6 「専売特許ではない」
激突する、青と金──。
リヴァイアサンが放つ津波のごとき水流は、俺が展開している黄金の空間によって跳ね返され、町の外まで飛んでいく。
俺たちにはもちろん、町の建物にすらダメージを与えられない。
「おのれぇっ、水流破!」
リヴァイアサンは呪文を唱え、津波から魔法攻撃へと切り替えようとする。
が、その魔法も俺の『封絶の世界』によって発動すらさせない。
物理でも、魔法でも、奴の攻撃手段は完全に封殺していた。
後は、こっちの攻撃で仕留めるのみ。
「ここは私が──」
飛び出したのは、ルカだった。
手にした『戦神竜覇剣』が長剣から大剣へと変形し、
「絶技、戦天殺!」
赤光の斬撃が、リヴァイアサンの巨体をいとも簡単に両断した。
それで、勝負ありだった。
LS級の魔獣といえど、連携すれば敵じゃない。
「ば、馬鹿な……強すぎる!」
「リヴァイアサンがこうもあっさりと──」
おののく魔族たち。
「ええい、ひるむな! 我らは栄えある魔王様の軍勢! 人間などに──」
そのうちの一体が、仲間を鼓舞する。
魔王の……軍勢?
俺は眉を寄せた。
いや、考えるのは後だ。
まずこいつらを退けないと。
町のみんなを護るために。
その後も、俺たちの戦いは続いた。
防御面は俺が受け持ち、攻撃はリリスとルカ、サロメのコンビネーションで次々に魔族や魔獣を打ち倒していく。
ほどなくして、タイラスシティに押し寄せた魔は全滅した。
特に苦戦らしい苦戦もない完勝だ。
「やったね、ハルト」
「全部片付いた」
「護ってくれてありがと、ハルトくん」
リリスが、ルカが、サロメが、俺の元に寄ってきた。
どうにか町を守ることができたみたいだ。
そのことに俺も安堵する。
だけど魔の者たちは、世界中を襲っているはずだ。
もちろんアドニスの他の都市にも。
「加勢に行ったほうがいいかもしれないな」
つぶやいた、そのとき、
ずおおお……んっ!
轟音とともに地面が激しく揺れた。
まるで地震だ。
前方でもうもうたる土煙が巻き起こる。
その向こうにうっすらと──信じられないほど巨大なシルエットが見えた。
今度はなんだ──!?
「あまり調子に乗るなよ、人間ども」
現れたのは、岩石の巨人だった。
「お前は──」
かつて、六魔将メリエルを巡る戦いで相まみえた六魔将ビクティム。
物理でも魔法でも高い攻撃力と防御力を兼ね備えた強敵だ。
「強化された儂は──彼らとは一味違うぞ」
ビクティムがうなる。
「強化……?」
復活したガイラスヴリムたち六魔将も、そして攻め入ってくる魔族や魔獣も。
軒並みパワーアップしている。
じゃあ、やっぱりビクティムもそうなのか。
「……気配が違うね、こいつ」
つぶやいたのは、サロメだった。
「えっ」
「前に会ったときとは、どこかが……」
「魔力が上がっているのは、確かね」
と、リリス。
「かなりパワーアップしているみたい」
「それだけじゃない。妙な雰囲気があるの」
サロメがわずかに眉を寄せる。
「嫌な感じがする──」
「だとしても、奴の攻撃は俺が完封する」
俺はリリスたち三人に告げた。
「大丈夫だ。どんな相手だろうと──」
「守りは、ハルトを信じる。攻めは私たちで」
ルカが長剣『戦神竜覇剣』を手に進み出た。
「そうね」
「りょーかい」
リリスが黒い杖を、サロメがナイフを構える。
ルカ、リリス、サロメが総攻撃をかけた。
だが、
「刃が通らない……!?」
「魔法も効かないなんて──」
「これじゃ、ボクのナイフじゃ無理だね」
ルカとリリスがうめき、サロメが肩をすくめる。
やっぱりビクティムは、前とは違うのか。
岩のような体は、黒い輝きでコーティングされている。
それが防御力を増大させて、ルカの剣もリリスの魔法も弾いてしまうらしい。
「絶大な防御力は、君の専売特許ではない──ということだ」
ビクティムが静かに告げた。
「そして攻撃力ならば、儂は君たちをはるかに凌ぐ──受けよ、雷撃斬!」
魔族の雷撃魔法は、俺たちではなくビクティム自身の体に降り注いだ。
自爆──?
いや、違う。
「さあ、食らうがいい」
言ったビクティムの体が砕け散った。
その全身が無数の岩塊と化し、襲いかかる。
さながら岩の矢か、雨か。
まさしく視界一面が岩石で覆われる感じだった。
避けられるような物量じゃない。
しかも一つ一つの岩塊が雷撃をまとっている。
物理と魔法の二重攻撃だ。
「君たちに逃げ場はないぞ、人間。そして魔の雷撃を帯びた我が体はすべてを潰し、焼き尽くす」
「──どうかな」
俺たちを取り囲んだ岩塊は、しかし──あふれた黄金の輝きによって、あっさりと弾き飛ばされる。
「これだけの質量でも、魔力でも、効かないだと……!?」
驚きの声とともに、無数の岩塊はふたたび一つに集合し、巨人の姿に戻る。
俺の『封絶の世界』は不可侵そのもの。
どんな攻撃だって通しはしない──。








