1 「ふたたび、完全な秩序と調和が保たれた世界へと」
最終章です。もう少しだけ、このお話にお付き合いいただけましたら幸いですm(_ _)m
「裁定の刻を、始めるとしよう」
突然現れた虹色の巨人は、厳かな声で告げた。
「まさか、こいつが女神さまの言っていた──」
俺はうめいた。
裁定者──。
世界を、管理する者。
そう、神や魔、竜のような超越者さえも──裁定者に管理される存在にすぎない。
いわば、世界の理そのもの。
超越者のさらに上に立つ、真の絶対者。
それが裁定者なのだと──。
「なんて、大きさだ……」
息を飲む。
巨大な体は雲を突き抜け、おそらくは成層圏まで届いているだろう。
威圧感というにも生ぬるい、神々しい威容。
「神も魔も、力ある存在のほとんどが消失した。世界のバランスは著しく壊れてしまった。すべては人間の傲慢で狡猾な行動ゆえに」
裁定者が告げる。
「ゆえに、我はこの世界をやり直す。ふたたび、完全な秩序と調和が保たれた世界へと作り変える」
嫌な、予感がした。
まさかこいつが言う『裁定の刻』っていうのは──。
「すべてを一度破壊し、その上で再生する。今度こそ調和の保たれた世界へと、我は導いてみせよう」
巨人が右手をかざした。
そこに集まる七色の輝き。
あれは、駄目だ。
本能的に悟った。
あれを撃たせちゃいけない──。
世界を作りかえる、などというスケールの大きすぎる言葉が、ハッタリでもなんでもなく、まぎれもない真実だと直感する。
「だから──あれは、俺が防ぐ!」
俺の意志の高まりに呼応するように、黄金の結界がさらにその輝きを増した。
この国や、近隣の数か国まで覆うほどの範囲に『封絶の世界』が広がっていく。
「無駄だ。我が力はこの世界すべてに作用する。たかが国を一つ二つ守ろうとも──むっ!?」
「それなら、世界そのものを結界で覆えばいいわけだ」
凛と告げたのは、オッドアイの美少女だった。
「冥天門、開錠起動」
同時に、彼女の展開した黄金の門が輝き、俺が作り出した『封絶の世界』がさらに広がっていく。
地平線のはるかかなたまで──そう、おそらく『絶対にダメージ受けないスキル』は世界すべてを覆っている。
「お前──」
「奴のことは、すでに父上から──先代の魔王様から聞いている」
と、イオ。
「世界が壊されては、元も子もない。ここは共闘でいいな?」
「魔族と──いや、魔王と手を組むわけか」
思わずつぶやく俺。
イオは俺を軽くにらみ、
「我慢しろ。わたしだって気は進まない」
「いや、みんなを救う力を貸してくれたことには礼を言う」
「……わたしもだ。魔界のみんなを護りたい」
なら、ここは。
「異存はないよ、魔王イオ」
「では、ともに──奴を食い止めよう、ハルト」
俺たちはうなずきあい、虹色の巨人を見上げた。
「……人間よ、そして魔族よ。一体どういうつもりだ」
裁定者がうめく。
「世界の管理者たる我に刃向うとは」
「こっちの台詞だ」
告げた俺の言葉は震えていた。
いや、全身の震えが止まらなかった。
こいつは、違う。
神や魔王、あるいは古竜と比べても──圧倒的に、何かが違う。
存在そのものが、違う。
どんな奴が相手でも、ダメージを受ける気がしない絶対防御のスキルでさえも。
こいつを前にすると、不安が込み上げる。
「我はすべてを総べる存在。すべてを『管理』する存在。最上位の神や魔に由来する汝らの能力も、我には通じん」
裁定者が告げた。
勝ち誇るわけでもなく。
見下すわけでもなく。
ただ淡々と事実だけを告げた──そんな感じの口調だ。
だけど、
「今さら──相手が誰だろうと、ひるんでたまるか」
「世界の再構築などさせない。この世界は我ら魔族のもの」
「いや、魔族の世界は魔界だけだろ」
「う、うるさい。今のはわたしの、魔王としての矜持だ」
「そういうのは今いいから」
思わずイオと言い合いになってしまった。
こんなときだというのに、拗ねたように頬を膨らませるイオがちょっと可愛らしいなどと思ってしまう。
「ちょっとハルト」
リリスがジト目で俺をにらんだ。
「この土壇場でいちゃつかないでよ、もうっ」
「ほら、見ろ。お前の恋人に嫉妬されたぞ」
と、イオ。
「い、いやいやいや、リリスは別に恋人っていうか、その──」
「ハールートー?」
リリスがすごいジト目になった。
いかん、決戦っていう雰囲気じゃない。
「と、とにかく、今は戦いに集中だ!」
俺は半ば自分自身に言い聞かせるように叫んだ。
「いくぞ──世界の運命を懸けて!」








