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7 「すべての呪と虚無を統べる者」

 俺の前方に、青黒い獣のような姿の騎士がいた。


 ──どくんっ!


 その姿を見たとたん、全身の血が沸騰するような感覚が芽生える。


「この感じは──」


 獣騎士の全身に何かが淡く明滅していた。


 まさか、あれは──神の紋章か?


 俺がスキルを使う際に、天使の姿をした紋様が浮かぶように。

 前に俺と戦ったスキル持ち──グレゴリオの瞳に、炎のような紋様が浮かんでいたように。


 あいつの体にも、同じような紋様が浮かんでいるのだ。


 と、その獣騎士がこっちを向いた。

 俺たちを順々に見回し──その視線が、俺のところで止まる。


「っ……!」


 赤い眼光がすさまじいプレッシャーを放っていた。

 だけど、その眼光や禍々しい異形に、不思議と恐怖は感じなかった。


 獣騎士がこっちに近づいてくる。

 緊張が、心臓の鼓動が、さらに高まる。


 あいつは、やっぱり。

 俺と同じ力を持つ者──『同種』なのか。




 そのとき──世界が、震えた。




「なんだ……!?」


 俺は周囲を見回す。

 この感じは、まさか──。


「お、おい、あれを見ろ」


 冒険者の一人が空を指差した。


 そこには巨大な黒い穴がぽっかりと開いている。

 今日二度目の、『黒幻洞(サイレーガ)』。


 本来なら世界中のどこかに、月に数度くらいの割合でしか現れないものが、今日に限ってどうして……!?


 その穴から漆黒の稲妻が降り注いだ。


 稲妻は俺たちの前方で炸裂し、一つのシルエットが出現する。


 赤紫色をしたボロボロのフードとローブをまとった人影。

 異常なほど禍々しい雰囲気をまとった魔族だった。


「我が分身たる竜牙獣をすべて倒すとは……人間を少し侮りすぎていたのであるよ」


 無機質な声でつぶやく魔族。


「最後の柱まで壊されれば、我が『竜牙結界(バリアファング)』は崩壊する──このディアルヴァが直々に相手をしよう。光栄に思うのである」


 竜牙獣っていうのは、状況から考えて柱を守っていた魔獣だろう。


 奴の言葉から推測すると、すでに俺たちが倒した二体以外に、他の三体もすべて倒されている、ということか。

 そして、五本の柱のうちの四本までが壊れ──残るはここにある柱のみ。


 つまり──。

 後はあいつを倒して、最後の柱を壊せば作戦完了だ。


「新手ね! だけど、これだけの数の冒険者を相手に何ができるというの」


 アイヴィが強気に叫んだ。


「魔法使いは一斉攻撃を! 相手に攻撃の時間を与えず、殲滅よ!」


 その指示通り、リリスたち攻撃魔法の使い手が呪文を唱え始める。


「人間どもの魔法……我ら魔族の粗悪な模造呪文(コピー)であるか」


 ディアルヴァと名乗った魔族は平然と立ったまま。

 防御魔法を使う気配すらない。


「てーっ!」


 アイヴィの号令とともに、無数の閃光が飛んだ。


 炎、雷、水、風──各種の攻撃魔法が四方からディアルヴァに叩きこまれる。

 同時に、魔族の前方が一瞬、陽炎のように揺らぐ。


 爆光──はなかった。


「えっ……!?」


 呆けたような驚きの声は、誰が発したものか。


 爆発も、爆炎も、爆光も──何もなく。


 ディアルヴァは先ほどと変わらず、平然とその場に立っていた。


「そんな!? クラスSの魔族でも消滅するか、最低でも大ダメージは負うくらいの魔法連弾が……」


「なんて防御魔法なの……!」


 アイヴィとリリスがうめいた。


「今のは、まさか」


 無数の攻撃魔法が叩きこまれた瞬間、俺は見た。

 ディアルヴァの前方の空間が揺らぎ、すべての攻撃魔法を吸いこんでしまったところを。


 似たような術を、前にも見たことがあった。


「『空間食らい(Dイーター)』の眷属……!?」


 以前に戦ったクラスAの魔族のことを思い出す。


 その名の通り空間を操り、魔法を防ぎ、あるいは瞬間移動すら可能にする強力な魔族だ。


 Dイーターは空間を歪めて攻撃魔法を弾く、という防御術を使っていた。

 今のは、そのバリエーションじゃないだろうか。


「別の空間の中に、魔法を吸い取ったのか……!?」


「今のを感知したのであるか。さすがに護りの力を持つ者だけはある」


 ディアルヴァが俺を見た。


「ワタシが使ったのは歪曲空間の一種。キミの言う通り、攻撃魔法をすべて別空間へと送りこんで防御したのである。ただ、一つだけ訂正しておくなら──ワタシはキミたちがDイーターと呼ぶ魔族の眷属ではない」


 と、ディアルヴァ。

「Dイーターこそ我が眷属。もっとも下級の、な」


「じゃあ、お前は──」


「ワタシはすべての呪と虚無を統べる者。あらゆる呪術を極めし者」


 魔族は厳かに告げた。


「魔王陛下の腹心が一人──六魔将のディアルヴァである」


「六魔将……!?」


 その場の全員が息を飲んだ。


 つまり、こいつは──前に戦ったガイラスヴリムと同格の敵。


 クラスSどころじゃない。

 魔王を除けば、まさしく最強の魔族──。


護りの女神(イルファリア)、そして戦神(ヴィム・フォルス)の力を持つ者。魔王陛下の命により、二人そろって消えてもらう」


 ディアルヴァが俺を、そして獣騎士を順々に見た。

 たぶん、その言葉は不思議な雑音が混じり、他の冒険者たちには届いていない。


「まずは邪魔者から先に消す」


 と、フードから枯れ木のような腕が出た。

 リリスたちを指し示した指先に紫色の魔力光が宿った。


「──させるかっ!」


 俺は即座にスキルを展開した。

 俺を中心に虹色のドームが広がっていく。


「消えよ」


 ディアルヴァの指先に宿った魔力光が、輝く矢となって放たれ──。

 次の瞬間に消滅した。


「どうなっている……!?」


 魔将は訝しげに俺を見る。


「……なるほど、キミの仕業であるか。魔法の発動自体を無効化する力とは」


 見た感じでは、こいつはガイラスヴリムみたいな戦士型じゃなく魔法使いタイプだろう。


 俺が『不可侵領域(バリアフェイズ)』を張って、こいつの魔法を抑えこめば、有利に戦えるはずだ。


「だが、状況は変わらない、キミのスキルはあくまでも『発動』を抑えるもの──となれば、柱がすでに発動させた毒霧の魔法は止められない」


 と、ディアルヴァ。


「ガイラスヴリムとの戦いは見せてもらった。キミの力は効果時間に制限がある。王都の中に閉じこめ、毒で満たせば──逃げ場のないキミは、スキルが切れた瞬間に死ぬ」


「……そう、上手くはいかない」


 俺はひるまずに魔将を見据えた。


「ほう?」


「その前に柱を壊して毒霧を止める」


「それをさせないために、ワタシが来た」


 ディアルヴァが身構えた。


「魔法発動を無効化した程度で、このディアルヴァを封じられると思うな」


「封じてみせる」


 俺は魔将の一挙手一投足を注視した。


 奴はガイラスヴリムと同格の敵。

 並の魔族をはるかに超えた敵だ。


 油断するな。

 ほんのわずかな気の緩みも見せるな。


 そう、自分に言い聞かせて──。

気がつけば200万PV達成していました。ありがとうございます。

今後も地道に続けていきまっす(´・ω・`)ノ

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