3 「成長させてきたんだ」
リリス、アリス、ルカ、サロメ──四人の少女が三種の攻撃を同時に放つ。
それらは別々の方向から虹色の巨人へと向かっていく。
「我はすべてを『管理』する。あらゆる変化を『無効』とする」
裁定者が謳うように唱えた。
そのとたん、リリスとアリスの放った人魔融合魔法が、跡形もなく消え去った。
「そんな!?」
「私たちの魔法が──」
続いて、ルカの放った最大必殺剣が──その光が消滅した。
「私の斬撃まで……!」
さらに隠密歩法で接近したサロメが、気配の隠ぺいを解かれて、姿を現す。
「嘘、気配を殺したのに無効化された……!」
四人の少女の呆然とした声が、響く。
リリスたちは、強い。
冥天門で再生された魔将クラスを退けられるほどに。
だが、その彼女たちをもってしても、裁定者に一撃を届かせることさえできない。
こいつは、無敵なのか。
この世の事象のすべてを管理し、この世の理そのものだという奴に──。
抗する手段は、何一つないのか。
「さあ、諦めろ」
「まだだ──」
俺はそれでも虹の巨人をまっすぐに見据えた。
神のスキルは、人の心によって強くなる。
最後まで心を折ってたまるか。
探すんだ。
失われた俺のスキルを、もう一度発現させる方法を。
どんなに絶望的な確率でも。
「俺は、最後まで諦めない!」
「それが無駄だというのだ。もはやお前に神の力は宿っていない。いかに精神を奮い立たせようと、力そのものが消失している今、なんの意味もない」
冷然と告げる裁定者。
「それでも、俺は──」
「じゃあ、力を戻せばいいんだね」
声が、響いた。
「お前は……」
振り返った俺の視界に飛びこんできたのは、一人の少女の姿。
三つ編みにした黒髪に、僧侶のローブ姿。
『修復』のスキル保持者──セフィリアがそこに立っていた。
「とりあえずハルトくんと……イオちゃんだっけ? 二人の『力』を元に戻すね~」
セフィリアはあっけらかんと笑い、右手をかざした。
俺とイオから黄金の輝きが──スキルの光が湧き上がる。
「戻った……!」
感じる。
体の中から、温かな光が吹き上がるのを。
女神さまに授かり、託された俺の力。
みんなを護るための、力だ。
「あたしが『リセットされた時間軸』を元通りに修復したよ。そっちの魔族さんも、いちおうね」
「セフィリア」
俺は驚いて彼女を見つめる。
「どうして、ここに……?」
氷の棺に閉じこめたはずだ。
どうやって脱出したのかも分からないし、ここに来た意味も分からない。
「こんな楽しそうなゲーム、あたしも混ぜてよね」
ふふん、を笑うセフィリア。
こいつ人を殺すことすらゲーム感覚という危ない女だ。
だけど今は──今、このときだけは。
本当に、頼もしい。
「我に敵対するか」
裁定者がうなった。
「ならば、汝の力も取り上げるのみ」
「無駄だよ~」
裁定者が放った虹の光は、虚空に解け消えた。
「あたしの時間軸をリセットしても、その前に『修復』しちゃうから」
「なぜだ……すべては我が与えた力。汝らは我の手の中で生きる存在──」
裁定者の声に、初めて動揺の色が混じる。
「なぜ、その力で我に対抗できる……? 我の『管理』すら無効化し、我の攻撃をも防ぐ──なぜだ!?」
「力の根源がお前でも──俺たちはそれを成長させてきたんだ。もう『お前の力』とは違っている、ってことだろう」
「わたしの力は、わたし自身のもの。その意志も──」
俺とイオが言い放つ。
「ゲームマスターだからって、プレイヤーに必ず勝てるとはかぎらない、ってことじゃない?」
ふふん、を鼻を鳴らすセフィリア。
危険人物ではあるが──今は彼女が味方であることが頼もしかった。








