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第9章 守護者VS運命操作

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3 「これは神の遊戯」

「ハルト・リーヴァだ」


「なるほど、やはり君か──」


 名乗った俺を、エレクトラがジッと見つめた。


「……予知の通りだ」


 予知? なんのことだ?


「もっとよく見せてくれ」


 思ったのも束の間──エレクトラの顔が接近する。


 甘い吐息が触れて、体がぞわりと粟立った。


 リリスやアリスを見たときより、えらく顔が近いような。

 ほとんどキスされそうなくらいの距離感だ。


「ち、ちょっと、顔近すぎじゃないっ……」


 リリスが悲鳴のような声を上げる。


「静かにしてほしい。彼の運命は常人よりも混沌としている。読み取るのに集中が必要だ」


 意に介さない様子のエレクトラ。


 なおも彼女は俺をまっすぐに見つめる。


 ──どくんっ。


 胸の芯が熱く疼いた。

 なんだ、この感じは──。


「七つの光……六つの闇……竜の神殿……狂乱の戦士……ふむ」


 エレクトラが眉を寄せた。


「いくつもの運命が重なり合っている。思った以上に混沌としているね」


「運命が、重なる……?」


「未来とは不確定なものだ。些細なきっかけが、大きな運命のうねりを呼ぶこともある。君の運命がどう流転していくのか──その正確なところは、わたしにも読めない。まあ、平穏ではいられないだろう。これから君を待ち受けているのは、無数の困難だ」


 妙に楽しげなエレクトラ。

 あんまり笑い事じゃない気がするが。


「君の運命は加速を始めている。わたしに言えるのは『エリオスシティで待ち人来たる。乗り越える壁は多く、人との縁を大切にすること』くらいか」


 エリオスシティ──確かサーラ王国の都市だっけ。

 待ち人ってなんだろう。


「いや、これ以上はわたしにも見通せないな。君の未来に待っているのが希望なのか、暗雲なのか──」


 と、エレクトラ。


 まあ、占いは当たることもあれば、当たらないこともあるし──気に留めておく程度でいいかもしれない。


「あの、尋ね人の方もいいかな?」


 俺はエレクトラにそう切り出した。

 そもそも、こっちが本題だ。


「分かった。ではその人の特徴を教えてくれるかな?」


 俺たちはサロメとルカの情報を伝えた。


 それを聞いて、エレクトラがテーブルにタロットカードを並べ出す。

 人相見だけじゃなくカードを使った占いもするらしい。


「……ふむ。尋ね人は南にいるようだね。ただし今は会えない」


 と、エレクトラ。


「今は……会えない?」


「時期は二日後。水のイメージ……おそらく泉だろう。町の南には名物の噴水公園がある。そして月と雲──夜になってから会えるかもしれないな」


「明後日の夜に、町の南の噴水公園……か」


 俺はエレクトラの言葉を整理した。


 いちおう、それまでに聞きこみは続けるけど、手掛かりを見つけられなかったら、占い通りにその場所へ行ってみてもいいかもしれない。


「ありがとう、エレクトラ」


「いやこちらこそ。興味深い運命を見ることができた」


 エレクトラが嬉しそうに微笑む。


「占い師冥利に尽きるよ、ふふ」




 翌日も、俺たちは聞きこみを続けた。

 だけど、二人の行方はまったくつかめなかった。


 日中から夜まで聞きこみを続けつつ、俺は空いた時間にはスキルの訓練も行っていた。

 最近取り組んでいるものが、もう少しで身につきそうなのだ。


 聞きこみに訓練、とあわただしい時間を過ごし、そしてさらに翌日の夜──。

 結局手掛かりをつかめなかった俺たちは、エレクトラに教わった噴水公園へ向かった。


    ※


 ついに神のスキル保持者(ホルダー)に出会った──。


 暗い部屋の中で、エレクトラは感慨に耽る。


 ハルト・リーヴァ。

 護りの女神(イルファリア)の力を持つ者。


 予知で見た少年である。


「そう、あの予知の通りだ──」


 エレクトラは天井を見上げてつぶやき、一月ほど前の出来事を思い返した。




 ──その日も、エレクトラは占い師としての仕事を終え、酒場で一人飲んでいた。


 仕事の後にこの店で一杯引っかけるのが、彼女の楽しみである。

 店の雰囲気もよく、料理や酒も美味い。


 お気に入りの店なのだが、最近は常連客の一人に付きまとわれて辟易していた。


 遠回しに、あるいは直接的に交際を誘われた。

 そして、いずれもきっぱり断った。


 十八歳の美少女占い師として町で評判の彼女には、こうして付きまとわれる経験は何度もあった。

 だが、男はなかなかにしつこく、エレクトラを諦める気配がない。


 といっても、精霊召喚術の達人である彼女は、男に付け入る隙など与えない。

 指一本触れさせることさえないのだが──。


 その男は、今日も離れた席からチラチラと彼女を見ていた。


(まったく、しつこいな)


 エレクトラはため息をつく。


 と──。

 ぞくり、と背筋に嫌な予感が走った。


「っ……!?」


 突然、視界が切り替わった。


 奇妙な映像が浮かび上がる。

 場所は酒場。

 床に突っ伏したエレクトラを、男がニヤニヤと見下ろしている。


「ふん、腕利きの召喚士らしいから力じゃ敵わないが……薬を盛れば他愛もないな」


「う……ぐ……」


 うめいたまま立ち上がれない自分自身を見るのは、なんとも奇妙な気分だった。


(薬を盛られた……だと?)


 エレクトラがなびかないことに業を煮やして、実力行使に出たというわけだろうか。


 欲望にぎらついた視線が向けられていた。


 しかも男の側には、店のマスターが並んでいる。

 彼の口元にもにやけた笑みが浮かんでいた。


(なるほど、マスターもグルか)


 気分が悪くなった。


 この後、エレクトラを待っている運命は明らかだ。

 身動きの取れない彼女に対し、二人は存分に欲望を発散することだろう。


 こんな男たちの慰みものにされるくらいなら死んだ方がマシである。


(嫌だ、こんなのは……)




 ──ならば、変えればよいのです。あなたの運命を──




 突然、声が響く。


「君は──」


 三つの顔に六本の腕。

 三面六臂という異形の女性がたたずんでいた。


「ルーヴ、とお呼びください。運命を司る女神です」


 柔和な笑顔をたたえた女神が名乗る。


「女神さま……?」


「正確にはその意識の断片。そしてあなたの力の案内者(ナビゲーター)


 ルーヴが告げる。


「まさか、あのときの──」


 エレクトラは、彼女を知っていた。


 ……二週間ほど前、この町は魔獣に襲われた。

 そのときにエレクトラは一度死んだのだ。


 そして、出会った。

 真っ白な世界で、女神を名乗る異形と。


 そして、言われた。

 あなたを生き返らせ、力を授ける──と。


「夢じゃなかったんだな、あれは」


 つぶやくエレクトラ。


「あなたが先ほど目にしたのは、今から一時間後に起きる未来の出来事です」


 ルーヴが説明する。


「このままなら、あなたは男たちの慰み者になるしかない。純潔な体を汚され、欲望のはけ口にされるでしょう。ですが、あなたにはそれを変える力がある。運命を操作し、改変する力が」


「教えてくれ」


 身を乗り出したエレクトラに、女神は語った。


 力の、使い方を。


「なるほど。それがわたしに授けられたスキルというわけか」


 うなずくエレクトラ。


「だが、運命を変えることへの罰則はないのか?」


「ありません。あなたは、あなたの力を自由に使えばいいのです。自分のためでもよし。他人のためでもよし。欲望のためでもよし。正義のためでもよし。そして──悪のためでもよし」


「最後のは女神さまとは思えない台詞だね」


 思わず苦笑するエレクトラ。


「これは神の遊戯──私たちはただ観察するのみ。力の使い方は、あなたに一任されているのです。エレクトラ」


 では遠慮なく変えさせてもらうとしよう──。


 エレクトラは決意する。


 自らの運命を変えることを。


 運命を操作する力を使い、自分に敵対する者を排除することを。




 そして──一時間後。


 暗い店内で、エレクトラは床に突っ伏していた。


 店の中にいるのは、彼女をしつこく誘っていた常連客とマスター。

 そしてエレクトラだけだ。


「へへへ、いくら誘っても断られるなら、こうやってモノにしちまえばいいのよ」


「俺にも分け前をくれるんだろうな?」


 常連客とマスターが顔を見合わせて笑う。

 首尾よく、エレクトラを薬で眠らせ、これから『お楽しみ』に及ぼうというのだろう。


 どこまでもゲスな二人だった。


「もちろんだ。協力に感謝するぜ、マスター」


「……二人そろってゲスだな」


 エレクトラがゆっくりと起き上がる。


「お、お前、薬を盛ったはずが……」


「なぜ、バレたんだ……」


「バレていた? 違うな。知っていたんだ」


 エレクトラが口の端を吊り上げて、笑う。

 もちろん薬を警戒して、食事は食べたふりをしてこっそり捨てたし、酒も同様だ。


「わたしは運命を知る者。そして運命を変える者」


「な、何を……言って……」


「さあ、報いを受けろ」


 エレクトラの背後に淡い輝きが浮き上がる。

 異形の影が出現する──。


「ひ、ひいっ」


 常連客とマスターはそろって店から逃げ出した。


 だが彼らが『どこへ逃げるのか』も、エレクトラには見えていた。

 いや、知っていた。


「だから──これで終わりだ。君たちの運命は」


 数瞬後、路地裏から悲鳴が聞こえてきた。

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