8 「大いなる志を」
「女神……さま……」
俺は強烈な喪失感に襲われながら、つぶやいた。
女神イルファリアの姿は、もうどこにもない。
消えてしまった。
「護れ、なかった……」
うめく。
その瞬間──。
どくん、と心臓が波を打った。
俺の体から淡い金の輝きが立ち上る。
「えっ……!?」
ここにいますよ、と。
女神さまが訴えかけている気がした。
──そうだ、女神さまは消えてしまったけれど。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「まだ戦いは終わっていないんだ……」
あの方が遺してくれた力は、俺の中にずっと──これからも生き続ける。
だから、前を向かなきゃ。
俺は、俺が護りたい人たちを──護らなきゃ!
「父上……!」
切なげなつぶやきが聞こえて、振り返った。
オッドアイの少女が目に涙を浮かべ、空を見上げている。
六魔将にして魔王の娘、イオだ。
消えてしまった魔王を──父を偲んでいるのか。
高位魔族である彼女が、神と接近して消滅しなかったのはなぜなんだろう?
「魔界の未来のために、父上は──魔王様は、わたしに力を託した。そして大いなる志を」
イオが朗々と告げた。
彼女の側で『冥天門』がふたたび黄金の輝きを放った。
同時に、無数の魔の者が周囲に現れる。
こいつ、一体どれだけの軍勢を召喚できるんだ……!?
「聞け、魔の者たちよ! 先代魔王は消えた。神とともに相打ちになったのだ。だがその意志は、娘であるわたしに受け継がれている。今ここで宣言しよう。このイオこそが、次なる魔王であると!」
告げて、俺たちの方を振り向くイオ。
金と銀のオッドアイが妖しくきらめいた。
「さあ、続きを始めようか。わたしが──この魔王イオが人の世界を滅ぼし、ここを第二の魔界としよう」
「──魔族は、おとなしく魔界に帰れ」
俺は魔王少女を見据えた。
「わたしは魔王の志を受け継ぎし者。それを果たすために、戦う」
「志を継いだのはお前だけじゃない。俺だって──女神さまから託された。大いなる志を」
と、
「ハルト、あたしも戦う」
「私も」
「もちろんボクだって」
リリスが、ルカが、サロメが俺の側に並んだ。
「相手の数は多い。だけど俺が全員守ってみせる」
「あなたに護りの力があるなら、わたしには『加護』の力がある」
イオが告げる。
「加護……?」
「すべての魔の者を──たとえ一度死したる者でさえ生き返らせ、その力を限界を超えて引き出し、大いなる加護を与える──それが『冥天門』の力。よみがえった六魔将と戦ったあなたたちは、すでにその力を実感しているはず」
さしずめ、『蘇生』と『限界突破』の複合スキルってところか。
「当然、わたしが召喚した魔の軍団も全員が限界を超えた強さを引き出されている。しかも、魔界からいくらでも召喚できる──無限に現れる軍団を相手に、いかに無敵の防御といえども、どこまで持ちこたえられる?」
「お前が無限に召喚するなら、俺は無限に防ぎ続けるだけだ」
「なら──試してやる!」
次から次へと押し寄せる魔族や魔獣たち。
それをリリスの魔法が、
ルカの斬撃が、
サロメの暗殺術が、
次々と屠っていく。
そして奴らの攻撃は、俺のスキルがすべて完封する。
戦いは、俺たちが完全に押していた。
こちらが一方的に攻撃し、相手の攻撃はまったく通らないのだから当然だ。
「さすがに、簡単には崩せないか」
『魔王』イオがうめく。
俺はあらためて戦況を見つめた。
今のところは完封できているとはいえ、イオの冥天門の力はやはり警戒が必要だ。
前の魔王との戦いの際も、俺のスキル効果が冥天門の付近にだけ届いていなかった。
それは、なぜなのか。
俺はイオを、周囲を、注意深く観察し続ける。
周囲には未だ神と魔の力が残留しているのか、白と黒に染まった世界が広がっていた。
それを照らす黄金の輝きは、俺の『封絶の世界』とイオの『冥天門』が発するものだ。
──突然、それらを吹き飛ばすように、天から虹色の輝きが降ってきた──。
「えっ……!?」
「これは──!」
俺とイオが同時に叫んだ。
降りてきた虹色の光は、ゆっくりと一つの形を作り出す。
成層圏にまで届くような、巨人の姿を。
神々しくもあり、同時に禍々しくもある。
そんな異様な印象があった。
同時に、世界そのものが激しく震動する。
揺らいでいる。
「ここにいたか。世界のバランスを崩す者たちよ」
声が、響く。
こいつは……!?
まさか、こいつが女神さまの言っていた──。
「裁定の刻を、始めるとしよう」
虹色の巨人が静かにつぶやいた。
次回から第22章「明日へと続く道」になります。
この章とエピローグで本作は完結予定です。
11月下旬~12月上旬更新予定です。
少し間が空きますが、気長にお待ちいただけましたら幸いですm(_ _)m
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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