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第10章 咆哮の獣騎士

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4 「奴を重要視している」

「お先に失礼します。お疲れさまでしたっ」


 ハイマット運送の仕事を終えたジャックは、残っている社員に挨拶をして社屋を後にした。


 声が、足取りが、軽く弾むのが自分でもわかる。

 今日は仕事の後、事務員のハンナと夕食の約束をしているのだ。


(俺がデートで浮かれるなんて日が来るとはな)


 ジャックは自分自身の生活の変化に戸惑いと喜びを同時に覚えていた。


 王都を襲った魔将を撃退して以来、また平穏な生活が戻っていた。

 ジャックは相変わらず強化スキルを活かした超絶的な運動能力で、他の社員の数十倍の仕事量をこなしている。


 また、プライベートでは事務員のハンナとの距離を縮め、充実した日々を送っていた。

 この年齢になって、遅くやって来た青春を謳歌している感じだ。


 とにかく、毎日が楽しい。


「──なんて感慨に耽ってる場合じゃないな。遅刻するとまずい」


 脚力を強化して歩くスピードを一気に上げる。

 大通りまで出たところで、その足が止まった。


「しまった、あれを持っていかないと」


 社長のアドバイスで用意したプレゼントである。


 思いきって指輪を渡せ、などと発破をかけられたが、さすがにその度胸はなく、無難なアクセサリー類にしておいた。


 今日のデートの終わりに渡そうと考えていたのを、気持ちが浮かれるあまり、肝心のプレゼントのことが意識から消えていたのだ。


「肝心なものを忘れてどうするんだよ、俺は……」


 ジャックは慌てて社屋に戻る。


「なんだなんだ、忘れ物か?」


「デートだからって浮かれすぎですよ、ジャックさん」


「いいよなぁ、俺も彼女ほしい」


 社員たちが冷やかす。


 ハンナとの仲は半ば公然の状態だった。

 といっても、まだ正式に交際の申しこみもできていないのだが……。


「いや、まあ……はは」


 ジャックは面はゆい思いで笑いながら、事務室を通り、ロッカールームに行く。

 その途中で、




「……ジャック・ジャーセの動向はどうか」


「ああ、特に変わりはないみたいですね」




 書庫からそんな声が聞こえた。


(なんだ……?)


 不審に思い、ジャックはドアに耳を押しつける。


 聴力を『強化』して中の様子を探った。

 室内の物音が鮮明になり、中にいる人間の息遣いまでもが聞こえる。


「あの方の支配圏は日ごとに拡大している。すでにアドニス王国の重臣も何人かはあの方の配下になっているからな」


 涼しげな女の声だ。

 少なくともハイマット運送の社員ではない。


「大臣を手下に……それはすげえ」


 こちらはジャックの同僚の声だった。


(一体、なんの話をしているんだ)


 ジャックの不審が強まった。


「あの方の魔法は強大だ。アドニスだけでなくサーラなど隣国の重臣や貴族にもその支配は及ぼうとしている」


 女が続ける。


「まだ少年でありながら、己の目標に突き進む確固たる意志。多くの者を従える力。そして何よりも美しい──ああ」


「……なんか惚気みたいですね」


「っ……!? こ、こほん」


 陶酔したような女の態度に、同僚が茶々を入れた。


「確か、あの方はカーバルシティにいるんでしたっけ? 綺麗な女をたくさん侍らせてるとか……俺もあやかりてぇ」


「うかつなことを口走るな」


 態度を一変させ、叱責する女。


「質問されたことにだけ答えろ」


「ひえ……す、すみません」


「それともう一つ。私は世間話をしたいわけではない」


 慌てて謝る同僚に、女は冷ややかに言い放った。


「ただの定時報告にわざわざ私自らが出向いているのは、それだけ奴を重要視しているということだ」


「は、はい……」


「状況をもっと詳しく把握せよ。どんな些細な情報も見逃すな。レヴィン様はジャック・ジャーセも手駒にできるなら使いたいと仰っていた。調査を怠るな」


(レヴィン──だと?)


 ジャックは眉をひそめた。


 以前に出会った、神の力を持つ少年の名だ。


 ジャックが『強化』のスキルを持っているように、レヴィンは『支配』のスキルを持っている。


 彼はジャックに対し、自らの王国を作りたいと言った。

 その実現のために、自分の仲間になってほしい、と。


 子どもじみた夢だと思ったし、そもそもジャックにはそんな大それた野望はない。

 ただ平穏に日々を暮していくことができればそれでいい。


 だからレヴィンの誘いをきっぱりと断ったわけだが──。


(あいつが俺のことを調べているのか……?)


 あのとき、ジャックは自分の名前を名乗らなかった。


 レヴィンはどうやってここを突き止めたのだろう?

 同僚はなぜレヴィンの仲間らしき女に協力しているのだろう?


 嫌な予感で、息が苦しくなった。


(それに、俺が思っているよりずっと……あいつは本格的に動いてるみたいだ。王国とやらのために)


『王国を作る』というレヴィンの言葉を以前は誇大妄想だと思ったが、大臣や貴族まで支配しているとなれば、話は違ってくる。


 政策決定にかかわる階層の人間を支配下に置いているなら、陰からこの国を牛耳ることも可能かもしれない。


「手駒……ですか」


「レヴィン様の王国実現のために。強い手駒は多ければ多いほどいい」


 女と同僚の会話は続いていた。


「奴は荒事は苦手なタイプで、そういうのは向いてないんじゃないかと。社員や取引先なんかが相手でも怒ってるところを見たことがねえし」


「だが先日は町を守って魔獣と戦ったのだろう?」


「それは身を守るためでしょう。あと、俺らを助けようとしていたし……」


「……なるほど、守る者があれば戦うというタイプか」


 女の声がわずかに熱を帯びた──気がした。

 と、


「──誰だ」


 扉がいきなり開く。


 突然のことに反応が遅れ、ジャックは逃げられない。


 現れたのは、長身の女だった。


 年のころは二十代前半くらいだろうか。

 金色の髪を結いあげ、知的な雰囲気を漂わせる美女だ。


 普通の町娘のような服装をしているが、全身から放たれる刃のような鋭い気配は、まるで戦士や騎士のようだ。


「貴様は──」


 女が驚いたように目を見開いた。


「……聞いていたようだな、今の話を」


 それから同僚を咎めるように、


「……ジャック・ジャーセは帰路についたのではなかったのか?」


「あ、はい、さっき出ていったのですが……」


「忘れ物をして取りに戻っただけだ」


「……ちっ、私もうかつだったか」


 ジャックの言葉に、女は忌々しげに舌打ちした。


「レヴィンの仲間か、お前」


「仲間ではない。配下だ」


 女は傍らの鞄を引き寄せた。

 縦長の鞄から棒状の何かを取り出す。


 ──鞘に入った剣を。


「ミランダ・エニアスだ」


 鞘から剣を抜いた女が凛とした声で名乗った。


 部屋の明かりに反射して、銀色の刃が鈍い輝きを放つ。

 構えが様になっているところを見ると、やはり本職の騎士や剣士かもしれない。


「貴様の戦闘能力は絶大だ。だが温厚で紳士的な性格だと報告を受けている。女である私に手を出せるか、ジャック・ジャーセ?」


「なんで、こんな……」


 敵意をむき出しにする女に、ジャックは戸惑いを隠せない。


 平穏な日常が突然音を立てて崩れていくような──嫌な感覚だった。

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