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2 「ハーレム気分でしょ?」

 俺たちは、王都南部にある小さな海岸にやって来た。


 観光名所というわけでもないのと、シーズンから外れているためか、それほど人がいない。

 俺たち以外には十数人ってところだろうか。


 さっそく俺は水着に着替えて、浜辺に出た。


 女性陣の方はまだ着替え中みたいで、しばらくしてまずリリスとアリスが出てきた。


 二人はそれぞれ赤と青のビキニ姿だ。

 豊か胸やくびれた腰、可愛らしいヒップやすらりと伸びた四肢など健康的で爽やかな色香を発散している。


 二人とも綺麗だ──。

 つい見とれてしまう。


「これ、やっぱりちょっと恥ずかしいです……」


 胸元を両手でかき抱いてアリスがモジモジする。

 けどそういうポーズをとると、腕の間から隠しきれない胸の肉がはみ出る感じで、よけいにエロい。


「あたしだって恥ずかしいけど……でも」


 リリスが頬を赤らめつつも胸を張ると、ぷるんという感じで綺麗な膨らみが弾んで揺れた。


「がんばるんだから……っ」


 つぶやいて、俺のほうをチラッと見る。


「ハルトさんのため、ですね、健気です~」


「えっ!? あ、いえ、べ、別に、そういうのじゃ……あのその」


 アリスの指摘に、リリスはたちまち顔を真っ赤にした。

 と、


「私もご一緒してよかったんでしょうか……?」


 続いてやってきたのは、オレンジ色のパレオを着たジネットさん。

 なんだか決まり悪げにしている。


 あの後、リリスとアリスが半ば強引にジネットさんを誘ったのだ。


「いいじゃないですか、たまには一緒に」


「ジネットさんと一緒に遊ぶのって初めてですね。楽しみ~」


 はしゃぐアリスやリリス。


「水着で海水浴なんて学生のとき以来で……照れますね」


 ジネットさんがはにかむ。


 意外と着やせするタイプらしく、ジネットさんはスレンダーな外見とは裏腹に、豊かなバストの持ち主だった。

 ゆさ、ゆさ、と迫力たっぷりに揺れる胸に、俺の視線は釘づけだ。


 これが大人の色気というやつだろうか……ごくり。


「……ハルト? どこ見てるのかな……?」


 リリスにじろりとにらまれた。


「い、いや、俺は別に……っ」


 慌てて目を逸らす俺。


「やっぱり大きい胸が好きなのかな……あたしも、もっと」


 いや、リリスも十分大きいと思うぞ。


 ──なんて思っていると、残るサロメ、ルカ、アイヴィの三人も続けてやって来た。


「みなさん、スタイルがよいですね。胸も大きいし……ぐぬぬ、あたしだっていずれは……」


 と、アイヴィがリリスたちを悔しげに見る。


 そんな彼女はセパレート型の水着を着ていた。

 さすがに十二、三歳くらいの年齢なので、リリスたちに比べればボディラインは未成熟だ。


 色香を漂わせるにはまだ早いものの、凹凸がほとんどないスタイルは年齢相応の可憐さがあった。


「大丈夫。アイヴィはまだ成長期だもの」


 ルカが淡々とした口調で慰める。


 こちらは濃紺のワンピース型をした水着である。

 学校の水泳の授業で、学校指定の水着がちょうどこんなデザインだったな、なんて思いだす。


「お姉さま、ありがとうございますっ。あ、お姉さまの小ぶりな胸の膨らみも、とっても素敵です。大きければいいというものではないですからね」


「……何気にちょっと失礼」


「あわわわ、すすすすすみません、お姉さまぁ」


 うーん、かしましい。


「アイヴィに悪気はないってば、ルカ」


 笑ってとりなすサロメ。


 そういう彼女は布地の面積がやたらと少ないビキニ姿だった。

 ぷるん、ぷるん、と豊かな胸が絶え間なく揺れている。


「私は別に怒ってないわ。胸が大きいと剣を振るのに邪魔だし、これくらいのサイズで十分」


「ハルトくんは巨乳好きみたいだよ」


「えっ……」


 ニヤリと笑ったサロメに、ルカの表情が固まる。


「あははは、やっぱり気にしてるじゃない」


「……ハルトが、巨乳好き……」


 ルカは、なんだかショックを受けたような顔だ。


「いや、えっと、大きくても小さくてもそれぞれによさがあると思うぞ。、みんな違って、みんないい」


 フォローを入れておいた。


「小さくても……いいの?」


「お、おう」


 ルカが妙に必死な目つきなので、俺は思わず気圧されてしまった。


「あはは、ごめんごめん。ルカをからかいすぎたね」


 サロメが苦笑交じりにとりなす。




 ──そんな雰囲気で俺たちの海水浴は始まった。


「ねえねえ、競争しない?」


 リリスに誘われ、俺たちは並んで泳ぎ始めた。


「水が冷たくて気持ちいいね」


「ああ、ちょうどいい日和でよかったよ」


 俺たちは笑いながら遊泳する。


 そういえば、海に来たのって随分久しぶりだな。

 子どものころの家族旅行以来か。


 気が付けば、夢中になって泳いでいた。

 遊泳というより競泳に近いスピードで。


 ……少し、夢中になりすぎたのかもしれない。


 勢いがつきすぎて、前方の人にぶつかってしまう。

 むにゅぅぅっ、と柔らかな感触が顔に当たった。


「ひぃ、ぁぁぁぁぁっ!?」


 可愛らしい悲鳴が響く。


「ご、ごめん」


 水面から顔を上げた俺は、慌てて謝り、そして気づく。


 ん? 今ぶつかったのって、もしかして──。


「ハ、ハ、ハルト・リーヴァっっっ!」


 顔を真っ赤にしたアイヴィと目が合った。

 たぶん俺がぶつかったのは、彼女のお尻だろう。


「なんて下劣なんですか、あなたはぁっ!」


「ハルト……胸よりお尻が好きなの……?」


 追いついてきたリリスが俺をじとっと見ている。


 いや、違うだろ。

 そうじゃなくって。


「お尻……あたしのお尻を狙っていたんですね! この『女体を狙う者(エロススナイパー)』め!」


「狙ってないぞ!? っていうか、妙な二つ名を付けるなよ!?」


「なんだ、意外とアイヴィとも仲いいんだね」


 と、リリス。


「よくありません!」


 アイヴィは即座に反発した。


「ハルトさん……思った以上に色々な女性に慕われてるみたいですね……やはりライバルが多いのかしら」


 近くで泳いでいたジネットさんがぽつりとつぶやく。


 ライバルってなんの話ですか?

 それと、少なくともアイヴィには慕われてなさそうなんですが……。


「ハーレム気分でしょ? 顔がにやけてるよ」


 サロメがにやにやと笑った。


「に、にやけてないぞ」


「じゃあエロスな気分でにやけてるのかな? やらしー」


「やはり今のは破廉恥な目的で、作為的にぶつかったのですね……っ!」


 アイヴィが怒る。


「ち、違う、だから誤解だってっ!」


 俺は悲鳴混じりの叫びを上げたのだった。

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