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5 「そして、僕はすべての世界に君臨する」

 レヴィン・エクトールは、眼前の映像を静かに見つめていた。


 光り輝く七つのシルエット。

 それに対峙する、闇を溶かしこんだような黒い七つの影。


 天から降り注ぐ雷が山を砕く。

 巨大な光球が大地を穿つ。

 不可視の力が大海を割る。


 そこで展開されているのは、超常の戦いだった。

 人間の武力や魔法など比べ物にもならない──世界そのものを破壊してしまうほどの圧倒的な力と力のぶつかり合い。


(これが、神と魔の戦いか)


 夢でも、幻覚でもない。

 これは太古の昔、実際に起きたことなのだろう。


 さしずめ──神魔大戦とでも呼べばいいのだろうか。


 さらに竜の一群が戦いに加わり、戦況は三つ巴の様相を呈していく。


(すごい……っ!)


 血沸き肉躍る興奮に、レヴィンは打ち震えた。


(神や魔、竜の力とはこれほどまでにすさまじいのか)


 そして同じ力が自分の中に宿っていることに、言い知れぬ歓喜と興奮を覚える。


 と──そのときだった。


 突然、天空から無数の光が降り注ぐ。

 光は鎖の形となり、神を、魔を、竜を縛りつけた。


 そして──唐突に、映像が消失する。


「我が意識の断片を通じて、垣間見たようだな。かつての大戦の光景を」


 代わって現れたのは、竜の頭を持つ人間といったシルエットだった。


 主神とも至高神とも称される偉大な神、ガレーザ。

 レヴィンに『支配』の力を授けた神だ。


「他の神の力を持つ者と出会い、共鳴することでお前の力は増している」


「共鳴……か」


 強化のスキルを持つという、あの男のことを思い出す。


 味方になれという誘いを断り、名前すら名乗らなかった男。

 手に入れば、極上の手駒になるかと思ったが──。


「お前の望みはなんだ、人の子よ」


「僕は──」


 レヴィンはまっすぐに竜の姿をした神を見据える。


「世界に君臨すること。この世界の王になりたい」


「誰よりも上に、誰よりも高く──お前の心に、我が与えるスキルは呼応するだろう。『すべてを支配する』能力──まさしく王の力だ」


(僕にふさわしい力だね)


 レヴィンは内心でほくそ笑んだ。

 自らの王国を作る、という彼の夢が具現化したような力だ。


「覚えておくがいい。神の力を操る要は──『心』。お前の心の在り方一つで、スキルの強弱は大きく変化する」


 至高神の言葉を、彼は胸に刻んだ。




 ──そして、レヴィンの意識の世界から現実へと戻った。


「力が増している……か。では試してみようか」


 ふうっ、と息を吐き出す。


 彼の能力は『他者を支配する』ことだ。

 一度に支配できる人数はおおよそ千人といったところか。


「僕の心の在り方次第で……と言っていたな。つまり」


 もっと──解放していいわけだ。

 自らの野心を。


 制限を設ける必要などない。

 限界を定める必要などない。

 倫理に縛られる必要などない。

 罪を恐れる必要などない。


 ただ自らの心が望み、欲するままに。


「僕の望みは、僕だけの王国を作ること。すべてを従え、すべてを支配する──至高の王となる!」


 朗々と宣言する。




 ──どくんっ!




 胸の芯が激しく鼓動を打った。


 全身が熱く燃え上がるようだ。

 力が増していくのを感じる。


 それも桁違いに──。


 もしも、他のスキル保持者(ホルダー)たちに出会うことができれば、さらに力は増していくということだろうか。


 ならば、すべての保持者(ホルダー)と出会ったとき──彼の力は極大に達するかもしれない。


 すべてを支配する力。

 人を、世界を、そして──。


「いつか、神や魔を」


 レヴィンの瞳に、暗い炎が宿った。


「そして、僕はすべての世界に君臨する」




 一週間ほどが過ぎた。


「アーレンシティに関しては行政と軍を掌握済み。ゴッブシティもすでに七割がた支配下にあると見ていいか……」


 建物の一室で、椅子に座ったレヴィンが一人ごちる。


「ルディスシティはどうなっている?」


「はっ。レヴィン様にあらゆる便宜を図れるよう徹底済みです」


 足元に傅く女騎士が恭しくうなずいた。


 金色の髪を結いあげた、二十代前半くらいの知的美人だ。


 その額には淡い紋章が輝いている。

 対象がレヴィンの支配下にある証だった。


「さすがに手際がいいな。引き続き励め、ミランダ」


 彼女──ミランダはもっとも寵愛するしもべである。


 しばらく前に支配したアーレンシティで、そこに駐留する騎士団の一員である彼女と出会った。


 剣の腕も、頭の切れも申し分がない。

 夜になれば、お気に入りの伽役の一人としてレヴィンを楽しませてくれる。


「次はいかがいたしましょう、レヴィン様」


「戦力は充実してきた。だが、もう一手欲しい」


「もう一手……ですか」


「僕の『同種』を陣営に引き入れたい」


 神のスキルのことは、『同種』以外には口外できない。

 もしも誰かに話せば、体に激痛が走ることになる。


 だが支配の力を持つレヴィンは、対象の記憶を消去することも可能だ。

 信頼する者に対しては、こうして神のスキルのことを話し、意見を聞くこともあった。


「以前に『強化』のスキルを持つ人間に会ったが、あの男は駄目だ。見込みがない」


 レヴィンは嘲笑した。


「覇気がない。野心もない。あるのは平穏や安定を望む気持ちだけだろう。少なくとも僕の野心に賛同することはないだろうね」


 逆に野心さえ持てば、最高の戦力になり得る──そこは惜しいと思う。

 いちおう彼が心変わりすることも考慮し、仲間になるよう誘いはしたが。


「手駒として支配するのはどうでしょうか? 単純な戦力としてなら最上級では?」


 ミランダが進言した。


「いや、スキル保持者(ホルダー)に支配の力が通用するかどうか未知数だ。もしかしたら『同種』には通用しないという制限があるかもしれない。うかつには試せない」


 と、レヴィン。


「あるいは通用したとしても、効果を発揮するまでに、わずかでもタイムラグがあれば──超人的な運動能力を持つ彼に殺される危険もある」


 彼に関しては、ある程度調査を終えていた。


 名前はジャック・ジャーセ。

 年齢は四十三歳。

 王都最外層に本社を構える新興の運送会社に勤務し、社長や他の社員との仲は良好。


「しばらくは様子見でいい。いずれは戦力に加えるために『支配』を試みるかもしれないが──今は時期尚早だ。監視だけは怠るなよ」


「はっ。勤務先にレヴィン様の支配下にある者を送りこんであります」


「他のスキル保持者(ホルダー)の調査はどうだ。何か進展は?」


 彼の夢の同志になるにせよ、障壁となるにせよ──もっとも注視しなくてはならないのは『同種』である。


 ただの人間が相手なら──レヴィンとその軍団の前に敵はない。

 魔の者であっても同じだ。


 レヴィンはすべてを支配できるのだから。


 だが彼と同じく神の能力を持つ相手だけは、油断がならない。


 できれば、仲間にするのがベストだ。

 手駒として使えるなら、これほど心強い味方はいない。


 だが、敵対するならあらゆる手段を講じて排除する必要がある。


「レヴィン様の条件に合致した情報は二件です」


 と、ミランダ。


「一つはマイルズシティや王都で発生した連続殺人事件。犯人はすでに死亡しており、攻撃魔法を使用した犯行ということになっていますが、状況に不審な点がいくつもあります。あるいは魔法ではなくもっと『別種の力』による殺人という可能性も」


「『殺し』のスキル──のようなものかもしれないな。ただ犯人が死んでいるのは残念だ」


 それが神のスキルを持つ者なのか、どうか。

 そして死んだのが本人なのか、あるいは身代わりの囮なのか。


「いちおう、そちらの調査は続行してくれ」


「はっ。もう一つはバーラシティでの奇妙な噂です。『運命が見える』という占い師の少女が──」


「そっちは初耳だ。詳細を聞かせてくれ」


「では、お耳を──」


 ミランダからその内容を聞く。


「……なるほど、面白い」


 レヴィンは口の端を大きく吊り上げて笑った。


「引き続き調査を進めろ──」

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