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8 「運命の女神の鐘が鳴る」

 岩場にある露天風呂に二つの人影があった。


「ふう、極楽極楽~」


 サロメは一糸まとわぬ裸身を惜しげもなくさらし、湯船に胸元まで浸かる。

 湯の中で、豊かな胸の膨らみがたゆんと揺れた。


「ルカも入ったら? 気持ちいいよ」


「お邪魔するわ」


 律儀に断って、ルカが歩いてくる。


 しなやかな裸身は剣士らしく鍛えられ、引き締まっていた。

 小さめの乳房は同性のサロメから見ても、惚れ惚れするほど綺麗だ。


 ルカは、ちゃぽん、と音を立て、サロメの隣に入った。


「ね、気持ちいいでしょ?」


「温かい……ふぅ」


 ルカが小さく息をつく。


 ──サロメとルカは野生のモンスター退治の依頼を受けて、ここバーラシティにやって来た。


 アドニス王国とサーラ王国の国境沿いにある都市である。

 地と風の王神(アーダ・エル)を祭った温泉や豊富な山の幸が名物の観光都市だった。


 モンスターは二人の力で到着早々に退治を終え、今はその疲れを癒すために町の名物である露天風呂に入っているところだ。


「んー、また胸が大きくなったような気がする」


 サロメは自分の胸を両手で持ち上げる。

 南国の果実を思わせる大きな膨らみが、湯の浮力を受けて弾むように揺れた。。


「脂肪が増えたなら、鍛練で落としたほうがいいわ」


「し、脂肪って言わないでよ」


 ぷうっと頬を膨らませるサロメ。


「単におっぱい大きくなっただけだもん」


「そう」


 ルカは突然立ち上がった。

 両手で剣を握るような仕草をし、素振りを始める。


「……急にどしたの?」


「日課、だから」


「何も温泉に入っているときにしなくてもいいでしょ」


「決まった時間にやることにしているの」


 ルカはなおも素振りを続けた。


 さすがにその動きは鋭く、速い。


「相変わらず戦いとか剣にしか興味がないんだねー」


 苦笑するサロメ。


「剣が私のすべて」


 既定の回数を終えたらしく、ルカはふたたび湯の中に浸かった。


「もっと重く、力強い一撃を繰り出せるようになりたい」


「んー、ボクは美味しいもの食べたり、素敵な恋したり、美味しいもの食べたり、美味しいもの食べたりしたいかなー。やっぱり人生楽しまないとね」


「そう」


「え、それだけ!? 『なんで美味しいもの食べたり、って三回も言ったの!?』とかツッコんでよー」


「ツッコむ? よく分からない」


 ルカは無表情にサロメを見つめる。


「あーあ、ハルトくんだったらツッコんでくれるのにな」


「ハルト……」


 ルカの頬にわずかな赤みがさした。


 サロメはその変化に目ざとく気づく。


「……あれ、なんか反応が違う。もしかして、ハルトくんと何かあった?」




「お邪魔するよ」




 よく通る澄んだ声とともに、湯煙の向こうからスラリとしたシルエットが現れる。


 黒髪をショートボブにした十代後半くらいの少女だ。

 月灯りに照らされた顔立ちは、中性的な美しさを備えていた。


「少し、いいかな? 実は君たちを見て、面白い相だと思ってね」


「相?」


「わたしはエレクトラ・ラバーナ。占い師をしている」


 少女はそう名乗ると湯に入り、二人の側までやって来た。


「君たちの運命は実に興味深い。よければ占わせてほしいんだ」


「占い……?」


 キョトンとするサロメ。


「職業病みたいなものだね。わたしには人の背負う様々な運命の映像(ビジョン)が見えるんだ」


「へえ、面白そう。お代はいくら?」


「いや、これは仕事とは関係ない。わたしの個人的な興味だから無料だ」


 エレクトラがサロメとルカを見つめる。


「じゃあボクからお願いできるかなっ?」


 半ば好奇心からサロメは身を乗り出した。

 豊かな胸が揺れて、ちゃぷんと水面を揺らす。


「過去と現在はつながっている。誰も過去とのつながりを完全に切り離すことなどできない……」


 エレクトラがサロメを見据える。

 涼しげな瞳に妖しい光が浮かんだ。


「ふむ、二人の女性が見えるね。君の中には光と影が溶け合っている。それぞれに影響を与えたのが──あるいは生み出したのが、彼女たちだ」


「二人の女性……」


 サロメの表情から笑みが薄れた。


 脳裏に浮かんだのは、血の海で倒れる女性。

 闇夜に光るナイフ。

 そして助けを求める友の声──。


「黒髪の美女……東方の女性かな? そしてもう一人は金髪の……」


「……いや、もういいよ。ありがとう」


 サロメは硬い表情で首を振った。


 もしかしたらこの占い師は『本物』なのかもしれない。

 この国に来てからは誰にも話していない彼女の過去が、見えているというのか──。


「あまり触れられたくない話題みたいだね。失礼した」


 エレクトラは静かに告げ、ルカに視線を移した。


「では、次は君だ」


「ルカもハルトくんとの未来なんて占ってもらったりするのかな? ふふ」


 サロメは気持ちを切り替えるために、わざと明るく笑った。


「ハルトの……」


 ルカの頬がふたたび赤らむ。


「あ、なんか意識してる。もしかして──恋しちゃってる?」


「恋……」


 ルカが切なげな吐息をもらした。


「分からない。胸の中が温かくなって、安らいで、癒されて……」


「ときめいてるよね、絶対」


 言いつつも、サロメ自身も恋というものは、実のところ未経験だった。

 大胆な踊り子の衣装から、奔放な女性と見られることもあるが──。


「この気持ちが……恋?」


 ルカが熱っぽい口調でつぶやいた。


 そんな彼女を見て、ふと羨ましさを覚える。

 自分も彼女のような気持ちを抱く日が来るのだろうか。


 血塗られた日々を送ってきた、罪人である自分にも──。


「ふむ、君は──」


 と、エレクトラがルカをしげしげと見つめる。


「力を求め、強さを欲する。君に力を貸す二つの大きな力が見える。黄金の騎士と七つの頭を持つ竜……ふむ」


「騎士と竜……?」


「求める力のヒントはエリオスシティにある。興味があるなら行ってみるといい」


 エリオスシティ──ちょうど国境の向こうにある、サーラ王国の都市だ。


「……力を得られるなら、行く」


 ぱちゃり、と音を立てて、ルカが立ち上がった。


「ちょっと、ルカ」


「私はもう上がる。ギルドの依頼は済ませたし、しばらくその町に行ってみる」


「思い立ったら一直線なんだね」


 サロメは苦笑した。

 そんな彼女の一本気なところは、嫌いではない。


「いや、残念だが」


 エレクトラがその前に立ちはだかった。


「君がその町へ行くことはできない。わたしに、しばらく付き合ってもらう」


「えっ?」


「──運命の女神(マニューバ・フ)の鐘が鳴る(ォーチュンベル)


 声とともに。


 エレクトラの背後に淡く輝く何かが浮き上がった。




 ──数分後、エレクトラの足元に、サロメとルカが倒れていた。

 二人とも気絶している。


「君たちには餌になってもらうよ。彼をおびき寄せるための」


 エレクトラは美しい裸身を月明かりの下にさらし、微笑む。


 豊満な乳房の間に淡い輝きが浮かんでいた。

 三つの顔と六本の腕を持つ異形を象った紋様が。


「神の力を持つ者──選ばれた存在は一人でいい。運命の女神(ルーヴ)の力を持つ、このエレクトラ・ラバーナだけで」

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