跳んだ。

 その背後にいた同僚が、ジャックに向かって突進してくる。


「何……!?」


 いや、それも違う。

 ミランダが回し蹴りのような格好で、同僚の体をジャックに向かって蹴り飛ばしたのだ。


「くっ」


 慌てて同僚を受け止めるジャックだが、


「後ろだ」


 次の瞬間、冷やりとしたものが首筋に押し当てられていた。

 ミランダの、剣が。


 一瞬、同僚に意識が向いた隙を突かれた格好だった。


「これで私の勝ちだ。同僚に気を取られて私の姿を見失うとは……しょせんは素人か」


 ミランダの声には呆れとも失望ともつかない感情がこもっていた。


「なぜレヴィン様はこの程度の者に執着するのだ。側近なら私がいるというのに……」


 苛立たしげな舌打ち。


「だが、貴様が戦闘技術を覚えさえすれば、たちどころに最強の兵士になるだろう。レヴィン様にとってもっとも有用な存在に──」


「もしかして、お前……レヴィンが好きなのか?」


 自分でもなぜそんなことを言ったのか、分からなかった。

 なんとなく口をついて出た言葉だ。


「なっ……!?」


 だが、ミランダは予想外に動揺した。


「な、何を言うかっ! 私はっ、あの方の配下として──」


「けど、妙に感情がこもってるよな。レヴィンの名前を出すときだけ。他のことを話すときはもっと淡々としてるじゃないか」


 以前は女性の感情の機微などまったく分からなかった彼も、ハンナとデートを重ねるようになった影響なのか、ミランダの言葉にこもる微妙な感情の変化が察せられた。


 もちろん、ジャックの考えすぎかもしれない。

 ミランダはあくまでも任務として動いているだけかもしれない。


 だが、やはり彼にはそうは思えないのだ。

 先ほどの、ミランダと同僚の会話を思い出すと……。


「なるほど。わざと動揺させるようなことを言って、私の注意を逸らそうというのか。素人にしては気が回るな」


 ミランダが冷笑した。


「だが、無駄だ。私が少しでも力を込めれば、貴様の首筋は切り裂かれる」


「やってみろ」


 ジャックは動じない。


 突然の事態にショックを受け、混乱はしていても──。

 恐怖は、ない。


「俺は脅しに屈するつもりはない」


「……なんだと」


「好んで戦うつもりもない」


 ジャックは敢然と言い放った。


「そして──王国ってやつには興味がない。野心のために他人と戦ったり、傷つけたりなんてまっぴらごめんだ」


「この状況で何を吠える!」


 怒りの声とともに、ミランダが刃を突き立てる。

 いや、突き立てようとした。


「これは──」


 呆然とした、声。


「刃が通らない──!?」


 ミランダの剣は、ジャックの首筋をわずかたりとも傷つけていなかった。


 傷つけられて、いなかった。


 彼女がいくら力を込めても、鉄と鉄がこすれ、軋むような音を立てるばかりだ。


「貴様の肌はいったい……」


「俺の力を単なる身体強化だと思っていたらしいな」


 ジャックはミランダを簡単に押し返し、向かい合った。


「だけど、そいつは間違いだ」


 彼はあらゆるものを『強化』できる。

 今のは皮膚の表面を強化し、鉄よりもはるかに強い硬度を持たせたのである。


「帰ってレヴィンに伝えろ。俺はお前の仲間になんてならない。手駒になるつもりも、もちろんない」


「ちっ」


 小さな舌打ち混じりに、ミランダが離れた。

 油断なく剣を構え、ジャックを見据える。


「あの方が目指すのは王国だ。貴様はその側近になり得る力を持っている。こんな場末の会社で一生を終えるのか? もっと大きな舞台で自分の腕を活かそうとは思わないのか?」


「……今度は懐柔か」


 ジャックは険しい表情でミランダをにらんだ。


「王国の側近になれば富も権力も思いのままだぞ」


「権力には興味ないし、富も……とりあえずこの会社の給料で暮らしていける」


「では女はどうだ? ハンナとかいう事務員とは比べ物にもならない美女を思いのままにできるぞ」


「……ハンナを悪く言うな」


 ジャックはじろりとミランダをにらんだ。


「ふん、いずれも興味を示さないか」


 その眼光にひるむことなく、女騎士はジャックを見返した。


「……だが、レヴィン様を甘く見るなよ。貴様の周囲の人間はすでに何人も支配され、我々に情報を送っている。いつまでも己の意志が通ると思わないことだ」


 ミランダが冷たい声で告げる。


「甘い餌で釣れないから、今度は脅しか……?」


 ジャックはうんざりした気持ちになった。


「気を付けることだな。あるいは貴様の親しくしている人間も──」


 言われて思い浮かべたのはハンナや社長、そして何人もの同僚たち。


 ジャックにとって、大切な人たちの顔。


 駄目だ、と思った。

 それだけは許せない。


「奴は──どこにいる?」


「何?」


「レヴィンに直接話をつける。俺にも、仲間たちにも手を出すな、と」

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