3 「まるでランクS以上の」
現在、王都最外層の五カ所に出現した柱から、あらゆるものを腐食させる毒霧が噴出されている──。
その霧は最外層から中心部に向かってゆっくりと広がっていた。
王国の魔法戦団に所属する魔法使いたちが総がかりで防御結界を張り、それを食い止めている状況である。
だが結界は徐々に腐食されており、もって三時間程度。
それを過ぎれば、毒霧は王都の内部に流れこむだろう。
しかも、王都全域を覆うほどの結界を張ることは難しく、おおむね第三層までが結界によって毒霧から守られている。
それより外層の住人には内部への避難が呼びかけられていた。
毒の霧の進行速度はそれほど速くないものの、すでに最外層──第五層は大半が侵食されてしまったらしい。
少なくない死者が出ているという報告もある。
タイムリミットは長くても三時間。
それまでに柱を全部壊さなければならない──。
危機的な状況の中、俺たちA班は柱の一つに向かっていた。
第三層の端まで到着したところで、毒霧の侵入を防いでいる結界が途切れる。
同時に、俺たちの周囲を別の防御結界の光が覆った。
アリスと他に二人の魔法使いが共同で防御魔法を使い、部隊全員をすっぽり覆うような結界を作ったのだ。
これも毒霧によって徐々に腐食されていくが、おそらく一時間から二時間程度は持つだろうということだ。
ちなみに、俺の護りの障壁は効果範囲が狭いため、部隊の全員をカバーすることはできない。
その結界に入ったまま、俺たちはさらに進んだ。
やがて、最外層にある柱の近くまで到着した。
「あいつが柱を守る魔獣……いや、竜か?」
柱の前にいるのは、体長十メティルほどの魔獣だった。
白い骨だけで構成された竜、といったフォルムをしている。
すでに住民の避難は終わっていて、緑色の毒霧が充満した町にはひと気がまったくなかった。
ぐるる、とうなり声をあげて、骨の竜が俺たちを見る。
その口が大きく開いた。
口中にまばゆい光が収束する。
「──来ます。全員、備えて!」
アイヴィが警告した。
魔獣が大きく口を開き、青白い光弾を吐き出した。
竜の代名詞とも呼べる攻撃、竜滅砲。
「ちいっ、全員で結界を──」
「下がって」
他のメンバーを制して、俺は右手を突き出した。
そこから飛び出した虹色の光球が、光弾を迎撃する。
翼を広げた天使の紋様が、中空に浮かび上がった。
すべてを跳ね除ける神の防壁──護りの障壁。
青白い光弾はまっすぐに跳ね返され、魔獣を直撃した。
爆光とともに胴体部の骨が砕け、白い巨躯がのけぞる。
「ブレスを弾き返した!? あんなにあっさりと──」
「な、何者だ、あいつ……!?」
リリスやアリス、アイヴィを除くメンバーが驚きの声を上げた。
魔獣は怒りの声を上げて、なおもブレスを撃ってくる。
今度は三発。
だけど、無駄だ。
──形態変化。
──反響万華鏡。
俺は前方に飛ばしたスキル形態を瞬時に切り替える。
一発目のブレスを分散して反射。
跳ね返したそいつで残りの二発をビリヤードのように弾き、迎撃した。
さらに──、
「今からあいつのブレスを封じる。その間に全員で攻撃を」
俺はアイヴィの方を振り返った。
「行けるか、アイヴィ?」
「ブレス自体を……封じる?」
──形態変化。
──虚空への封印。
虹色の光球が前方へ進んでいき、魔獣の口元を覆った。
こいつは『破壊エネルギーそのものを無効化する』スキルだ。
ガアッ!? と魔獣が戸惑いの声を上げた。
このスキルで口元を覆っているかぎり、奴はブレスを撃てない。
正確には、撃った端から無効化される。
「攻撃が……止まった!?」
驚くアイヴィ。
「撃て」
「そ、総員、魔獣に攻撃を!」
俺の指示に、慌てたようにアイヴィが叫んだ。
「雷襲弾!」
「紅蓮球!」
「風王撃!」
リリスや他の冒険者たちの攻撃魔法が、矢や投槍などの飛び道具が、そしてアイヴィの炎を発する鞭が、次々と魔獣に叩きこまれた。
マジックミサイルがあれば簡単に倒せるかもしれないが、あれは魔将ガイラスヴリムとの戦いで王都支部の備蓄分を使い切ってしまったそうだ。
けれど、これだけ攻撃を集中すれば──。
爆光と爆炎が、連続して弾けた。
苦痛の声を上げて後退する魔獣。
巨体をひねり、尾の攻撃に切り替えてきたが、それも俺が防御スキルの位置を移動させて弾く。
同時に、アイヴィが、リリスが、冒険者たちが第二波攻撃を放ち、さらに魔獣にダメージを与えた。
苦しまぎれにブレスを放とうとしても、俺がふたたび移動させ、展開した虚空への封印で無効化する。
「撃たせない。ブレスも、肉弾攻撃も。何一つ」
俺は冷然と告げた。
「相手の攻撃は全部俺が止める。攻撃の指示は任せる、アイヴィ」
「ハルト・リーヴァ、あなたの力はこれほどの──」
アイヴィが呆然とうめく。
「まるでランクS以上の……」
「俺のスキル──いや、防御魔法には時間制限がある。急げ」
「は、はい……攻撃は任せてください」
うなずくアイヴィ。
普段からこれくらい素直なら助かるんだけど、なんて思ってしまった。
 








