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5 「ケタ違いの敵だからこそ」

 ルカたちが出発した翌日の朝──。


「大丈夫かな、みんな」


 俺はリリスやアリスと一緒に、宿の一階にある食堂で朝食を取っていた。


 ギルドの入会審査の結果は保留のままだ。

 結果が出るまで、俺は引き続き宿で過ごしていた。


 リリスやアリスも、防衛線が突破されて魔族が王都に侵入してきたときのことを考え、ここで待機している。

 もちろん俺も、万が一のときには戦うつもりだった。


 本当はルカたちについて行きたい気持ちもあったんだけど──。


 ギルドの方できっちりと作戦を立てて、それに合ったメンバーを選抜してるはずだし、まだ冒険者にすらなっていない俺が口出しするわけにもいかない。


 信じて、待つしかないんだよな。


「魔族の進行速度から考えて、交戦は今日の昼ごろね」


 と、リリスがため息をついた。


 ただ待つだけっていうのも、これはこれでつらい。


 ルカやサロメたちが強いのは分かってるけど、相手の魔族もめちゃくちゃ強いって話だ。

 やっぱり心配だった。


「私たちには祈ることしかできません……」


 アリスが悲しげにつぶやく。


「歯がゆいね」


 リリスが悔しそうな顔で唇を噛みしめた。


「本当は行きたいのか、リリスもアリスも」


「……それは、あたしだって」


 俺の言葉にリリスが何かを言いかけたそのときだった。


「では、今からでも魔族討伐作戦に参加されてはいかがですか、お嬢様」


 突然の声に、俺たちはハッと振り返る。

 食堂の入り口に、黒いタキシード姿の老紳士が立っていた。


「ゴードン……!」


 リリスの表情が険しくなった。


「私たちの実家の──ラフィール伯爵家の執事を務める方です」


 アリスが俺に教えてくれた。


「ここの宿にいると伺いましてね」


 老紳士──ゴードンさんが俺たちの席までやって来る。


「今のはどういう意味なの、ゴードン?」


 リリスは固い表情のままたずねた。


「言葉通りの意味でございます、リリス様。伯爵より言伝です。『今作戦は国家の存亡をかけた戦い。伯爵家の一員としてこれに加わることは当然。したがって、魔族迎撃戦線に急ぎ合流するように』──以上です」


「合流って……」


「私たちはランクBですから作戦の参加資格はないんです、ゴードンさん」


 と、アリス。


「規則ではそうですが、今は緊急事態です。より柔軟な対応が求められますゆえ──昨日のうちに、伯爵よりギルドの上層部には話を通したとのことでございます」


 老執事は微笑み混じりにうなずいた。


「お父様が話を通した……?」


「ギルドの許可はすでに下りております。クアドラ峡谷での魔族迎撃作戦に、リリスお嬢様とアリスお嬢様は特別に参加資格を得ました」


 ゴードンさんは満面の笑顔だ。


 ……けど、目が笑っていない。

 二人への視線がやけに冷たいのが気になった。


「伯爵より魔導増幅弾(マジックミサイル)三発を預かってまいりました。どうかお受け取りください」


 と、矢じりに似た銀色のパーツを三つ差し出すゴードンさん。


 マジックミサイル──確か魔法の威力を大幅にアップさせる道具で、以前に竜と戦ったときにもリリスたちが使ってたっけ。


「マジックミサイル三発とは大盤振る舞いね。これだけでお父様の領地の三分の一くらいは買えるんじゃない?」


「国家存亡を賭けた戦いですので。出し惜しみする理由はない、と」


 目を丸くしたリリスにゴードンさんは恭しくうなずいた。


「さあ、どうなさいますか。これを受け取り、戦いに赴きますか? それとも強敵との戦いは避け、安全な場所で待ちますか」


「そんな言い方はないでしょう」


 俺はムッとなって立ち上がった。


「別にリリスたちは逃げてるわけじゃない。ギルドの規則通りに──」


「もちろん、お断りいただいても一向に構いません」


 ゴードンさんは微笑みを絶やさず──とはいえ、相変わらず目は笑ってないんだけど──続ける。


「むしろ普通の人間なら断るでしょう。あまりにも危険が大きすぎますからね。ですが伯爵は、お嬢様たちの性格上、必ずこの話を──」


「許可が出たなら、あたしは行く。やっぱり、このままジッとしていられないよ」


「リリスちゃん……」


 アリスは悲しげに顔を伏せた。


「分かっているのでしょう? お父様はきっと私たちを利用しようと……」


「でしょうね。あたしたちがこの戦いで死んだら『我が娘は救国のために命を捧げた』なんて美談にでも仕立てるつもりでしょ。いかにもお父様が考えそうなことだもの」


 ……リリスたちの家庭の事情は詳しく分からないけど、やっぱり上手く行っていない感じなんだな。


「でも、お父様や外野の思惑なんて関係ない。王都が落とされたら、アドニス全体の危機じゃない。あたしはルカやサロメみたいに強くない。でも、マジックミサイルもあるし、あたしにも援護射撃くらいはできるはず」


「力になりたいのは、私も同じです」


 アリスは小さくため息をついた。

 普段はおとなしい彼女の表情が、今は凛とした意志をみなぎらせている。


「リリスちゃんが行くなら、私も行きます」


「なら──俺も行く」


 進み出る俺。


 リリスたちを見ていて、自分がどうしたいのかに気づいた。

 今さら──気づかされた。


 最初からこうすべきだったのかもしれない。


 かつて俺の町を救ってくれた彼女たちのように──。

 俺も、守りたいもののために動く。


 戦う──!


「二人だけを危険な目に遭わせるのは嫌だからな」


「ハルト、でも──」


「平気平気」


 雰囲気が暗くならないように、俺はわざと気楽に言った。


 自分のスキルに対する自信が深まっているのもある。

 実戦をいくつか重ねて、バリエーションも増えている。


 何とかなりそうな気がするんだ。

 ……根拠はあんまりないけど。


「それに王国自体が滅ぼされちゃったら、シャレにならないだろ。戦うしかない。戦って守るしかないんだ」


 俺は力強く告げた。


「でも、ハルトさん」


 アリスが心配そうな顔で俺を見つめた。


「相手は、たぶん竜以上の敵です。いくらハルトさんの防御魔法がすごくても──」


「いや、ケタ違いの敵だからこそ──俺が行く意味があると思う。攻撃力だって竜以上の可能性が高いだろ。だったらそれを防ぐ『盾役』が必要じゃないか?」


 俺はにやりと笑ってみせた。


「確かに敵の攻撃を確実に防げる人員が増えれば、後衛はより強力な魔法を詠唱できるし……ドクラティオさんにハルトが加われば、戦いを優位に進められるかもしれない」


「リリスちゃん……」


「あたしは竜やDイーターとの戦いで見せたハルトの力を信じる」


 ありがとう、リリス。


「……分かりました。リリスちゃんがそう言うなら、私も信じます」


 アリスが同調する。


「ってことで、特例ついでに俺も行ってもいいだろ? あ、俺が規則を無視して勝手について行ったってことにしてもいいから」


「……では、そのように伯爵にご報告いたします。お嬢様がお望みということでしたら、ギルドにも話を通してもらうように伝えましょう」


 意外にあっさりとゴードンさんは了承してくれた。


「あたしたちが『やっぱり行かない』なんてへそを曲げないように便宜を図ってくれるわけね」


 リリスがゴードンさんを軽くにらんだ。


「わたくしはただお嬢様のご意志を尊重したいだけでございますゆえ」


 ゴードンさんは一礼すると、俺を見据えた。


「ハルト様……と仰いましたか。どうかお嬢様たちをよろしくお願いいたします」


 慇懃に告げて、老執事は去っていく。




 ──三十分後、俺たちは装備を整え、出発した。


 決戦の場所、クアドラ峡谷へ。

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