4 「すっかり冒険者らしくなったな」
「俺が防御魔法でこの町全域を守ります。みんなは家の中から出ないで!」
ざわめく町の人たちに、俺はそう指示を出していた。
周囲には金色の光が満ちあふれていた。
防御スキル──町の人たちへは魔法だと説明しているが──『封絶の世界』を、すでにタイラス・シティ内に展開しているのだ。
このスキル形態は、俺が護りたいと願った対象を自動で防御してくれる。
町の外に出ないかぎり安全なはずだ。
とはいえ、『絶対にダメージを受けない』俺自身はともかく、他の人たちをどれくらいの精度で防御できるかは未知数だった。
とにかく、魔の者たちの狙いをできるだけ俺に引きつけたい。
「すっかり冒険者らしくなったな……」
「ハルトがこんなに立派に……」
父さんと母さんが俺を見て、感慨深げにつぶやく。
以前にも町を襲った魔族を撃退したことがあるし、ここ最近も頻発する魔の出現に対応している。
けど、ここまで大規模な魔の攻勢は初めてだ。
少しは、息子を頼もしく思ってくれてるのかな?
「俺たちで町を守るよ。安心して、父さん、母さん」
俺はにっこりと笑ってみせた。
「絶対に守りきる」
父さんや母さんが、そして町のみんなが少しでも安心してくれるように。
だって、俺が得た力はそのために使うんだから。
俺は、そのために冒険者になったんだから。
リリスやアリスと初めて会ったとき、二人がそうしてくれたように。
俺もすべてを懸けて、この町を──みんなを守ってみせる。
「後は頼む」
「みなさんも気を付けて」
両親がリリスたちに一礼し、去っていく。
しばらくして、町の人たちは役場などの公共施設内に避難を終えた。
──実際問題としては、俺のスキルが町の全域を覆っているから、どこにいても安全だとは思うけれど。
実戦は何が起こるか分からない。
できるだけ少ない箇所に集まってもらったほうが、守りやすい。
俺はリリス、ルカ、サロメとともに大通りに立った。
前方からは、町中に降り立った数十の魔族や魔獣の姿がある。
「俺のスキルで──いや、防御魔法で全員を守る。リリスたちは攻撃に専念してくれ」
と、リリス、ルカ、サロメの三人に説明した。
いつも通りの、シンプルな戦型。
これが今の俺たちにとっての、最強のフォーメーションだ。
「うん、信じてるから」
「了解」
「頼りにしてるからね、ハルトくん」
リリスたち三人から微笑交じりの返事が来る。
ほどなくして、戦いが始まった。
ルカの剣が、リリスの魔法が、サロメのナイフが──。
迫る魔の者たちを次々と屠っていく。
向こうの攻撃は、俺を中心に広がる黄金の輝きがすべて遮断する。
何しろダメージを受ける心配がないから、一方的な展開だ。
リリスたち三人がひたすら攻撃し、魔の者たちはあっという間にその数を減らしていった。
スポーツに例えるならワンサイドゲームといった感じである。
「いける……!」
俺は手ごたえを感じていた。
このまま何事もなく完全に押し切れそうだ。
そう思った瞬間──、
周囲に蒼い輝きが、弾けた。
「これは──!?」
全身がぞくりと粟立った。
明らかに他の魔族や魔獣とは違う気配。
すさまじい威圧感は物理的な圧力さえ伴い、周囲の空間が歪む。
大地が割れ、突風が吹き荒れる。
次の瞬間、全長百メティルはあろうかという巨大なシルエットが降り立った。
まるで、山だ。
「いつまでも調子に乗るなよ、人間ども!」
全身に蒼い水流をまとった、竜とも蛇ともつかない生物が吠える。
「伝説の──蒼海魔獣!」
リリスがうめいた。
「リヴァイアサン?」
「S級をさらに超えたLS級の魔獣──本来なら神話や伝説にしか出てこないクラスの、魔の者よ」
説明する彼女の顔には緊張感が濃い。
以前の大規模クエストで戦った火焔鳳凰と同レベルの相手、ってことか。
「なら、問題ない」
「えっ」
「俺が奴の攻撃を完封する。リリスたちは攻撃を頼む」
と、三人に説明する。
「LS級っていっても不死身じゃない。現に、前のクエストでは俺はサロメたちと一緒に同レベルのフェニックスを倒しているからな」
確かにLS級の攻撃力は絶大だ。
最強の魔獣と呼ばれる竜すらも凌ぐほどに。
だけど、どれだけ強大な攻撃も、俺の『封絶の世界』の前には無力。
なら、後はリリスたち三人が一方的に攻撃し、一方的に削り続けることができる。
どれだけ強大な力を持っていようよ、敵じゃない──。
「ハルトが護ってくれるなら……そうね」
「相手がLS級でも戦える」
以前に戦ったサロメはともかく、リリスとルカは緊張の面持ちだったが、俺の説明を聞いて、その緊張もほぐれたみたいだ。
「叩き潰してやるぞ、人間ども」
リヴァイアサンが巨体をうねらせながら、俺たちに向かってきた。
長い胴体で押し潰そうとする。
が、弾けた黄金の輝きがそれを易々と跳ね返した。
百メティルを超える巨体が大きく吹き飛ばされる。
「天殺焔陣!」
すかさずリリスが火炎呪文を放つ。
並の魔獣なら塵一つ残さず燃やし尽くすレベルの魔法は、
「そんな程度で!」
しかし、リヴァイアサンが展開した水流の壁に遮られて消滅する。
「単なるデカブツかと思ったら、水の魔法も使うのか」
「あたしの超級魔法も通らないみたいね」
つぶやく俺に答えるリリス。
「なら──魔法の発動自体を封じる」
俺は精神を集中した。
融合発動──再設定開始。
標的周辺に二種のスキルを同時展開。
第二形態で魔法発動封印。
第四形態で物理攻撃封印。
対象が攻撃に移る瞬間に自動照準、二種同時発動。
再設定完了──。
自動で発動するスキルの種類を再設定する。
これで、奴のすべてを封じてやる──。
「リリス、もう一度だ!」
「天殺焔陣!」
俺の合図を受けて、リリスがふたたび火炎魔法を放った。
「無駄だ、人間ども。貴様らの攻撃などいくらやっても──」
リヴァイアサンは巨体をひねり、先ほどと同じく水流の壁を生み出そうとする。
「……何っ!?」
が、今度は何も起きない。
俺のスキルによって奴の周囲だけ魔法の発動を封じているからだ。
ごあぁっ!
リリスの火炎はそのままリヴァイアサンの胴体部に命中し、燃やし尽くす。
絶叫とともに、LS級の魔物が倒れた。
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