5 「守ってくれ」
「なんだ、あれは──」
A級冒険者ダルトンが空を見上げた。
先ほどから、空一面に神秘的な虹色の光が満ちている。
そこに何かの映像が浮かんでいた。
「ハルトくんたちが……戦っている……!」
つぶやいたのはS級冒険者のアリィだ。
そう、あれはハルト・リーヴァやその仲間の冒険者たちだ。
成層圏に届くほどの巨大な怪物と戦っているようだった。
裁定者と名乗ったその巨人は、世界を作りかえると言っていた。
創世──あまりにもスケールの大きな行為だが、それが真実だと全員が直感的に理解していた。
いや、あるいは巨人の力によって、理解させられたのかもしれない。
そして、思った。
奴は──『世界の敵』だと。
「お姉さま……負けないで」
A級冒険者アイヴィがルカに声援を送る。
いや、声援を送っているのは彼女だけではない。
『がんばれ』『負けるな』と。
その場にいる全員が、ハルトたちの戦いを見守り、応援していた。
もちろん、ダルトンもだ。
「がんばってくれ、ハルト……みんな……!」
たとえ裁定者の理屈がどうあれ、あの巨人は世界を壊す。
自分たちの世界を、大切なものすべてを。
全部壊して、なくしてしまう。
だから──守ってほしい。
人知を超えた力を持つ裁定者に立ち向かう、彼らに。
自分たちにできるのは、おそらく応援することだけだろうから。
「何か月か前に冒険者試験に来たひよっこが、こんなすごい戦いをしているとはな……はは」
ダルトンは小さく笑った。
「世界を守ってくれ、ハルト……!」
声援を送る。
あるいは、世界中の冒険者が今この瞬間、彼らの戦いにエールを送っているのかもしれない。
世界の命運を懸けて戦っているかもしれない、若き冒険者五人に──。
※
「神も魔王も消えた後に、あんなものが現れるとは」
ラフィール伯爵がため息をついた。
裁定者と名乗った巨人と、ハルトたちの戦いは、彼とギルド長のテオドラも見守っていた。
誤算だった。
いや、想像もしていなかった。
神と魔王さえ消えれば、後は人間が世界のすべてを牛耳る。
その頂点に立つのは自分たちだと信じていた。
だが事態は、まるで違う方向に流れている。
「我らの計画は──おそらく世界中に明かされてしまいましたな」
「簡単には、いかないようね」
テオドラがふんと鼻を鳴らす。
ギルドから弾劾されてもおかしくはない。
いや、世界を危機に陥れた重罪人として糾弾されるかもしれない。
それでも、彼女は揺らいでいない。
彼女と、そして自分が目指す覇道は、簡単には途切れさせない。
そんな強い意志を感じるし、ラフィール自身も抱いていた。
「巻き返しのチャンスはまだあります」
告げるラフィール。
自身に言い聞かせるように。
「ただ、ここはいったん退くべきでしょうな。再起のときのために」
「ハルト・リーヴァ、か。結局は、あの冒険者の存在からすべてが崩れてしまったのかもしれないねぇ」
「このまま裁定者とやらを封じれば、彼は世界を救った英雄ですな」
ラフィールは皮肉げに口元を歪めた。
「ギルド長、こちらにおられますか? お話を伺いたいのですが!」
ドアが乱暴にノックされた。
裁定者の言葉を聞いた、冒険者ギルド関係者だろうか。
早くもここにやって来るとは──。
ラフィールはテオドラと顔を見合わせた。
「計画はここまで。また、新たな計画を始動する日まで──」
「だねぇ」
互いに、苦笑交じりに肩をすくめる。
ラフィールは、自分たちの野望をあっさりと潰してしまった少年を──その映像を見据えた。
そういえば、彼の娘たちはハルトに執心のようだった。
(我が娘たちは、男を見る目があったのかもしれんな。ごく普通の少年のように見えて──その実、末は英雄になるような人材だったのだから)
柄にもなく、そんなことを考えた。
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